battle1 ビアンカvsフローラ(後編)
そういや、俺も聞いた事があるぞ。リメイク版で追加されたヒロインがいるといないとか。
たしか、名前は……。
「デブラ!」
「が~ん。ひどいよ、あおいちゃん。女の子に向かってなんて事いうの~」
よよよと泣き崩れる真白。
「いやいや、違う違う。お前にデブって言ったんじゃなくて」
「デボラの事かぁ? でも、あれは性格がアレ過ぎてちょっとな」
「ボクも好みのタイプでは無いな」
「デボラじゃないわ。ヘンリー王子よ」
「「「…………はあ!?」」」
ヘンリー王子って、良く知らないけど王子って言うくらいだから男だよな?
口をあんぐりする俺たちを尻目に、委員長は顔を上気させながら熱弁する。
「彼も主人公と幼なじみ。そして、10年間も奴隷という同じ境遇をすごし、辛い時も悲しい時も一緒にいたのよ。恋が芽生え、愛を育んでいてもおかしくないわ!」
「「「おかしいのはお前だ!」」」
まさか、あの委員長にこんな性癖があったとは。
いわゆる腐女子って奴か? 付き合い方を改めないといけないな。
「赤井くん、あなた三つ巴の戦いが好きだったでしょ? ヘンリー王子も混ぜてあげなきゃ可哀想よ」
「別に、三つ巴が好きって訳じゃないんだけど……」
「一応、ルドマンという選択肢もあるにはあるのだが……」
「ルドマンはおっさんじゃないの! 緑髪の美少年、ヘンリーじゃないと嫌よ!」
頼む委員長、帰ってきてくれ。
お前までおかしくなると、ツッコミが間に合わない。
すると、真白がぽむと手を打ち。
「そうだ、混ぜちゃお~!」
「は? 何を?」
「ビアンカさんとフローラさんを」
「はあ?」
何言ってんだ、こいつは。
「こう、細胞単位で混ぜてやって~、『フロンカ』さんを作ったらどうかな? そしたら、ビアンカさんもフローラさんも男の人も幸せになれるよ~」
「混ぜるって、どうやって?」
「……魔法とかで?」
竜クエにそんな都合のいい魔法があるのか?
さらに真白は、再びぽむと手を打ち。
「あ~、忘れてた! ヘンリー王子も混ぜてあげなきゃ~!」
「え? なんで、ヘンリーまで入ってくるんだ?」
「だって~、ゆかりんがヘンリー王子も混ぜてあげなきゃ可哀想だって言ってたもん」
「違う違う、黒田さん! そういう意味で言ったんじゃないわよ!」
「名前は究極生命体『フロヘンカ』でいい~?」
「人の話を聞きなさいよ!」
クリーチャーって言ってしまってるもんな。俺にはもうキングギドラみたいな姿しか思い浮かばないよ。
なんでこいつは、困ったら合成生物を作ろうとするのかねえ。
そういや、竜クエにもたしかキメラって敵がいたような……。
*
「え~、ゲームのお話だったの~?」
結局、ラチが開かなくなったので、もう一度おさらいをして真白に確認をしたところ、ようやく竜クエの中の話という事を理解してもらう事ができた。
「な~んだ。わたしはてっきり現実の人たちの話かと思ってたよ~」
「その割には、ドラ○もんとか魔法とか平気で言ってたよな」
「その竜クエ5って、セーブは何個できるの~?」
「冒険の書は……緑野、たしか3個だったよな?」
黄村はセーブデータを1個しか使わないクチなのか、緑野に話を振る。
「そのとおり! 3個は取れたと思われるぞ!」
「じゃあ~、結婚イベントの直前でセーブして~、それぞれと結婚するデータを作ったらいいんじゃないかな~。疑似的にハーレムが作れるよ。チートでハーレム万歳、いえ~い」
「だから、いえ~いじゃないっての」
でもまあ、落としどころとしては、それが一番無難かな。
黄村も緑野もそうしてみるって言ってるようだし。
現実の世界にも、セーブデータがあればやり直しが利くのになあ。
今回の結論:セーブデータを複数使って疑似ハーレムを作ろう。ただし、主人公とヘンリー王子が結ばれることは多分ない。
「ところで~……、あおいちゃんはビアンカさんとフローラさんはどっちがお好み~?」
「俺か? オレは別にどっちでも……」
「さっき大っきな声で言ってなかった? 幼なじみが幸せにならない物語なんて、俺は認めない~って」
「え……」
こいつ……、俺のセリフを聞いてたのか?
「こうも言ってなかった? 幼なじみ同士はくっつくもんだって。それって、どういう意味なのかな~?」
「え、いや、あれは、世間一般的にそういう話の方が受けるって意味で……」
「ふ~ん?」
真白は大きな瞳で見つめながら、俺にせまって来る。顔が近い、近い。
そして、真白はニカッと笑うと。
「あおいちゃん、今日は一緒に帰ろ~っ」
「なんで、お前と帰んなきゃなんないんだよ」
「おうちがお隣同士なんだよ? たまには一緒に帰ろうよ~。あんまり遅くなると、変質者が出るかもしれないから、あおいちゃんに守って欲しいな~」
「遅くなるのは、お前が道草して買い食いばっかしてるからじゃないのか。どうせ、次はフライドポテトを食うんだろ?」
「なんで、分かったの~? エスパー?」
驚いたように目を丸くする真白。
お前の事は、何でもお見通しなんだよ。何年いっしょにいると思ってんだ。
「さっき羊羮食ってたから、次はしょっぱいもんだろ?」
「あおいちゃん、わたしの事よく分かってるね~」
そう言いながら、真白は俺の手をぐいぐい引っ張っていく。
楽しそうに振り返る真白の姿は、窓から差し込む夕日を受けて金色に輝き、その笑顔はとても綺麗で。
こいつ、色白でほっぺたもマシュマロみたいだけど、正直美人なんだよな。普段はパンダにしか見えないけど。たれ目だし。
握られた手が柔らかくて温かくて、なぜか焦る。
やっぱり、俺は…………。真白の事は苦手だな。
「んじゃ、俺たち先帰るわ」
「じゃ~ね~」
「ええ。また明日ね、おふたりさん」
「おう」
「さらばだ!」
3人が俺たちを見送る視線が、『リア充爆発しろ!』と言ってるような気がしたが、たぶん気のせいだろう。
俺は教室を後にした。
*
「ちなみにあなたたち、『最後になるファンタジー7』のヒロインはどっち派?」
「SF7なら、ティファだな。幼なじみだし、乳も太てえし」
「ふっ、サイファン7ならエアリスだ。見た目は可憐だが、性格もしっかりしているからな」
「対照的ね。あなたたちの女性の趣味が、よーく分かったわ」
「にしても、ブルと黒田。あれで付き合ってねえんだからな」
「とっとと付き合えば良かろうに、じれったいな全く」
「まあ、幼なじみ同士って、私たちには分からない何かがあるのかもね」
「でもよ、ブルの奴はっきりしないのが嫌いって言いながら、自分が一番はっきりしてねえよな」
「「そだねー」」
「さっ、部活行くか」
「ボクも部活だ」
「私が委員長だけど、このクラス……先が思いやられるわ」