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紫蘇昆布と白むすび

あの日。

 五感の中でも特に、嗅覚は記憶と結びつきやすいという。

 何でも、脳の中で両者の処理位置が近いから、一緒に活性化しやすいからという話だ。まあこの説がひっくり返る日が来ないとも限らん訳だが。


 なんでそんな話になったかというと、1月17日のせいだ。

 そう、阪神淡路大震災である。

 あの朝、地鳴りで目が覚めた直後、どかんと揺すられて、てっきり近場の地震かと思った。書棚から本が降ってくるやもと身構えたが、その時は落ちてはこなかった。

 テレビをつけ、暫し待ったが、寒いし眠いし、震源が県外であることを確認しただけでもう一度布団に潜ったのだった。

 朝になって見たテレビ画面に、これは空襲の跡かと我が目を疑った。よもや地震によるものとは、まして日本国内でのこととは考えられぬ惨状であった。

 被害も分からぬほどに混迷した、混迷していることさえも知ることのできない混乱が、時間と共に広まっていった、そんなふうにその日は始まった。


 紫蘇昆布と白むすび。

 地元で取り急ぎ食糧支援にと準備したのがそれだった。

 寒い体育館で、百人を超える人々が、次々届けられる白飯を握り飯にして詰めていった。

 その折、「目に見えないものを入れてはならない」だかそんな話があったということで、握り飯に塩味さえつけられなかった。三個の白むすびに、せめてもと紫蘇昆布が添えられた。

 固く握られた塩気のない握り飯は、神戸に出発するまでに冷えていった。

 見たこともない神戸という都会に向かって出発したトラックを見送りながら、苛立ちに似た心地に不安を抱いた。

 体育館の中には空になった容器が山積みにされ、紫蘇昆布の香りだけを強く残した。


 後日、他の地域からは炊き込み飯だのなんだのと届けられていたことが伝わり、余りに杓子定規な対応にため息が出たものだ。


 とにかくそんなわけで私は、紫蘇昆布の匂いを嗅ぐとあの日のことを強く思い出すのだ。

 その日の焦燥と、それに続く不安の感情と共に。

 今日この時までも。


なのに「あの日」は増える一方…

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