battle3 ジャイアンツvsタイガース(後編)
『!?!?』
「いてまえ打線ーッ! タフィ・ローズゥゥゥ! ブライアントの四打席連続ホーマーァァァァァッ!!」
オーイオイオイと涙で虹を描くがごとく、ギャン泣きする委員長。
よだれ、鼻水も雨あられ。なまじっか美人なだけに、泣き顔ひでえなあ。
ん? 近鉄バファローズだって?
「委員長、実は近鉄ファンだったのか?」
「えぐっえぐっ……。そうよ……、私は『狂牛病』に冒されし女」
いきなり何言ってんだ、この女?
「私は、BSEなのよ」
「いきなり何言ってんだ、この女?」
「どうして、いなくなっちゃったの! 近鉄バファローズになんの罪があったっていうの! ねえ、教えて! 教えてよーっ!!」
委員長は、俺をポカポカポカポカと叩きながら訴える。
そんなこと俺に言われても。
「大阪近鉄バファローズの結成は1949年、『近鉄パールス』という名前で出発した、近畿の鉄道会社がスポンサーの球団だったわ……」
おいおい、断りもなしに語りが始まったよ。
「当初期はシーズン103敗を喫するなどかなり弱かったし、『お荷物球団』『地下鉄球団』と言われ幾度となく消滅の危機もあったけど、少しずつ地力を蓄え、ついにはパ・リーグでも一二を争う実力と人気を備えたチームになったわ」
ふーん、球団合併の前からたびたび消滅のピンチがあったんだな。わりと強いイメージしかなかったけど。
「他チームとは一線を画す、10点取られても11点取って勝つ、打高投低・長距離砲の『豪打いてまえ猛牛打線』。チームメートがライオンズの『東尾修』をぶん殴っても謝るどころか肩を持ち、帽子とユニフォームのデザインがくそダサいなど、アクの強さで言えばさっきの阪神の比ではないわ」
ドヤ顔を見せる委員長に、緑野はすかさずツッコむ。
「ちょっと待ってくれないか、近鉄バッファローズが……」
「バッファローズじゃなくて、バファローズよ」
ギロリと睨みを利かす委員長。こまっけーな。
「近鉄バファローズが消滅したのは15年前。ボクたちはまだ2、3歳ぐらいではないか。どうしてそこまでの思い入れがあるのだ?」
「私の父が熱狂的な近鉄ファンだったの。私が小さい時に昔話をせがんだら、父はいつも近鉄バファローズの球団史を語ってくれたわ」
「たしかに昔の話だけれども」
「昔話の定義がな」
「だから、私にとって近鉄バファローズは血や肉のようなもの。私はバファローズ無しでは生きられないカラダなのよ」
なんか、言い方がエロいなあ。
「1980年の『10.7決戦』、ゲーム差0で優勝を逃した1988年『運命の10.19』、逆に前年の雪辱を果たした1989年。そして『タフィ・ローズ』『中村紀洋』のシーズン合計101本塁打コンビを擁し、代打北川の『代打逆転サヨナラ満塁お釣りなし本塁打』でリーグ優勝を決めた2001年! それこそ、近鉄バファローズは荒ぶる猛牛の戦いぶりで優勝争いに絡んできたわ。いつか日本一の称号を得る事を夢見て……」
しかし、委員長はガクーッと大きく肩を落とす。
「だけど2004年、突如降って湧いた『ブルーウェーブ』との合併話があれよあれよと進められ、選手会のストライキも虚しく『大阪近鉄バファローズ』はうたかたの夢のように消え去ってしまったのでした……。おろろーん!」
リアルにおろろーんって泣く人は初めて見たなあ。
「ねえ、近鉄が何か悪い事をしたっていうの? どうせ楽天が新規参入するのなら、球団売却でも良かったじゃないの! こんな理不尽が許されていいの!? あァァァんまりだァァアァ!!」
同じ野球ファンとして同情はするが、何が悪かったかと言うと、経営状態が悪かったのか、時代が悪かったのか。
さらにタイミング悪く、ガラガラガラーっと入口の扉が開いて、真白がうきうきしながらピ◯を買って帰って来た。
あ、その箱はファミリーパックじゃないか。
「お前、なんで24個入りを買ってくんだよ。食い過ぎじゃないか?」
「違うよ~? これは6個入りだよ~」
こいつ、もう4分の3食ってやがる。
「あれ? ゆかりん泣いてる~。どうしたの~?」
「お前が『球団を合併したら?』とか言うから、消えた近鉄バファローズの話になってんじゃねーか」
「え~? 近鉄バファローズって、なかよし合併して『オリッ鉄バファロェーブ』になったんじゃなかったの~?」
合併の仕方がおかしいぞ。
ヒュンッ! むにっ!
『!?』
その瞬間、風を切る音ともに、肉をつかむ音が教室内に響く。
委員長が真白の背中を取り、背後からふくよかな腹の肉をつかんでいた。
「うや~、ゆかりん? 何でわたしのお腹のお肉をつかむの~?」
「確かに『オリックスバファローズ』は表面上は対等合併という事になってるけど、実情は違うわ。2005年、合併後に発表されたユニフォームは、ロゴこそ『Buffalos』だったけど、まんまブルーウェーブのデザインだったのよ!」
むにっ、むにっ、むにむにっ!
「うや~」
「あの時、ファンが喰らった『近鉄オワタ』の衝撃は凄まじく、あれがトドメとなって、近鉄ファンは行き場を失ってしまったのよ!」
むにむにむにむにっ!
「うや~」
「しょうがないから、私は新規参入組のゴールデンイーグルスを応援しているけれども! あと、すっごいふわふわで揉み心地がいいわ!」
「おい、委員長。もうそれぐらいにしてやれよ」
真白の悲痛な(?)叫び声に俺は制止を促したが、あろうことか委員長は真白の胸をむにゅん! と黄金鷲掴みにした。
「あひゃ~?」
「……えっ!? ちょっと待って!? 黒田さん、あなたこんなにおっぱい大きかったの? 何カップあるの?」
「わたし~? Gカップだよ~?」
ざわ……。
ざわ……ざわ……。
それを聞いて、男子生徒のみならず、女子を含めたクラス全体がざわめく。
「私なんか未だにAだってのに……。何を食べたらこんなに大きくなるの? これはもう牛の乳……、いや、荒ぶる猛牛のおっぱいよ!」
むにゅん、むにゅん、むにゅむにゅむにゅん!
「うや~んっ」
「委員長、黒田さんが困ってるじゃないか。それくらいで止めてあげてくれたまえ」
「何、緑野くん? こんなけしからんおっぱいの肩を持つつもり? 実はあなたも巨乳派だったって言うの?」
「いや、黒田さんもそうだが、それ以上に鼻血を出したブルさんが出血多量で死にそうだ」
ドクドクドクドク……。
「あら、赤井くんが『太陽にほえーるず!』のジーパン刑事みたいになってるわ」
「わ~、あおいちゃん!? しっかりして~」
「がっはっはっ、黒田の乳はジャイアンツの『G』だったのか! そりゃ、ブルの下半身も、ジャイアンツになるってもんだぜえ!」
ピーッ!
「黄村くん、1アウト!」
「なんでだよ!」
「下ネタはダメよ。黒田さんを見なさい、両手でおっぱいを隠していやいやしているわ」
「キミたんのエッチぃ~」
「んだよ! そもそも、紫藤が黒田の乳を揉むからじゃねえか! さっきまで泣き喚いていたくせに急に仕切り出しやがって」
「さすがに、今回は黄村に同情を禁じえないな」
「じゃあ、そろそろ多数決を取るわ! ジャイアンツかタイガースか、近鉄バファローズ好きな人はそれぞれ集まって!」
*
「な……、なんじゃこりゃあ!」
俺が目を覚ますと、なぜか全身が血まみれになっていたので、思わずジーパン刑事のように叫ぶ。
さらに、見ると教室の中ががらーんとしており、黄村と緑野は負けた野球部員のように地面に突っ伏し、委員長はわんわん泣いている。
何? このカオス。
「あ。あおいちゃん、起きた~? おはよ~」
「ああ、おはよう。……じゃなくて、どうしたんだこれ?」
「実はかくかくしかじかで~……」
は? 多数決を取ったら、ジャイアンツファンもタイガースファンも、近鉄バファローズファンもいなかっただって?
しかも、サッカーファンとかは関係ないからって帰っちゃったって?
「マジかよぉ……。まさかジャイアンツの人気がそんなに無くなってたなんて……」
「関西圏じゃないからといって、ここまでタイガースの人気が無いなんて……」
「近鉄バファローズの『き』の字も知らないどころか、野球の人気すら失われていたなんて!」
うおおおおおん……と、むせび泣いている三人組。
うーん、今は娯楽は野球だけじゃないし、最近は野球中継も9時ちょうどで打ち切られたりしてるからなあ。
こりゃあ、俺にはどうしょうもないな。
「頼む真白、この場をどうにか収拾つけてくれないか?」
「いいよ~」
真白は軽く応えると、落ち込む黄村と緑野のところへぽよぽよ近寄る。
「キミたんもハヤとんも元気出して~。進撃の巨人さんと新喜劇の阪神さんは好敵手同士なんだから、ケンカしないで一緒に野球界を盛り上げたらいいんじゃないかな~」
お? 真白にしちゃあ、わりとまともな事を言ってんな。
あと、『新喜劇』も余計だな?
「ピ◯のファミリーパックも、『バニラ』『チョコ』『アーモンド味』と個性があるから美味しいんだし~」
「「お、おう……」」
ピ◯で例えるんじゃない。黄緑コンビも困惑してるぞ。
「まあ、対戦相手がいないと試合ができないしな」
「野球人気が低迷している以上、今こそお互いに切磋琢磨しないといけないのかもしれないな」
「それに、まだ野球人気が無くなった訳じゃないよ~。残ってるクラスメイトのみんな~。みんなはどこのファンなのかな~?」
真白が呼びかけると、残ったクラスメイトがそれぞれ答える。
『おれ、ホークス』
『オレもソフバン』
『ぼくはライオンズ』
『オレはカープ』
『日ハム』
まあ、地元だからホークス率が高いな。
そういや、2004年の球界再編問題以降、パ・リーグは地域密着型にシフトした結果、経営も球団の人気も上向いたって聞いたことがある。
あれも、一つの契機だったのかもな。
「ほらね~。まだまだ見てくれている人はいるんだから、頑張ってたらまた人気が出るはずだよ~」
「そうだな。なんやかんやで同じセ・リーグの仲間だもんな!」
「そうだな。『伝統の一戦』と銘打たれた、熱き戦いを見せてやろうぞ!」
ガシッ!
黄村と緑野はがっちりと握手を交わし、ここにジャイアンツとタイガースの争いは終わった。
まあ、多少ケンカするくらい熱いファンがいた方がいいよな。
今日の結論:野球界を盛り上げるために、ライバル同士仲良くケンカしな。
「これにて一件落着だね~」
「ああ、うまいこと丸めてくれて助かったよ」
俺は真白の頭をポンポンとなでる。これくらいやってもバチは当たらないよな。
「えへへ~」
「何が一件落着よ……。近鉄バファローズは何も救われて無いんだけど」
あ、忘れてた。
「う~ん、今の12チームから16チームくらいに増やして、新しい球団で『近鉄バファローズ』を作ったらどうかな~」
「もう、この際それでもいいわ」
新しい球団を設立して、オリックスバファローズから『バファローズ』の名前を取り返して……、やる事が山積みだな。
「じゃあ赤井くん、新球団の件はよろしくね」
「はあ? 何で俺が?」
「あなたも『牛』の名を冠する男なら、近鉄バファローズ復活に力を注ぐべきだわ」
そりゃ、俺は『怒れる闘牛』なんて異名を頂戴しているけれども。
「俺にそんな財力は無いぞ」
「そうだね~。あおいちゃんには暴力しかないもんね~」
何気にひどいこと言うな。
「ここは一つ、黒田さんのおっぱいに免じて頑張ってよ」
「わたしのおっぱいに免じて、頑張って~」
「お……って、アホか!」
ドキッとする事言うんじゃない。
思わず「俺に任せろ!」って言っちゃいそうになったぞ。
(おまけ)
「あおいちゃん……、わたしを甲子園に連れてって~」
真白はきゅむりんとした瞳(たれ目)で、俺を見つめてくる。
ドキッとする事言いなさんな、今すぐ野球部に入って甲子園を目指したくなるじゃないか。
「甲子園に行って、本場のたこ焼きが食べた~い」
そっちかよ。
「黒田さん、ちょっと待ってくれ。勘違いしているかも知れないがタイガースの本拠地、甲子園球場は大阪じゃなくて兵庫県西宮市にあるのだぞ?」
「あ、そうなの~? じゃあ、甲子園に行ったら本場の明石焼きを食べるね~」
やれやれだ。




