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battle1 ビアンカvsフローラ(前編)

 挿絵(By みてみん)

 扉絵 by 砂臥 環 様

 キーン、コーン、カーン、コーン。

 ここは空振(からふる)高校、時は放課後。


(あか)()くん、ケンカの仲裁を頼みたいんだけど」

「またかよ」


 俺は下駄箱に靴を戻し、内履きに履き直すと頼みごとをしてきた女と共に自分のクラスへもどる。

 呼び止めて来た、紺色ブレザー姿の三つ編みメガネ女は学級委員長の()(どう)ゆかり。

 見た目どおりのかっちりした委員長キャラで、クラスを仕切るご意見番だ。


「帰り間際にごめんなさいね、こんなこと頼めるのはあなたしかいないものだから」


 委員長は言いながら、メガネを片手でくいっと上げる。

 まあ、女性に頼られるのはやぶさかではないが、俺が最適任という表現は間違っているぞ。


()(しろ)はどうした? 仲裁ならあいつが一番うってつけだろ?」

(くろ)()さんは見かけなかったから、もう帰ったんじゃないかしら? それに、彼女だと確かにケンカは収まるけど、結論がうやむやになるからスッキリしないのよね」

「まあ、同感だな」


 あいつはトイレの張り紙で良く見る、『世界人類が平和になりますように』を本気でスローガンにしているような女だから、正直俺も苦手なんだよなあ。


「で、ケンカをしてるのは?」

「黄緑コンビよ」

「また、あいつらか……」


 ウチのクラスの()(むら)緑野(みどりの)は、仲が悪くしょっちゅう意見が対立している。

 どっちも良いガタイしてるし、2人がガチでケンカを始めたら止められる奴は俺しかいないだろうな。


「そんな訳で、今日もお願いね」

「はいはい、分かりましたよ」


 やれやれといった雰囲気をわざとらしく見せながら、俺は教室の扉を開ける。

 そこは見慣れた教室のはずだったが、天が割れ地が裂ける、龍虎の戦いが繰り広げられていた。


「今日という今日は、てめえの息の根を止めてやるぜぁー!」

「ふっ、実に美しくない。そのセリフ、そっくりそのまま貴様に返してやろう!」


 奴らの拳と拳が交錯しようとするタイミングで、俺は2人の間に割って入る。


 ドゴオッ!


「うぼあっ!」


 俺は2人の巨漢のうち、ゴツい方の土手っ腹に正拳突きを叩き込み。


 ボゴオッ!


「ぐわあああっ!」


 もう一方のスマートな男を後ろ蹴りでぶっ飛ばした。

 ドカンドカンと壁に叩き付けられる2人。


「ブ、ブル……」

「ブルさん、いきなり何をするのだ……」

「何があったかは知らないが、暴力で解決しようとするのは良くないぞ!」

「「お前が言うな!」」



 *



「で、何がケンカの原因なの?」


 委員長は2人に正座を申し付け、理由を問いただした。

 俺は教卓の上にあぐらをかいて、大人しく並んで座る黄村と緑野を見下ろす。

 ちなみに、オレから見て左側の短髪ゴリマッチョが黄村。右側の茶髪のイケメン細マッチョが緑野。

 こうしてると、俺よりも二回りほどデカい奴らなのに、ずいぶんと小さく見えるな。


「こいつが、結婚するならフローラが良いとか言いやがるからだ!」

「なぜ、ビアンカなどと結婚しなければならない!」

「「…………は?」」


 2人の言葉に、顔を見合わせる俺と委員長。


「ビアンカ、フローラって、あの超大作RPG『竜のクエスト5』の?」


 委員長の問いかけにコクリとうなずく黄緑コンビ。

 『竜クエ』の事はあまり知らない俺でも、ビアンカとフローラの事は知ってる。

 確か、物語の中盤で主人公がどっちかと結婚するんだっけ? そんで、どっちを相手に選ぶかでファンの間で大論争が起こってるとか。

 それを聞いて、委員長は大きなため息をつく。


「あなたたち、よくそんなしょうもない事でケンカできるわね」

「「しょうもなくなんかねえ(ないぞ)!」」


 おお、ハモった。意外と息ピッタリじゃん。


「ビアンカはメインヒロインだ! 公式が認めてるなら、嫁はこいつしかいねえだろうが!」

「ふっ、あのおてんば女のどこがメインヒロインというのかね! 可憐でおしとやか、フローラさんの方がよっぽど結婚相手にふさわしい!」


 がるるるると猛獣のように唸りながら睨み合う黄村と緑野。

 こいつら、ホントしょーもない事でケンカするなあ。

 前回は犬と猫どっちがかわいいかで、その前は赤いたぬきと緑のきつねで揉めたんだっけか?


「ていうか、なんで竜クエ5なの? 今さら?」

「最近はリメイク版もあるからな!」

「ふっ、名作は悠久の刻を越えて、遊び継がれるものさ」


 まあ、RPGやらない俺でも竜クエの事は知ってるぐらいだからなあ。


「ブル! てめえも、竜クエ好きだよな!」

「いや、俺はアクションか格ゲーしかしないが」

「正気かブルさん? 貴様、人生の99%は損してるぞ!」


 多いなあ、人生ほぼ丸損じゃないか。

 あ、『ブル』ってのは俺のあだ名ね。


「あなたたちの言い分は分かったわ。じゃあ、ビアンカとフローラ、どっちが結婚相手にふさわしいかプレゼンしてみなさいよ」


 よしきたとばかりに、腕まくりをする黄村と緑野。


「なあ、俺もう帰っていいか?」

「だめよ! また2人が殴りあいを始めたらどうするの?」

「えー……」


 結局、今日もガッツリ喧嘩に巻き込まれる俺。

 しょうがない、また審判役(レフェリー)をやらせてもらいましょうかね。


「では、ビアンカ派の黄村くん、お願いね」

「よっしゃあー! オレっちの魂のプレゼントをてめえらにおみまいしてやるぜぁーっ!」

「毎回言ってるけど、プレゼン()じゃなくてプレゼンね。あと静かにお願いします」


 壇上に上がるゴリマッチョの()(むら)(きみ)(ひで)は、柔道部所属の熱い男。

 見た目はいかついゴリラだが、義に厚い良い奴だ。

 暑苦しいけど、結構的を射た発言が多いんだよな。


「まず、ビアンカは幼なじみだ! 小さい頃に冒険を共にし、昔の思い出を共有するかけがえのない存在。それだけでもポイント高けえのに、青年期にはべっぴんさんになって再登場! こりゃあ結婚するしかあんめい!」

「はっはっは、笑わせてくれるわ! 顔だけで判断するなら、フローラさんの方が美人だと思うがね」

「緑野くん、プレゼンを遮るような発言は控えましょう」


 プレゼンの基本は最後まで説明を聞くこと。口を挟んだり、人の意見を否定するのは御法度だな。


「そして見ろや、このパッケージを! どう見てもメインヒロインはビアンカじゃねえか!」


 黄村は竜クエ5のパッケージを見せて、イラストのビアンカをぶっとい指でさし示す。

 この娘は見たことあるが、確かに気の強そうな美人だな。

 でも、それ先生に見つかったらボッシュートされるぞ。


「それに、ストーリーの面でもビアンカを選ばねえと、ダンカンが病気になってしまうし、小説やマンガでもビアンカ嫁ルートがほとんどだ! なら、その流れに乗るのが筋ってもんじゃろがい! これで、オレっちのプレゼン()は終わりでい!」


 うまく簡潔にまとめてきたな。しかし、ビアンカを嫁にしないと、たけし軍団のダンカンが病気になるのか……?


「ちなみに、ダンカンはビアンカのお父さんね。宿屋の主人をしているわ」


 ニヤッと笑みを見せる委員長。メガネの奥の瞳が光る。

 俺の心が読めるのか? 油断のならない女だな……。なんてね。

 委員長も竜クエは詳しいみたいだな。


「では、次はフローラ派の緑野くん、お願いします」

「はーっはっは、それでは皆のもの、ボクの華麗なプレゼンにおののくが良い!」

「余計な事は言わないで、プレゼンは端的にお願いします」


 次に教卓に立ったのは細マッチョの緑野(みどりの)葉矢斗(はやと)、バスケット部所属。

 ドーベルマンを思わせる精悍でシュッとしたイケメンだが、芝居がかったセリフ回しを好んで使う大仰な男。

 そのへんが黄村とぶつかる要因かもしれないが、理論的な発言は納得できるものも多いな。


「まず、フローラさんこそが最初の花嫁候補! 本来、主人公はフローラさんと結婚するために行動していたのさ」


 へえ、そうなんだ。


「結婚の条件として主人公は指輪を探していたのだが、そこでたまたまビアンカと再会し、そのせいで花嫁選びのイベントが起こってしまったのさ!」


 なるほど、正統な花嫁候補はフローラで、ビアンカが横槍を入れたって感じか?


「バカ言ってんじゃねえ! ビアンカも天空の勇者の子孫、花嫁候補の資格はあるだろうが! 泥棒猫呼ばわりするんじゃねえ!」

「ふっ、愚かなのは貴様の方だ! 犬の方が可愛いに決まっているだろう!」

「犬猫の件はこないだ終わったばかりでしょ。あと、プレゼン中は静粛にお願いするわ」


 すり変わりそうな話題を即座に修正する委員長。このへんはさすがの手腕だ。

 そういや、委員長はキリッとしてるしスレンダーだし、イメージは鶴っぽいな。まさに鶴の一声だ。


「そして、一度は決まりかけた結婚を、悩める主人公のために自分かビアンカを選ぶチャンスを与えたのだ。なんという寛大さ、ビアンカには到底できない芸当ではないか?」


 フローラは見た目だけでなく、性格美人でもあるのか。


「それに加えて富豪の娘であり、使える魔法もビアンカよりも強力。冒険の旅をする主人公のパートナーにぴったり、これ以上の女性はいるまい! 以上でボクからのプレゼン終わり! ご清聴ありがとう!」


 最後はお礼で締める心配り。ガサツな黄村とは違い、緑野はそのへんはしっかりしているな。


「委員長、ビアンカって性格はどうなんだ?」

「子供の時は男の子と喧嘩したり、お化け退治に出かけたりするおてんば娘だったけど、健気なしっかり者タイプよ」


 なるほど、2人とも美人で性格は良いのか。


「ブル! お前はもちろん、ビアンカだよな!」

「フローラさんに決まっているだろう!」

「赤井くんなら、どっちを選ぶ?」


 結論は俺に丸投げかよ。まあいい、答えは1つだ。

 俺は黄村の腕を取って挙げさせる。


「黄村ウィン!」

「うおっしゃあーっ!」

「なぜだーっ!」


 派手なガッツポーズで喜ぶ黄村と、信じられないといった表情で怒りの声を上げながら詰め寄る緑野。

 ならば、理由をそらんじようか。


「幼なじみは大正義!」

「は?」

2019.7.31追記:

砂臥 環 様よりFAを戴きましたので、扉絵として載せさせていただきました!

すながさん、ありがとうございます!

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