小学校の入学式 (3)
僕たち男子の新入生総勢6名は、二列になって入学式の会場である体育館前の廊下を目指して歩いていた。
その七人の間に会話は微塵もなく、僕たちを連れている先生も心なしか息苦しそうだ。起こるアクションといったら、隣で歩いている黒雷君が時々睨んでくる位のもので、ここの空気は死んでいる。
そのまま歩いていると、女の子の長い列の最後尾が見えてくる。ここが体育館前の廊下だろう。
「つ、着きました。み、皆さんは女子とは別に並んで入場してもらうことになります」
「はい。」
返事を返したのは僕一人だけ。残りの六人は無視したり先生を睨んだり僕を睨み付けたりしている。まあ僕を睨み付けているのは黒雷君だけなんだけどね。
僕たちを連れてきた茶髪の先生が少し涙目になってしまっている。この世界の男って全員こんな感じで冷たいのかな?
すると、前の方で並んでいる女の子の列にちょっとした動きがあった。
さっきの先生の声と僕の声を耳に捉えた何人かの女の子が後ろの方、つまり僕たちの方を振り返る。
「「「ッ!」」」
「?」
僕たちの姿を捉えると、その数人の女の子は息を呑み、三秒近く固まった後、隣又は前後にいる女の子に声をかける。
ここからその声は聞こえないが、多分僕たちのことについて何か言っているのだろう。
その声をかけられた女の子は僕たちの方を向き、何秒か固まった後、他の女の子に広めようと話しかける。この連鎖が続いていき、小さなものだったざわめきもいつしか大きくなっていく。
列は段々と崩れ始め、時々僕たちの方を向いて「キャー!」とか「凄い格好いい男の子がいるー」とか「あの子とちゅーしたい」なんていう呟きが僕の耳に聞こえるようになる。
ちゅーしたいですか。いいね。小一の女の子のそういうのは。
...違うヨ、ロリコンじゃないヨ。
ただ、怒られるから静かにした方が....
そんなことが頭の中に思い浮かび、女の子達に声をかけようとする。
すると、僕たちを連れてきた気の弱そうな茶髪の先生が口を開いた。
「み、皆さん、静かにして___」
「黙りなさい」
茶髪の先生の声を遮って、列の前方、一番先頭の方から、声のよく通る凛々しくも氷の様に冷たい声が発せられる。その声は、威圧感をあたえ、従わなければ殺される____そんな未来を予想させるような声だった。
その声を聞いた女の子達は一瞬で静かになり、一糸乱れぬ動きで元通りの綺麗な列になった。
僕の前にいる茶髪の先生は小学生一年生の子達よりも怯え、直立不動になってしまった。
僕以外の男の子はビクッと驚き、女の子達と同じ様にピシッと綺麗な列になった。
黒雷君に至っては、涙目になって何故か手を額に当てて敬礼してしまっている。
生徒に恐怖を与える事をこんな簡単にやってしまう先生...怖い。
ーーーーーーーーーー
『新入生、入場』
司会の少し老けた女性の声を合図に、在校生の拍手が始まる。それと同時にBGMもかかり、少々騒がしい体育館にピカピカの一年生が入場する。
パチパチパチ
パチパチパチ
前列の女の子達がどんどん体育館に入場していく。
女の子達は緊張している子、緊張していない子の二つにだいたいが分かれている。緊張している子は凄くがちがちになっていて、可愛い。
僕は前世の入学式では緊張してたっけなー。それよりも回りに知っている子が居なくて寂しがっていた様な気がする...。
僕は緊張している女の子を見て、昔の事を思い出していると、女の子は最後の列になっており、ようやく男子の順番が回ってくる。
僕たちの前にいる茶髪の先生がお辞儀をし、体育館に足を踏み入れたのを見て、僕たちもお辞儀をして体育館へ入る。
(...広いな)
体育館は僕が前世で通っていた学校の物の二倍はあり、そんな体育館は在校生と保護者でほとんどが埋まっていた。特に在校生の数は凄まじく、千人いてもおかしくはないほどだ。
僕たち男子が入ると、拍手のボリュームは凄まじいものとなり、保護者からのカメラフラッシュでとても眩しかった。だが変な顔で写る訳にはいかないので、顔を歪めないように耐える。
歩いていると、拍手の音に紛れてひそひそ声が聞こえてくる。ちらりとイケメンという単語が出てきた事から察するに、僕達男子の新入生の顔について話しているのだろう。
......今の僕は変な顔をしてはいないだろうか?
そのまま数メートルを歩き、高そうな椅子に座る。女の子はパイプ椅子だというのに、男子は高そうな椅子だ。この世界での男子のもてなし具合がとても分かる...。
順調に式は進んでいき、最後のプログラムの、新入生の退場になった。
僕はずっと後ろからの視線を受けており、入学式の間、ずっと気になって背筋をのばしたままでいたので、疲れてしまっているのだ。
どうやら女子から退場の様で、そうなると当然僕たちは最後ということになる。
早くここから出させて...。
ーーーーーーーーーー
退場した後、僕たち男子は最初の部屋に戻ってきていた。朝からずっとお世話になっている茶髪先生の話によると、これからくじ引きでクラス決めを行うらしい。
「クラスは全部で五クラスあるので、一組に二人、二~五組までが一人ということになります...。では、じゃんけんで引く順番を決めてください」
なるほど。僕は別に何組でもいいなぁ。
ギロッ
...黒雷君は何故か僕のことを嫌ってるから、黒雷君と一緒に一組になるのは嫌かもなぁ。
「じ、じゃあ、じゃんけんしよっか」
「「「「「「さいしょはグー、じゃんけん...」」」」」」
「「「「「「ポン」」」」」」
僕はグー、黒雷君もグーで、その他は全員パー。
「クソッ!」
「やられた...」
「ん」
「うっし!」
「よし」
「...。」
勝った人と負けた人でじゃんけんをして、結局僕は一番最後になってしまった。
そのままくじを引いていき、黒雷君と僕が引く前に、一、二、四、五組のくじは引かれてしまった。
黒雷君が一組を引けば僕は三組になり、黒雷君が三組を引けば僕は一組になって、次回のクラス変えは二年後なので、一組のくじを引いた小柄な男の子と二年間過ごすことになる。
正直僕はどっちでも良いのだが、なんとなく面倒な臭いがするので三組の方がいい。頭の中で一組を引けと願う。
そして黒雷君が引いたくじは...
.........一組。
つまり、僕は三組行きが決定したのであった。
睨んでくる男の子の名前を黒雷君に変更しました。




