小学校の入学式 (1)
トーストを食べ終えた後、素早く歯磨きと着替えをし、家を出た。
どうやら入学式に来るのは母さんと姉さんはもちろん、メイドのマリアまで来るようだ。 ...デカイカメラを持って。
この家はとても広く、この家を「豪邸」と言う人は少なくないだろう。実際、僕がこの世界に来て初めて家の中を探索した時は広さと綺麗さにとても驚き、思わず感嘆の声を漏らしてしまったのを覚えている。
そんな家だから当然ガレージもあるわけで、僕たちはガレージに収められている、最大7人乗れる車に入った。
どうやら車は見た目も内装も普通のようで、前世のような一般的なところを見れた。こういう豪華な家で住んでいると、心から庶民的な僕は息詰まっていたので、少し安心する。
座る席の配置は、母さんが運転席、その隣の助手席にマリア、マリアの後ろに姉さん、姉さんの隣に僕、という配置で、姉さんはニコニコ笑顔で僕の体に寄り添ってくる。そんな姉弟の光景を母さんは鏡越しで微笑ましいものを見るように見てくるが、その隣のマリアはいつも通りの無表情で僕らを見ており、何を思っているのかわからない。
いつかマリアさんの表情から気持ちを読み取る事が出来るようになる日が来るのであろうか。
ガレージから出て小学校へ向かう。走っていると、ランドセルをかついだ小さな女の子とその保護者を頻繁に見かける。だが、大人の男性や男の子の新入生が見つからない。多分だが、僕と同じように車に乗っているのだろう。男というだけで軽い騒ぎになってしまうので、仕方がない。
車を走らせて約十分。僕がこれから通うことになる、桜木小学校の校門前に到着した。だが、ここは車は通れないようで、別の場所の男専用として準備されている駐車場に停めなければいけないようだ。
校門前から移動して車を駐車場に停め、駐車場から校門まで移動する。
ざわ...
ざわざわ...
人気の多い校門に近付けば近付くほど僕に集まる視線の数が多くなり、それと比例して頬を染めて僕を見つめる女の子と頬を染めて立ち尽くす保護者が多くなる。
こんな状況では、校門前で写真を撮る定番のアレが出来なさそうなのだが...。
「校門で写真撮るのは無理かな?」
「いえ、撮りましょう」
マリアはいつも通りの無表情と抑揚のほとんどない声でそう言うと、校門前で写真を撮っている人達の列に並ぶ。
男が並んでいるとわかった僕より前の列の人達は、即座に横にずれて僕たちにどうぞお進みくださいと言わんばかりの笑顔でこちらを見る。その光景は例えるならばモーゼの十戒。僕以外の三人は表情を変えることなく進んでいくが、僕はなんだか申し訳なく感じてしまう。
本当ならば確実に時間がかかるはずだったのだが、男の力を使えば一瞬の模様。
僕と母さんと姉さんは校門前に立ち、姉さんはとびきりの笑顔とピースを、母さんは隣から僕の肩を抱いて笑顔。僕は周りからの視線の集中砲火でひきつり笑顔。
僕の家族は精神が図太いっすねぇ...。
マリアは、ずっと首からぶら下げていた大きいカメラを僕達に向けて撮るかと思ったら、画面を覗いたまま僕に向けて
「...秋人様、もっと自然な笑顔をお願いします」
そう言った。やっぱり?
僕は周りのギャラリーを視界の隅っこに頑張って留め、顔がひきつらない様に笑顔を作り、パシャリ。
姉さんと母さんは写真が無事撮れた事を確認すると、マリアの持つカメラへ突っ込んでいった。
「マリアちゃん見せて!」
「マリア、見せてくれる?」
マリアと母さんと姉さんの三人は顔を寄せあって画面を見つめた。
「「おお...。輝いてる...」」
そこまで!?
僕も気になって画面を覗いてみると、そこには元気いっぱいの可愛らしい女の子(姉)と、綺麗な色気のある大人の女性(母)。その二人に挟まれて幼い自分。
僕、普通じゃない? まぁ前世よりかはカッコいいと思うけど...。
むしろ輝いてるのは姉さんと母さんじゃないかな?
その後、マリア、姉さん、僕の面子でも撮ったが、女子三人はその写真たちで何時間でも潰しそうだったので、僕は無理やりその手を引っ張って学校の中へ入っていくのであった......。