その人形師、始祖神に立ち向かう
???
磔が見知った個室から出ると、そこにはテーブルに5人分の朝食があった。
「あっ!お父さんが来た!」
春姫がキッチンに向かって声を上げると、キッチンのドアから二人の女性が出てくる。
「やぁっと起きたのね、珍しく寝坊したみたいだから磔の寝顔を堪能したわ。」
「磔さんおはようございます。疲れが溜まっていたみたいですね。無理をしては駄目ですよ?」
最初に言葉を発したのは綿月豊姫、次に綿月依姫が磔を心配そうに見つめながら言う。
「豊姫と、依姫なのか?」
磔は未だに二人が目の前にいることを信じられなかった。会いたくても会いにいけない、なのに何故目の前にいるのかと。
「んもぅ、まだ寝惚けてるの磔?」
「夏姫、磔さんを目覚めさせてあげてください。」
「分かりましたお母様、ていぃ!!」
依姫の後ろから白谷磔と綿月依姫の娘である綿月夏姫が磔の背中を思いっきり叩いた。
「痛った!!そんなに思いっきり叩く必要はないんじゃないか夏姫?あたた……。」
「何時までも寝惚けているお父様が悪いのです。さあ席に着いてください!!」
夏姫が磔の背中をぐいぐい押して椅子に座らせる。磔はまだ疑問に思いながらも皆が席に座るまで食べるのを待つ。
「じゃあ席に着いたわね?朝食も食べて今日も頑張るわよ♪」
豊姫のその言葉の後に依姫、春姫、夏姫が朝食を食べ始める。
「ああ、そういうことか。」
磔は何かを納得したのか、朝食には手を付けずに一瞬だけ目を閉じる。そして再び目を開けた時、先程までの風景は無かった。
「やっぱり、こうなるのか。だから終焉の蒼騎士は使いたくないんだよ。」
磔の前にあるのは、空は灰色の雲に覆われていて、周りは建物だったものの残骸があちらこちらにあった。
磔はこの夢は見るのは初めてではない。終焉の蒼騎士を使った日の夜、眠りにつくと高確率でこの夢を見る。
「はは、もう見飽きた。この風景も、これからすることも。」
磔は廃墟の中を進むと、倒れている二人の女性がいた。その女性は、言うまでもないだろう。
「俺は一体、何回殺せばいいんだよ?豊姫、依姫。」
倒れている二人の女性は豊姫と依姫であり、二人の体が段々と黒くなっていく。それを見た磔は傍に落ちていた刀を拾い、二人の首を斬った。
この体が黒くなる現象は放っておくとこちらを見境なく襲ってくる。無表情で、無感情で。確実に殺さないと無理矢理体を動かして襲ってくる。
「俺の力で二人の体が黒くなる現象を治せたら、どんなに楽だった事か。」
磔達がこの現想郷に来た時、住人の殆どがこの体が黒くなる現象に襲われていた。治す手段はなく、能力を使っても駄目だった。そして、最終手段として住人を。何をしたかは想像出来るだろう。
「忘れられねぇ、二人の首を斬った感触、表情、仕草、どれもこれも全て忘れられねぇ。」
隣を見れば、これまで夢の中で殺してきた豊姫と依姫の死体が大量に積み重なっていた。それを見た磔は吐きそうになるのを堪える。
『これで、133回目だな?やはり貴様のその絶望に満ちた顔は素晴らしい。』
「てめぇ、姿を現せよ?ぶちのめしてやるからよ。」
謎の声に磔は答える。このやり取りも133回目になっていた。
『貴様には吾輩は倒せん。少なくとも、違う世界ではないと全力を出せないうちはな。』
「封印をさっさと解いてぶちのめしてやるよ龍神!!」
『ほう、吾輩をぶちのめす、か。その前に貴様が絶望に耐えられなくなって自殺するのが関の山だな!!精々頑張るがいい、そして嘆くがいい。もたもたしてると吾輩が貴様の妻達を取ってやるぞ?』
「ふざけやがってぇぇぇぇぇ!!!」
磔は天に向けて斬撃を放つが、この行為は全くの無意味。だが、この理不尽な現実に対する怒りを何処かにぶつけないと気が済まなかった。
『いいぞ、その表情だ。この無限に繰り返す夢を創った甲斐があった。これからも吾輩にその表情を見せてくれよ?』
寝室
「っは!!またこれか。」
磔は飛び起きるようにして布団から出て周りを見渡した。そこには静かないびきを立てながら寝ている幻真、なぜかパルスィと抱き合って寝ているアルマ、ニヤケ顔で寝ている終夜がいた。
「時間は、午前の4時かよ。また寝直すのも微妙な時間だな、外に出るか。」
磔は四人を起こさないようにして寝室を出て、木刀を持って外に出た。空はまだ暗いがうっすらと明るくなっていた。
「お前がこの時間に起きたって事は、またあの夢を見たんだな磔。」
磔が木刀を振ろうとした時、磔の後ろに霊斗が現れて質問を投げ付ける。それを磔は黙ることで霊斗の質問に答える。
「まあ無理もねえよ、あの超技術はリスクがでかすぎる。でも、極める価値は大いにある。」
「分かってるさ霊斗。けど、俺は何処まで強くなればいいんだ?目標がねえと心が折れそうだ。」
強くなって、強くなって、強くなって、まだ強くならなければならない。そうでもしないと世界どころか自分の周りの人達も守ることが出来ない。
磔はその事は充分に分かっている。分かっているのだが、ここまででいいんじゃないかという諦めがどうしても出てしまう。
「そうだな、残酷な事を受け入れる気があるなら教え「それは愚問だぜ霊斗?」ても大丈夫だな。」
霊斗はそう言い、地面にあった石ころを持って数字を書き始める。
「エンドナイトを使った状態の磔の強さを0.5とすると、あと最低でも3くらいまでいかないと駄目だ。」
「あんだけ修行して0.5かよ。」
「他の世界だったら磔の今の強さで充分な所は多いけどな。ここから先強くなるにはきっかけが大事になる。」
霊斗はそう言い持っている石ころを握り潰し、建物の中へと向かっていく。
「人間は無限の可能性を秘めているんだ。その可能性を引き出せよ?」
「アドバイスありがとな霊斗。」
「礼なんかいらねえよ。さっさと強くなって、俺と本気の勝負をさせてくれよ磔?」
次元の狭間
「おっはー!よく眠れたかな快く~ん?」
「いきなり何なんですか?人を勝手に次元の狭間に引きずり込んで?」
磔と霊斗が話している時、終作に無理矢理次元の狭間に引きずりこまれた快は少し不機嫌な顔で終作を睨む。
「おおっと、睨むのはやめてくれよ~?野郎の睨む顔なんかみたら、おえっ!!」
「人の顔を見て吐きそうにならないでください。それで、用件はなんですか?」
「ん~とね、用件はね、君を殺すことかな~?」
終作の言葉を聞いた瞬間に快は後ろに跳ぶ。快が後ろに下がったのと同時に先程まで快がいた所の下から上へレーザーが走った。
「おおっと、これを避けられるのか、やるねぇ。」
「いきなり何ですか?悪ふざけだったら僕怒りますよ?」
「悪ふざけじゃないぜ~?俺にしては珍しくまともな事をするつもりだぜ!快くーん、君の事は磔以上に評価しているんだぜ。」
そう言いながら終作はヘラヘラしながら予備動作なしで弾幕を快に放ち続ける。それを快は拳や蹴りで弾く。
「僕が磔以上に?お世辞は止めてくれないかな?」
「本気で言ってるんだぞぉ、快の潜在能力は俺が視ても底が見えないのさ、これって凄いことだぞ?おめでとう!」
終作の能力は全てを見る程度の能力であり、名前のまんまで、物事を干渉を受けない体質などを無視して全て見る事ができる。だが制約があり、一つの物事を1とすると全てで3つまでしか見れないという制約がある。
もう一つは次元を操る程度の能力であり、同じく名前のまんまで、時間の次元、世界の次元などといった次元を移動したりするために使われる。
もちろんこちらも制約があり、一つの次元を移動している途中で別の次元を移動することができない。時間の次元を移動している途中で世界の次元を移動することは出来ない。
「勝手に僕の情報を視ないでよ!!」
「怒った?快くーん怒っちゃった?めーんご!!」
「炎符 フレアバーナー!!」
快は終作に炎のレーザーを放ち、辺りを窺う。あの炎のレーザーで終作がやられるわけがないと直感で感じていたからだ。
「上手に焼かれました~!!」
だが、終作は移動しておらず、炎のレーザーに直撃したのか体から黒い煙をプスプスと出しながらにやけていた。
「いや~、ノーマル状態でもこの火力、侮れないね。けど、本気を出さなくていいのかな~?」
終作の言葉に快は自分が舐められてると思って拳圧をぶつけようとしたが、終作から得体の知れない力を一瞬だけ感じた。終作は半魔半神であるため、そのどちらかの力を感じたのだろう。
ちなみに終作は『始祖神』と呼ばれる神であり、その気になれば世界を余裕でどうにか出来る恐ろしい存在だ。性格は面倒な事や戦闘が嫌いな自由人のトラブルメーカーだが。
「……分かったよ、ここから全力で行きます。でもその前に1つ、どうして戦う事が面倒で他人に無理矢理押し付けてる終作が急に戦う気になったの?」
「快くーん君って意外と毒を吐く系かな~?まっ、年長者からのありがた~いアドバイスをしに来たって事かねぇ。」
「何か、ありがたみを全く感じませんけど!!」
快は自分の力を一瞬だけ無にして、それから終焉の橙騎士を発動させる。
「あれぇ?それって瀕死の状態じゃないと発動出来ないじゃなかったっけ!?」
「習得時はそうですけど、一度習得してしまえばそんなのは関係無く発動出来るんです!!」
快は橙色の闘気を放ちながら光速に近い速さで終作に近付き、拳で終作を殴る。
「おっはぁ~、強烈ゥ!!終作君は驚いちゃった!!」
「だったら、踞るなり痛がるなりしてよ!!」
続けて快は終作の全身に拳の乱打を放つが、終作は涼しい顔をして無防備の状態で快の拳を受けていた。1発1発が大地を壊せる威力なのにだ。
「何で!?どうして!?」
「ふ~む、こりゃ想像以上に、想像以下だな。もっと期待してたのにねぇ、終作はショックを受けた!!」
「何を訳の分からないこと「その力を貰おう。」な、ん!?」
終作が何かを呟いた時、快から出ていた橙色の闘気が無くなり、快は前に倒れこんだ。
「どうして!?体から力を感じない!?まさか!!」
「そう!!俺は七つの大罪の1つの『強欲』を持っているからね~、快くーんの力を奪ったのさ。」
終作はそう言って何処からか取り出した鎌を持って快の首に刃の先を当てる。
「もっと強いと思ってたんだけどねぇ~、俺の眼の力も衰えたかなぁ。負け犬は大人しく泣き寝入りしようねぇ~。」
そう言って終作は快の首を斬ろうとする、そんな状態で避けなければならない筈なのに、快は動く事が出来なかった。
力を全て奪われたから?違う、全く動けなくなる程の力は奪われていない。諦めたから?それも違う、快はまだ諦めていない。だったら何故か?
「シャンハーイ!!」
絶対にこの現想郷にはいない筈の上海人形が終作の頭に乗っかっていて、快に向けて手を振っているからだ。
「ん?何か頭が重いおぶぁ!!」
「重いって失礼ね、上海は頭に乗っけても重くないわよ。」
終作に乗っかっていた上海人形が爆発したのと同時にある女性が終作を突き飛ばした。
「頭がアフロヘアーになっちまう!!ってあれぇ~?終作君は目の前の女性を呼んだ覚えはありませ~ん!!」
快を庇うようにして立っている女性、肩に届くか届かないかくらいの長さのショートヘア、髪は金色で瞳は青色で頭部には赤いカチューシャを付けている。
「!!!」
服装は青のワンピースで肩周りはフリル状になっている白い布で包まれていて、胸元とウエスト結んでいるリボンは赤色。
「ああ、アリスざぁぁぁぁぁぁん!!」
快が最も会いたかった人物、アリス・マーガトロイドが快の目の前に立っていた。アリスは快の声に気付きくるりと振り向き。
「貴方は誰?」
「え゛っっ!?」
快はアリスに名前を忘れられて大粒の涙を流して俯く、それを見た終作は声を必死に押し殺して笑っていた。
「そう、だよね。僕の事なんか忘れちゃってるよね。ごめんなさい、知っているような口調で話し掛けてしむぐぅ!!」
どよーんとしている快の顔をアリスはしゃがみ、両手で持ち上げてキスをした。状況が理解できてない快は目を白黒にさせていた。
「快の事を忘れるわけないじゃない。さっきはちょっとからかっただけよ。」
「酷いですよぉ……。」
しゅんとする快の頭をアリスは優しく撫でていく。端からみれば絶好の攻撃チャンスなのだが、終作は攻撃せずにビデオカメラで様子を撮影していた。
「ん?攻撃しろよという声が何処からか聞こえたが、あの場面で攻撃なんかしたら色々と何かを失いかねんからな!終作君は空気を読める大人だから攻撃なんてしないのさ~!」
アリスは快の頭を撫でた後、立ち上がって終作と向き合う。
「アリスさん、何故ここに来たんですか?」
「寝ていたら夢の中で桜って人が現れて、快の今の現状を説明されて無理矢理こっちに連れてこられたのよ。でも、今ここにいる快が本物だって事が分かって良かったわ。」
アリスは快にそう説明すると自分の周りに上海人形を大量に配置する。
「まさか来るとは思わなかったぜ~、でもぉ、来たところで何も出来ないと思うぞぉ?」
「勝手に決め付けないでくれるかしら?上海!!」
アリスが叫びながら指を動かすと、大量に現れた上海人形があらゆる角度から終作に向けて弾幕を放つ。が、それを終作は鼻歌を歌いながらアリスに近付く。
「ちょっと、弾幕当たってるのにどうしてそんなに笑っていられるのかしら?」
「いやぁ、君の弾幕の威力が心地よく感じてねぇ。そんなんじゃ終作君は倒せないぞぉ?それに、君の弱点も知ってるぞい!」
そう言い終作は次元の隙間を開き、アリスの目の前に現れる。
「人形を操ってる最中にこの至近距離に来られたら何も出来ないよねぇ?」
「アリスさん!!」
終作が持っている鎌でアリスの首を斬ろうとしたが、慌てる様子もなく、アリスは左手で鎌の刃の部分を殴り飛ばし、右手で終作の鳩尾を殴り、回し蹴りで吹き飛ばす。
「おぶびょ!?あれれ~?おっかしいぞぉ?接近戦は出来ないと思ってたのにぃ!?」
「接近すれば私を倒せると思ったのかしら?」
アリスは終作を見ながら両手を握り締める。するとアリスの体から金色の闘気が噴き出し始めた。
「甘いわ、甘過ぎて目眩がしそう。他の世界の私と比べてるつもりなら止めておいたらどうかしらね?」
「……やべぇ。冗談抜きでやべぇかも。人妻って怖いねぇ。」
「アリスさん、それって。」
快はアリスから感じる力に見覚えがあった。それはついさっきまで快が使っていた力と同じ。
「快だけが苦しんでる訳じゃないのよ。私だって苦しい、さっきまで快の事を忘れていた私が情けない!!」
アリスが言葉を発する度に闘気はどんどん膨れ上がっていく。それを終作は冷や汗を掻きながら様子を窺う。
「本気は出さないんじゃないの~?それに、エンドナイトをどうして使えるのかなぁ?」
「これでも本気じゃないわよ?それに、これはエンドナイトじゃない。名前は空虚を超越せし者!!」
アリスが技の名前を叫ぶと金色の闘気と共に青色の闘気も少し出現し始めた。
「そういえば、貴方は前に私の子供に色々と失礼な事をしてくれたわよね?そのお返しもここでするわ。」
「うそ~ん。」
おまけ
霊「ハリスマリーさん、この体の部位はこう扱うんです。」
ハ「こう、ですか?」
霊「そうです!あとは私と試合をしましょう。」
ハ「えっ!?それって、何回もやるんでしょうか?」
霊「ええ、軽く500回くらいですけど。」
ハ「軽くの域を越えてますよ霊愛さん!!死んじゃいますって!!」
霊「大丈夫です。人はそう簡単には死にません、いえ死なせるつもりはないのでご心配なく。」
ハ「どこが大丈夫なの!?って引き摺らないでぇ~!!」
霊「その後は剣術でも教えましょうか。」
ハ「誰か~!!た~す~け~て~!!」
霊斗「いや~、孫娘に友人が出来て嬉しいぞ!」
刀「あれをどうみたら友人が出来たと感じるのだ霊斗?」
霊斗「さて、俺らも始めるか刀哉。先ずは軽く素振り一万回いってみるか!」
刀「それは軽くなのか?出来なくもないが。」
霊斗「その後は俺と組み手を100回、弾幕を避け続けるのを二時間、その後は一時間全力疾走をしてもらうからな?」
刀「いやいや!!出来ないだろうそれは!?」
霊斗「ん?磔や絢斗や快は余裕でこなしていたぞ?だから大丈夫だ問題ない!!」
刀「(教えを乞う師を間違えたかもしれんな。)」