絢斗VSガブリエル 信念とは何か
「細切れに切り刻んでやる!!」
ガブリエルは自分の周りに回転する剣を大量に出現させて絢斗に向けて放った。
「そんなもんで切り刻めると思ってんのか?」
対する絢斗は自分の腰に付けてある刀を鞘から抜いて回転する剣を全て斬り伏せる。
「生意気な小僧が!!」
「小僧と呼ばれる歳ではねえけどな。」
絢斗は回転する剣を斬り伏せた後、『縮地』を使ってガブリエルの目の前に移動して足を斬り捨てようとする。
「効かぬ!!」
ガブリエルは足を硬質化させて絢斗の刀を受け止める。受け止められた絢斗は怪訝な表情を浮かべた。
「ちっ、防御が間に合ったか。にしても、何で斬れねえんだ?」
「我は想像の力を持っているのだぞ?足を鋼鉄のように硬くすれば小僧の刀も受け止める事は容易い。残念だっ「鋼鉄か、なら先に言えよ。」何っ!?」
ガブリエルが高らかに笑って解説している最中に絢斗は手に力を込めて鋼鉄化したガブリエルの足を斬った。
「何故だ!?何故斬れる!?」
切断とまではいかなかったものの、足を斬られたガブリエルは驚愕の表情で絢斗から距離を取った。
「鋼鉄化すんなら早めに言えよ、鋼鉄を斬るくらいで攻撃すっからよ?」
「調子に乗ってんじゃねえぞ!!」
「キーキーうるっ!!何だこれ!?」
ガブリエルは声を荒げて叫ぶと、ガブリエルに向かってくる絢斗の周りの重力を何百倍にして絢斗の動きを止めた。
「想像の力を使えばこんなことも出来る。そこで這いつくばってろ小僧。」
「嫌だね。」
絢斗は吐き捨てるように言い、横凪ぎに刀を振るうと何百倍にもなっていた重力が元に戻っていた。
「小僧!!」
「言っとくがガブリエル、俺には斬れないものは存在しねえんだよ。」
そう言い絢斗はガブリエルの背中に生えている羽を斬ろうとしたが、ガブリエルは目の前に水の壁を出現させる。
「斬れないものは存在しない?寝言は寝て言え!!」
「嫌だね、お前が寝ろよ。」
絢斗は水の壁も真っ二つにし、ガブリエルに水平蹴りを放って吹き飛ばす。そこから更に追撃しようとするが、解せない表情で立ち止まる。
「……っち、嵌められたか。能力や霊力を使えねえなんて、何かしたな?」
「よく気付いたな、ここの空間は我以外の特別な力を持つ生物の力を消す術式を組んである。ここに来たのが間違いだったな相沢絢斗。」
ガブリエルは邪悪な笑みを浮かべて絢斗の方を見る。縄で縛られているハリスマリーが能力を使って抜け出せないのはその術式のせいだ。
「絢斗さん!!私に構わず逃げてください!!」
「そんなことは出来ない、女の子を見捨てて逃げるなんて男じゃねえんだよ。」
「ほう、ならばその小娘を守ってみせろ。」
ガブリエルは指を鳴らすとハリスマリーの周りに紫色の煙が発生し始める。煙の正体を感じ取った絢斗はハリスマリーの体に見えない結界を張った。
「完全には無効化出来てないか、だがそこの小娘を守るだけで精一杯のようだな。」
「うるっせえよ!!斬符 閃光斬!!」
絢斗は息を止めながらガブリエルに向けて居合い斬りの衝撃波を数発放つが、空間の術式によって威力が激減している為、ガブリエルの右手で衝撃波が弾かれた。
「術式が無かったらかなりの威力だったろうにね、飛んで火に入る虫とはまさにこの事。」
「~~~っ!!」
息を止めながらガブリエルに弾幕を放ったりしていた絢斗だが、次第に顔を赤くしてもがき始めた。
「貴様は能力と霊力が無ければ普通の人間と変わらない!!さあその煙を吸え!!そして死ねぇ!!」
「絢斗さん!!この結界を解いてください!!このままだと絢斗さんが死んでしまいますよ!!」
ハリスマリーが体を結界にぶつけながら叫ぶが、絢斗は結界を解こうとはしなかった。
「~~~~~~っ!!」
「いい眺めだ。貴様のその苦しむ顔を見たかったんだ!!さあ吸え!!吸い込んでしまえ!!」
「なら、お望み通りに吸い込んでやらぁ!!」
絢斗は止めていた息を吐き出して、思いっきり空気を吸い込んだ。空気と同時に紫色の煙も吸い込んでいき、完全に無くなるまで吸い込んだ。
「!!!」
その直後、絢斗は膝から崩れ落ち、そのまま前のめりに倒れ込んだ。それを見たハリスマリーは絢斗から顔を背け、ガブリエルはニヤリとした笑みを浮かべた。
「ハハハ、ハッハハハハ!!これでまず一人は殺してやった。どうだ小娘?自分を庇って死んでいった奴を目にした気持ちは?さぞかし最高だろう!?」
「私のせいで、これじゃあ皆に合わせる顔がないよ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「いい絶望の顔だ。もっと我に見せておくれ。小娘の絶望した顔は最高に気分が良くなるからな!!」
ガブリエルが高らかに笑った時、倒れていた絢斗の両耳から白い煙が吹き出て来た。
「はぁ?」
「エホッ、そう言えば伝え忘れていたなガブリエル。俺と磔は毒類は効かねえんだよ。」
絢斗は口から少量の煙を吐き出すと、うつ伏せの状態から飛び上がってガブリエルの頭に踵落としを喰らわせた。
「かぶっ!!貴様わざと!!」
「お前が馬鹿で助かった、どうもありがとう。」
絢斗は地面に着地した後、倒れているガブリエルに刀を突き刺そうとしたが、ガブリエルの体からレーザー光線が放たれた為、バク転で回避してハリスマリーの前に着地した。
「絢斗さん!!本当に死んだかと思ったんですよ!?」
「ごめんごめんハリスマリーちゃん。あいつを欺くにはああするしかなかったんだ。」
絢斗は怒った表情になりながら心配するハリスマリーに笑顔を見せる。それを見たハリスマリーは安堵したが、すぐにギョっとした表情を浮かべた。
「我から目を背けていいのか相沢絢斗?殺してくださいと言ってるようなもんだ!!」
ガブリエルは圧縮した水を槍の形に変形させて絢斗に放つ。だが絢斗は刀を下から上に切り上げて、槍を真っ二つにする。
「それで勝ったつもりか?甘いわ!!」
ガブリエルは続けて間髪入れずに大量の槍、斧、剣、砲弾、矢、短剣を絢斗に向けて放ったが、それらを絢斗は1つも残らず刀で斬り裂いた。
「何故だ何故だ何故だ!!何故だぁぁぁぁぁぁ!!」
「そんなに俺がお前の攻撃に対処出来てるのが不思議か?」
「何故だ!?貴様は能力も霊力もほぼ使えない筈だ!!普通の人間と変わらない筈だ!!なのに何故我の攻撃を捌ける!?」
ガブリエルは有り得ないといった表情で絢斗を見るが、その表情を見た絢斗は溜め息を付いた。
「俺は能力や霊力に頼らないでずっと剣術の修行をしてきたんだよ。ある人を越えるためにな。」
そう言い絢斗はかつての師を思い出す。その師は絢斗の妻にそっくりで、絢斗よりも幼く、絢斗よりも身長が低く、そして女の子だった。
その女の子と初めて模擬戦をした時、絢斗は完膚なまでに叩きのめされた。今までに培ってきた自信、プライドがズタズタに引き裂かれた。
更に追い討ちを掛けるように女の子はこう言ってきた。
『どんな修行をしてきたんですか?私が剣術を習って1週間程度の実力ですよ?』
今まで散々死物狂いで何十年も修行をしてきたのに、女の子は1週間という短い時間で絢斗の実力を越えていた。
凡人と天才、その差を見せ付けられた絢斗だったが、決して諦めなかった。いつか師を越えてやる、表ではヘラヘラして師にもセクハラまがいの事をしてきたが、裏では人の何十倍の努力をしてきた。
「俺の師、魂魄妖緋に負けねえようにずっと普通の状態で刀を振ってきたんだ。どんなに霊力等が多くなっても、俺は一般人と変わらない状態で修行をしてきた。」
「だからって天使に勝てる訳がねえだろおぉぉぉぉ!!」
ガブリエルは巨大な弾幕を絢斗に向けて放ったが、絢斗はそれを一刀両断し、ハリスマリーに残骸が行かないように斬った。
「この変態が!!調子に乗りやがって!!」
「変態で結構だ、けどな変態と呼ばれて罵られても、俺は守りてえものがあるんだ!!」
絢斗は斬撃を飛ばしてガブリエルの肩を僅かに斬った。肩に出来た傷を見たガブリエルは羽から水のレーザーをハリスマリーに向けて放ったが、それを絢斗は刀を回転させて消滅させる。
「女の子の涙を拭えない奴は男じゃねえんだよ!!女の子を幸せにしてやれない奴は男じゃねえんだよ!!女の子を助けられない奴は男じゃねえんだよ!!女の子は何が何でも守る、それが俺の信念だ!!」
そう言い絢斗は紫色のオーラを纏い、刀を構えた。絢斗の言葉を聞いたガブリエルは呆れた様子で絢斗を見詰めていた。
「我も貴様の言う女の子だぞ?貴様の言ってる事と今やっている事は矛盾しているぞ?これだから人間はゴミ虫なんだよ。」
「お前が女の子?馬鹿言うんじゃねえよ。」
「何をっ!!」
絢斗はそう言った後、紫色のオーラ、アクセルモードの使った時のオーラを刀に宿し、オーラを纏った刀を振り抜いてオーラの竜巻をガブリエルに放った。
「斬符 アクセルウィンド。それと竜巻を食らったなガブリエル?」
「それがどうしッ!!」
ガブリエルは自分の体を見て驚愕の表情を浮かべた。何故ならば先程まで女だったのが、今は男の姿なっていたからだ。
「つまらねえ幻術かけてんじゃねえよ。何で姿を女に見せる幻術を掛けたんだよ?」
「貴様ァァァァァァ!!」
ガブリエルは激怒した表情を浮かべたが、それを無視して絢斗はガブリエルの顔面を斬り裂こうとする。
「くたばれ、お前の顔なんか2度と見たくねえ。」
だがガブリエルは絢斗に顔面を斬られる寸前まで激怒した表情を浮かべ、刀の先が顔に当たる時にハリスマリーを盾にした。
「くっ!!止まれぇぇぇぇぇ!!」
絢斗は思いっきり踏ん張って刀を止めたが、ハリスマリーの頬を斬ってしまった。それを見たガブリエルはニタァと笑った。
「どうした?女の子を傷付けないんじゃなかったのか?」
「てめえ!!ふざけんなガブリエル!!女の子を盾にするんじゃねえよ!!」
「だったら止めてみろよ?女の子を傷付けるのは男じゃねえんだろ?」
ガブリエルの挑発を聞き終わる前に絢斗は『縮地』と『空歩』を使ってガブリエルの懐に潜り込んでアッパーカットを放とうとするが、ガブリエルはまたハリスマリーを召喚して身代わりにした。
「汚ねえぞガブリエル!!」
「なんとでも言え!!我は貴様に勝てればいいのだからな!!」
ガブリエルは動けないハリスマリーを盾にしながら水を圧縮した剣で絢斗の肩を斬り、顔を斬り、足を斬り、手を斬った。
「『陽聞』と『宵避』を使って攻撃を避けても反撃する時にこの小娘を気にして動きが遅くなってるぞ相沢絢斗?」
「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ。」
斬られた箇所から出血して、おびただしい量の血を流している絢斗を見てガブリエルは愉快な表情を浮かべていた。
「もういいです絢斗さん!!私を無視してガブリエルに攻撃してください!!死にますよ!?」
「女の子は、絶対に傷付けない。それは破れない!!」
絢斗は意を決した表情で弾幕を放ってくるガブリエルの攻撃を『宵避』で避け、ガブリエルの脇腹を斬ろうとする。
「無駄だ!!」
ガブリエルはハリスマリーの髪を掴んで絢斗の攻撃の軌道上に無理矢理持ってきて防ごうとする。
「寸止めすれば俺の攻撃の餌食、しなければ貴様の信念が崩壊する。さあどうするよ!?」
「絢斗さん!!」
ガブリエルは勝利を確信したような表情を浮かべ、ハリスマリーは悲痛の表情で絢斗の名前を叫んだ。このまま攻撃すればハリスマリーの体が真っ二つになる。だが止めればガブリエルの攻撃を喰らって絢斗はどうなるか分からない。
絢斗が取った行動は、
「『シャッフルズ!!』」
絢斗が刀を持ってない手の掌を返す。するとハリスマリーが居た所にガブリエルが出現し、ガブリエルが居た所に終作が出現した。
「何ィ!?」
「斬符 外待雨!!」
絢斗は刀の表面に霊力をコーティングし、ガブリエルの脇腹に思いっきり力を込めて刀を当てて吹き飛ばす。
先程絢斗がやったのは超技術『シャッフルズ』、自分もしくは相手、または物の位置を強制的に交換する技術。交換出来る人数や物に制限はなく、距離も次元が異なる世界じゃなければ可能。
だがこの超技術、使用するには『宵避』を極めた者にしか使えない。もし極めてない人が使ったら地面に挟まれたり、壁と壁の中に入り込んだり、次元の隙間に入り込むなどが起きる。
絢斗はガブリエルとハリスマリーの位置を交換し、その後にハリスマリーと終作の位置を交換した。
「俺が呼ばれたかぁ、まあガブリエルを見てぶちのめそうとは思ってたけどな。ちなみに鬱陶しい術式は解除しておいたぞ。」
終作は吹き飛ばされたガブリエルを見ながら手をポキポキと鳴らし、それを見た絢斗はニヤリと微笑んだ。
「随分とやる気満々じゃないの終作?こっちとしてはありがてえけどよ。」
「ガブリエルを視て本っ当にムカついたんだよ絢斗。ぶちのめしてやろうぜ?」
終作がそう言いニヤリと微笑むと、絢斗も同様にニヤリと微笑んだ。
「了解会長!!」
「頼んだぜ副会長!!」