尾都VS霊斗
「さて、俺の出番だがすぐにくたばってくれるなよ?」
「怖いわねぇ、主さんの友人だから勝てる見込みは薄いけど、やれるだけやるわよ。」
そう言い尾都は着ている着物の袖から『お狐印』と別名がある九本の尾が描かれているように見える呪符を霊斗に投げ付ける。
「見た所、呪符を使って攻撃するタイプ……じゃねえな!!」
霊斗は腰に添えてある霊神剣・緋蒼翠藍と呼ばれる刀を抜いて呪符を斬ろうとしたが、呪符に仕込まれてあった術式を見て斬るのを止めて横にステップして回避した。
「あー、見抜かれたかぁ。流石は主さんの友人ね。でも横に移動したのは間違いよ。」
尾都は妖力で出来た糸を霊斗が移動した首の位置に設置していた。
「違うな尾都、敢えて移動したんだよ。弟子達にまだ見ぬ超技術や技を見せるためにな!」
霊斗は糸をしゃがんで避け、超スピードであちこち移動していた。
「何をするつもりッ!!」
尾都は霊斗の理解不能な動きに疑問を持ったがすぐにそれは解消された。なぜなら霊斗が移動した場所から斬撃の風が発生していたからだ。
「邪魔な糸は全て切らせてもらった。」
霊斗は首を鳴らしながら尾都に向かって言う。試合が始まってすぐに尾都はバレないように妖力の糸を霊斗の周りに張り巡らせたが、霊斗にはバレバレだったようだ。
「で、でたらめねぇ。」
「でたらめなのは尾都の方だろ。最初に投げた呪符に触れた物の存在を消す術式を仕込みやがって。」
「だって長期戦だと貴方に勝てる気がしないのよねぇ、だから短期決戦で行かせてもらうわよ。」
尾都はそう言い最初に投げた呪符の術式とは違う呪符を霊斗に投げ付け、その隙間を埋めるように妖力の糸を張り巡らせ、更にその隙間に弾幕を放った。
「おいおい、あんなの避けれるわけねえ。あっ、そこにあるサンドイッチ取って磔。」
「自分で取れよアルマ。あとパルスィ、アルマに注意しただけで殺気を飛ばすな。」
「私とアルマのイチャイチャタイムに水を差したからよ。」
試合を見ていた磔は食べ物を食べさせあったり、膝枕をさせあったりしているアルマとパルスィにサンドイッチを渡す。
「磔さん磔さん、尾都さんの能力って何ですか?」
近くに来ていた霊愛がもきゅもきゅとサンドイッチを食べながら磔に尋ねる。
「それはな霊夢、じゃなかった霊愛、『理を操る程度の能力』だそうだ。」
磔の説明を聞いてアルマとパルスィは首を傾げていたが、霊愛は不満そうな顔をしていた。
「お婆ちゃんと間違えないで下さい!!」
「いやだってな、霊夢そっくりなんだもんな。」
「「似てる。いや生き写し?」」
「そんな霊夢ちゃんそっくりな霊愛ちゃんの写真を撮りまくるぜ~!!」
霊愛が更に不満そうな顔になると、突然絢斗が現れて霊愛の周りをぐるぐる回って持参したカメラで写真を撮りまくっていた。
「け、絢斗さんやめてください!!」
「や~だね!!おっ、霊愛ちゃんの脇は霊夢ちゃんそっくりだね!足は頬擦りしたくなる足してますねぇ~!!」
「ど、何処を撮っているんですか!?」
「霊愛ちゃんのありとあらゆる所全部だ!!それが俺の使「止めろバカ。」あふん。」
絢斗が暴走する前に磔は傍に置いてあった木刀で絢斗を木端微塵に斬り裂いた。
「磔さん!?ちょっとやり過ぎですよ!!」
「心配すんな霊愛、どうせ絢斗は5分程度で復活する。っと話が脱線したけど尾都の能力の話だったな。まあ、あらゆる物事への最適解を求める能力と考えてくれればいい。」
「それでも、いまいちピンとこないわね。」
アルマはなんとなく分かったような雰囲気を出していたが、パルスィはまだ首を傾げていた。
「具体的には、相手の使う術や技術、能力についての真実や戦況に対しての未来予知じみた先読みだったり、現在の状況の違和感の追求や、現実と幻影の見分けなどだな。」
「かなり凄い能力ですね。もしかして戦闘以外でも使えたりするんですか磔さん?」
「使えるらしいぞ霊愛、なんでも遠出するときに一番近い道を選べるとか、最も美味しい分量を計るとかに使えるらしい。」
「その能力凄く欲しいわね。」
パルスィが磔の説明を聞いて羨ましそうに言ったが、それを聞いた磔は苦笑いを浮かべていた。
「パルスィと似たような事を尾都の主の妹も思ったらしく、能力をコピーしたらしいぞ。」
「無理矢理奪おうかしら?」
「やめとけやめとけ、尾都の主が率いるチート軍団に存在を抹消されかねないぞ?」
「パルスィにそんなことはさせねえよ。ところで磔、さっき霊斗が出鱈目に移動して風を起こしていたけど、あれなに?」
アルマがパルスィの口元に付いていたソースを拭きながら尋ねる。
「あれは『神風』と言ってな、縮地を使って高速で移動した後に、その移動した場所が風による斬撃が吹き抜ける技術なんだよ。」
「磔は使えるのか?」
「使えるけど、あんまり使いたくない。縮地と斬脚、さらには空歩の併せ技だから体力の消耗が激しいんだよ。」
磔がアルマに説明をした後、試合会場から固いもの同士がぶつかる音が響き渡った。
「尾都の尻尾は何で出来てるんだ?」
「それは教えないわよ。でも普段はもふもふよ。水流 海底急流。」
霊斗の霊神剣・緋蒼翠藍を尾都は尻尾で受け止めていた。それを見た霊斗は『斬脚』で尻尾を斬ろうとするが、その前に尾都がスペルカードを発動させる。
「うおっと、水責めかよ。俺以外に使ったら溺死するぞこれ。」
尾都は霊斗から距離を取り、霊斗の周りの空間に水を召喚する。それを見た霊斗は自分の周りに炎の弾幕を設置して自分の周りの水を蒸発させていた。
「水責めなんてことしないわよ。」
尾都はそう言い指で円を描くと、召喚された水が勢いよく回転し出した。
「面倒だな、分身 影の鏡。」
霊斗はスペルカードを発動させたが、何も発生しなかった。
「特に何も変化はなッ!!」
尾都はそう言い切る前に背後から霊斗の分身が迫ってきていることを能力で感知し、慌てて防御しようとするが間に合わずに分身の霊斗の蹴りを喰らって吹き飛ばされる。
「防御を選択したのは間違いだったな尾都。」
霊斗は周りの水を斬り裂いて分身を消す。その声に反応して尾都は立ち上がるが、既に満身創痍寸前だった。
「たった一撃受けただけでこんなになるなんてねぇ、暴風 竜の巣 。」
尾都はスペルカードを発動させ、巨大な風を召喚する。それを見た霊斗は面倒くさそうな表情になった。
「召喚か、けど俺には関係ない事だな!」
霊斗は尾都が何かしら行動を起こす前に『縮地』で尾都の横に移動して斬り掛かるが尾都はそれを尻尾で受け止める。
「ちっ、尾都の認識速度を越えたスピードで攻撃したんだけどな。」
「能力でわかるから対処は可能よ。」
霊斗と尾都は暫く尻尾と刀の鍔迫り合いをしていたが、不意に霊斗が小声で尾都に話し掛ける。
「気付いているか?」
霊斗に話し掛けられた尾都は霊斗の言葉の意味を理解して頷いた。
「気付いているわよ。そろそろ終わらせましょう?」
「全力は出すなよ?」
そう言い霊斗は尾都から距離を取って霊神剣・緋蒼翠藍を構えながらスペルカードを発動させる。
「行くぜ、切断 マスターソード!!」
「封鎖 拡散結界!!」
霊斗は霊神剣・緋蒼翠藍に膨大な霊力を流し込み、尾都に向かって斬り掛かる。それを尾都は自分の前に結界を張り、霊斗のエネルギーを拡散させようとする。
「霊力の拡散か、俺以外ならそれで正解かもしれないが、このスペルでそれを使ったのは間違いだな!」
霊斗は尾都が張った結界の効果でエネルギーが拡散される前に、結界を斬り裂いた。その後、もう一度結界を張ろうとする尾都に向けて『縮地』と『空歩』を使って尾都に近付いて体をまっ二つにした。
「再生しようとしても無駄だぜ?その再生の力を切断したからな。」
「勝者 博麗霊斗!!」
試合が終わった瞬間に霊斗は指を鳴らした。すると試合前の状態の尾都の姿が現れた。
「いやー、中々面白かったぜ?」
「改めて上には上がいるって思い知らされたわ。」
尾都は不貞腐れた顔で霊斗にそう言って観客席に向かって飛んでいった。それを見た霊斗はもう一度指を鳴らした。すると試合会場に磔と幻真の姿が現れた。
「最後の試合だ。クライマックスだから盛り上がって行こうぜ!!」
霊斗が観客席に向けてそう叫ぶと、観客席からは歓声が響き渡った。
「うへぇ、こりゃ下手な試合は出来なさそうだな。」
「そう、だな。」
「どうした幻真?そんな思い詰めた顔をして?」
磔が幻真に向かってそう言った時、幻真は腰に付けてある真神剣を素早く抜いて磔に近付き、首を斬り落とそうとする。
「っ!!」
だが磔も素早く木刀を抜いて真神剣を受け止め、幻真を蹴り飛ばそうとしたが、幻真に当たる寸前で蹴りを止めた。
「……何で無抵抗なんだ?」
磔が蹴りを止めた理由は、幻真が蹴りに対して防御も回避もしようとしなかったからだ。訳を尋ねる磔に対して幻真は悲痛の表情で声を出した。
「磔、俺を、殺してくれ。」
「はぁ?お前何を言って「想符 アクセルモード4。」マジかよ!!」
突然の幻真の言葉に困惑した磔の隙を狙って幻真はアクセルモード4の状態、赤と金が混じったオーラと同色に、髪の色を変化させ、『斬脚』を使って磔に斬撃を放った。
「ちぃ、『斬脚』!!」
磔も幻真と同じように斬撃を飛ばして相殺させる。だが、その際に発生した煙の中から幻真が突っ込んで来る。
「俺は殺されないといけないんだ!!殺されないと、殺されないと゛あいつら゛が!!」
「くそっ!!何がどうなってるんだ!?」
???
「フフ、滑稽だ。ざまあみやがれ白谷磔。」
幻想郷でも現想郷でもない空間である女性が磔と幻真の試合を見て顔を歪ませていた。
「貴女は、一体何者なんですか!?」
顔を歪ませている女性の近くに縄で縛られているハリスマリーがいた。ハリスマリーの問いに顔を歪ませていた女性はつまらなそうな表情になった。
「どうでもいいだろそんなこと。」
「よくないです!!貴女は誰ですか!?何で私を拐ったんですか!?幻真さんに何かしたんですか!?」
「キーキー五月蠅い小娘ね。でもいいわ、答えてあげましょう。我はガブリエル。偉大なる天使だ。」
ガブリエルはそこまで言うと、ハリスマリーの目の前に水晶玉を置いた。
「何のつもッ!!」
ハリスマリーが水晶玉を見て驚愕の表情を浮かべる。何故なら水晶玉にハリスマリーの世界の幻想郷が写っていたからだ。
「我はこれから白谷磔に関わった奴等を殺しに行く。勿論小娘も対象だ。」
ガブリエルはそう言い水晶玉を取り、手に力を込め始める。
「この水晶玉に写っている景色はこの水晶玉が割れると同時に消滅する。何を言いたいかわかるな?」
「や、やめてください!!」
ハリスマリーは自分を縛っている縄を必死に振りほどこうとする、それを見たガブリエルは高らかに笑った。
「恨むなら白谷磔を恨むことだ。だが、一つだけ小娘の世界を救う方法があるぞ?」
「な、何ですか?」
「小娘の命を我に寄越せ、そうすれば小娘の世界は消滅させないでやろう。何せ人間と吸血鬼のハーフは珍しいからな。」
ガブリエルにそう言われてハリスマリーは俯いた。自分の命を渡せば住んでいる世界は消滅されない。だが死にたくはない、でも死ななければもっと死ぬ人が増える。
「幻真さんにも、その提案をしたんですね?」
「察しの良い小娘は嫌いじゃない。ただ、どうせ殺されるなら白谷磔の絶望した顔を見させて欲しいから試合会場に戻したのだがな。」
ガブリエルの言葉を聞いてハリスマリーは暫し考え込んだが、涙を流しながら顔を上げた。
「わかりました、私の命を渡しますから、私の世界の人達に手を出さないで!!」
「よかろう、我は約束は必ず守る。」
そう言いガブリエルはゆっくりとハリスマリーの所に向かって歩いて行く。
「(私の命のここまでかな。でもしょうがないもんね。)」
自分が死ねば世話になった人達が死なずに済む、これが最善の方法だ、そうハリスマリーは思い込んで目を閉じた。
「そう怖がるな、痛みもなく殺してやろう。」
ガブリエルはそう言い、涙を流しながら目を閉じているハリスマリーの心臓を手で貫こうとする。
「(さようなら、皆。)」
「女の子が、俺を呼んでいる!!」
だがそれは突然来た斬撃によって遮られた。
「ッ!!」
「あり!?敵も女、じゃねえなクソ野郎だな。」
ガブリエルに斬撃を放った人物、それは相沢絢斗であり、絢斗はガブリエルを見た瞬間にヘラヘラとした笑みを消して睨み付ける。
「け、絢斗さん!?」
「また邪魔をするのか相沢絢斗!!何故我の邪魔をする!?」
ガブリエルは水のレーザーを絢斗に放つが、絢斗はレーザーを蹴り上げて何処かに飛ばす。
「んなことどうでもいいんだよクソ天使、てめえは女の子を泣かせた。だから邪魔をした。」
「ほざきやがれ!!前に我に何も出来なかった雑魚風情が、調子に乗ってんじゃねえぞゴミ虫がぁぁぁぁぁ!!」
「そのゴミ虫と呼んだ雑魚にてめえはこれから倒されるんだぜ?ゴミ虫なめんじゃねぇぇぇぇぇ!!」