18.私、フリーズ
「いやー、さすがに疲れた」
私はPCの画面から目を離し、首を振る。今日は起きてすぐPC立ち上げて、ずっと色々検索していた。引越物件の検索である。
関東に引き上げるに際して、色々考えてみたけれど、こっちに来るまで住んでいた都内ではなく、実家のある田舎に戻ることにしようと思った。今回のことで色々疲れ果ててしまったのもあり、ちょっと田舎に戻りたくなったのだ。
この半年間、近しい人間関係が全くなかったせいで、そういう触れ合いに飢えてもいる。これも又関西に来たことが原因で、これまでの友人関係はほぼ全部切れた。
山霧はけっこう私の友人にも共通の知り合いが多く、そのためほとんど誰にも説明できないまま、引越しするしかなかった。だって結局見た目には、ただの不倫でしかなかったのだから。
そういうわけで、普通に見たら、今の私は友達も恋人も仕事もない、正に最悪の人生というわけだ。これも奴の計画だったかも。でも、今となっては、私自身、これまでの友人たちと昔のように付き合いたいと思っていないことに気がついた。
逆に全くゼロから始めた方がいいかもしれない。そう思えるほど、良くも悪くも私の中でこれまでとは何かが大きく変わってしまったのだ。今はそのことにも特に何の感慨もない。そういう余裕もないと言う方が正しいのかもしれない。
・・とにかく、私の再出発には、実家に入るのではなくて、あくまでも自分で暮らす部屋を借りて始めたい。その方がいい距離感で家族とも付き合えそうだし。私は大学を出てすぐに実家を出ているのでそれ以来の近さになる。
手始めに実家の近隣の市の物件を検索して、候補物件の不動産屋にメールで何件か問い合わせをして、今日の仕事はひとまず済んだ。
いつになく、夢中で一つのことに取り組めたことが嬉しかった。ちょっと疲れてしまったので、気分転換に好きなサイトを見ることにする。
久しぶりにお気に入りの石関係のショッピングサイトを開く。又色とりどりの古代ガラスが新しくアップされていて、見ているだけでテンションが上がる。私は一つ一つ丁寧に眺めて楽しんでいた。
「ん?・・これは・・!」
突然、私はフリーズした。なぜなら・・古代ガラスのペンダントヘッド、その中の新商品の一つが、どう見ても、リアがラドゥにもらったスカイブルーの光石とかいうものに石の形と色合いといい、シルバーで縁取られた枠といい、瓜二つだったから。
「う、嘘だよね・・?あの光石までが時空を超えて私にまで波及・・?」
口に出しても荒唐無稽としか思えない。こんなこと誰かに話しても頭がおかしくなったと思われるだけだ。そういう意味では、ここに相談できる、親しい人がいなくてよかったかも。などと考え、気を紛らわせてみるが、目の前の画像は変わらない。それにしても・・。考えても答えなんか出てこないけど、なぜ、今私はここまで強烈で現実離れした体験をしているのだろう。
だけど、このペンダントは私が購入するしかないということだけはわかる。私の内側からそういう促しを感じる。魂か・・。私はもう半分自棄になって「購入」ボタンをクリックした。今、3万近い出費は痛いが・・仕方ない。
それから、もう本当に頭を冷やしたくて、お笑いの動画を見ることにした。動画の合間にウェブ専用のCMが入る。5分置きくらいに来るから結構邪魔なのだ。ほら、又。
ぼんやりとそのCM画面見ていた私は、またフリーズした。・・なぜか、画面いっぱいに白地にスカイブルーの文字で“春来市”って表示されたから。なんだ、これ。こんなCM見たことない。しかも、この市は、確か、我が実家がある県にあったはずなのだ。
自治体の地方CMがたまたまこのタイミングでかかったと?まさか、これも、私へのメッセージだったりするのか。・・私はもう本当に降参!という気分だった。




