小学校の入学式 (4)
僕は三組に向かっていた。女子は既に教室に入っており、これからの小学校生活を共にする仲間と雑談している。一組、二組を横切り、三組のドアの前で一度止まる。
こういうのは第一印象が大事だ。教室に入ってきた時点で生意気だったら、良い顔をして自己紹介をしたとしても話しかけにくくなる。ただでさえ男というのは話しかけにくいのにだ。そうなると、僕の一年生と二年生の生活は暗いものに...。そうはなりたくない。
ドアの前で深呼吸し、ドアの取っ手に手をかける。
いざ行かん!
ガラガラッ
「おはよー!」
ドアを開け、和気あいあいとした雰囲気の中、雑談を楽しんでいたであろう女の子達に挨拶をする。
...しん...
先程までは楽しげな声が聞こえていたのだが、一瞬にして誰もが話さなくなった。というか、動かなくなってしまった。
...あれ?
第一印象を良くしようと大きな声で挨拶をした結果、迎えてくれたのは静寂だった。
...あれ?僕何かやっちゃった?
「こっちは雑談してんだよ空気読め」ってこと?
僕の一年目真っ暗闇?
僕は教室を包む異質な静寂に戸惑い、自分の発言に間違いがあったのかと悔やんでいると、誰かがポツリと
「超カッコいい...」
と呟く様に言った。
すると、その言葉が皮切りになったかのように、この教室のほとんどの女の子が歓喜の悲鳴をあげた。他には呆然と僕を見つめて動かない子が二、三名ほど。
ああ、なんかこの光景に見覚えがあるような......あれだ、大人気アイドルのコンサートに来て、そのアイドルが登場した時みたいな感じだ。あの半狂乱になってサイリウム振って「キャー!!」とか叫んでるアレ。
女の子達はひとしきり叫んだ後、僕の周りを一秒足らずで囲んだ。
「凄いカッコいいね!」
「名前なんていうの!?」
「テレビの人よりかっこいい!」
「天使!天使!」
「ちゅーしようよ!ちゅー!」
「結婚しよ!」
僕の周りを囲んだ女の子達は、僕の手を握ったり肩を掴んだり背中から抱きついたりと、僕の体を触りながら必死に話しかけてくる。言っている言葉はとても可愛いのだが、やっていることはこっちの世界で言えば逮捕、または補導されるレベル。まだ小さいから良いのだが、ここで注意してあげないと、将来警察のお世話になるという事が起こってしまうかもしれない。
だが、男からキツく言われるとショックだと思うから優しく言ってあげないといけない。
「...男の子の体に軽々しく触ったら駄目だと思うな」
僕がニコッとした笑顔で優しくそう言うと、僕の体に絡みついていた腕はすぐに無くなり、更に僕が「わかった?」と聞くと、女の子達は一歩下がって「はーい!」と元気な声で返事をする。
純粋な良い子達でよかった。
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その後、すぐに僕たち一年三組を担当する先生がやって来た。
「三組を担当します、中田 明美と言います。よろしくお願いします」
「「「「「お願いしまーす!」」」」」
中田先生は綺麗な黒髪を後ろでしばった、少しつり目がちの先生だった。そしてこの世界の例に漏れず美人さんである。
中田先生が自己紹介をすると、続けて中田先生は話し出した。
どうやら僕たちも自己紹介をするらしい。出席番号順でやっていくらしいので、僕は28番目だ。ちなみにこのクラスの生徒数は40人ぴったりだ。
「はじめまして、私の名前は藍田 天音です。好きな食べ物は___」
おっと、一番目の人の自己紹介が始まった。何て言うか考えておかないとな。