小学校の入学式 (5)
日間ランキングで2位になったり総合ptが1000を越えたりと、色々と困惑しております...。私の作品なんかを見てくださってありがとうございます!
「____です。よろしくお願いします」
パチパチパチパチ
僕の二つ前の女の子の自己紹介が終わり、その後にまばらに聞こえてくる拍手の音。次の次は僕の順番なので、席から立ち、発表をする場所である教壇の横に立って順番にそなえる。
僕が動いて移動しただけで、弛緩していた空気は僕に対する期待や興味といった空気へと変わる。
空気が変わったせいで今自己紹介している人はやりにくくなっているだろうと、喋っている日野さんを見ると、あまり気にしていない...というよりも、自分の事で精一杯なのか、気付いていないようだった。
「____これからよろしくお願いします!」
パチパチパチパチパチ
一つ前の女の子よりも大きくなっているように感じる拍手の音と、男に対して興味津々なこの空気、そして集まる爛々とした女の子の視線が僕をさらに緊張させる。
教壇に上がり、息を吸って、自己紹介を始める。
「皆さん、はじっめんま…」
…噛んだぁ!
「はっ、はじめまして。僕は古月 秋人といいます。皆さんとは違って僕は男なのですが、皆さんと仲良く楽しく過ごしたいので、性別なんて気にせず、話しかけてきて下さい。これからよろしくお願いします」
パチパチパチパチ!
僕が自己紹介を終えてお辞儀をし、教壇から降りると、今日一番の拍手が巻き起こった。僕はクラスの皆からの視線から逃れるように自分が出せる限界のスピードの早歩きで自分の席に戻ると、掌で顔を覆った。
顔が熱くなっているのがわかる。ああ最悪だ。土に埋まってそのまま死にたい。
直ぐにやり直しはしたが、絶対に誤魔化せていないだろう。っていうか僕のあの噛み方はなんだ...ふざけてるのか...ああ......。
僕は掌で覆っていた顔を机にゴツッと軽く打ち付け、うずくまった。
ーーーーーーーーーー
机に顔をうずくめて身悶えしていると、中田先生の声がした。なにがあったのかと顔をあげて話を聞くと、どうやら全員の自己紹介が終わったらしい。
やばい、全然聞いてなかった...。
...まあ、大丈夫...だろう。少しずつ覚えていけば。
今日やることはこれでほとんど終了、後は教科書の配布と下校だけらしく、今からランドセルに配られた教科書類を入れ、挨拶をして下校という流れのようだ。
前から流される教科書を受け取り、後ろに流す。それを何度も繰り返し、机に積み重なった教科書類をランドセルに入れる。
全員が入れ終わったか確認すると、先生が音頭をとってさよならの挨拶をする。
クラス全員が声を合わせて挨拶をすると、全員がばらばらになって帰る者、友達と喋る者などに分かれ、それぞれが自由に動くようになる。
僕は話すような友達が居ないことに加え、あまりこのクラスに留まっていたくはないので帰ることにする。教科書が詰まったランドセルは想像以上に重く、今の小さな体では走ったりジャンプすることが出来ない。
そのままよたよたと歩いて玄関へ向かうと、マリアと母さんがいた。
「マリアー!母さーん!」
周りの騒々しい音の中から器用に僕の声だけを聞き取ったマリアと母さんが、こちらへ歩いてくる。
「お疲れ、秋人」
母さんがそう言いながら、僕の頭を優しく撫でる。
ああ、癒される...。