008
「どうですか? これが壁の外側、ユースレスの生活です。とても酷いものでしょう?」
「え、えぇ……」
鼻を押さえていないと頭がおかしくなってしまいそうな腐った臭い。
物を盗まないと生きていけないような親が亡くなってしまった子供達の光景。
他にも道端で力尽きてしまった老人を貪る野良犬。
およそ生活をしているとは思えない、骨組みなんてないその場凌ぎの造りの家。
想像の百倍以上酷い暮らしをしているユースレス。
「この中にはナンバーズだったやつもいるぞ」
「俺と同じ、ナンバーレス……」
「そうだ。だがナンバーレスは決まってこの環境に適応できずにすぐに死んでいく。そのうち五割は一ヶ月以内に死んでいる」
息を飲む。
分からなくもない。
俺もただこの地に放り出されていただけだったら、すぐに気がおかしくなりそうだ。
そういう意味ではカゲロウに感謝しなければならないだろう。
まぁ、元はと言えばこいつが原因で、こちらに来なければならなくなったのだが。
「さぁ、着いたぞ」
「ここが……」
古い建物のようで、コンクリートで造られた三階建ての建物。
三階建てと言っても、四階から上が老朽化のせいか壊れてしまっている。
何故か西側を除く三方向の窓には、窓枠を大きめの布ですっぽり覆い、その上から木材を釘で打ち込んであった。
「何でこんなこと……」
アジトを見上げる俺をほったらかして、建物の中に入っていく二人。
よく見たら道を歩いていた人達も、いつの間にか建物へと避難していた。
「おい、そろそろじゃないか?」
「そうですね、早く中に入りましょう」
誰もいなくなり、静まり返った道路の上で立ち尽くしていると、カゲロウが手招きしてきた。
「お前も早くこっちに来ないと、巻き込まれて死んじまうぞ?」
「は……?」
とその時、壁の方でサイレンがなった気がした。
さらにサイレンが本物であることを証明するかのように、壁の上のランプは赤く発光し、一定の周期でくるくると光源を回して危険を訴えていた。
直感がこれは危険だと、逃げた方がいいと判断した。
「……ッ!」
建物へと走り出した直後、壁の方から爆発音にも似た、しかし違う衝撃のようなものを感じた。
間一髪"それ"を避けることが出来た。
西側の窓から見えたのは、巨大生物の如く地を這いながら進む無数の渦巻く風。
通り道の物を全て飲み込みながら、アジトを通り過ぎて行った。
あとに残るのは爪痕。
抉られたように、一本線で建物が全て無くなっている。
「なんだよ、これ……」
「だから危ないって言ったろ? これは台風って言う爆風の自然現象を人工的に創り出したものさ。壁際に出したゴミを遠くまで運ぶためと、俺達ユースレスを定期的に処分するためにある」
「タイフウ……?」
「そうか、お前は知らないんだったな。ナンバーズの築いたあの高い壁には、天候さえも自由に操り得る程の強風を作ることが出来るんだ。だからナンバーズの天気は予報ではなく、予言される。雨が降らないなら降らせればいいのだから」
いったいそれがタイフウとやらと、なんの関係があるのか。
しかし驚いた。
天候を操ることの出来る程の風、それは数分前の出来事でこの身をもって知ったため、疑いようがない。
「その風でゴミを飛ばした、と?」
「簡単に言えばそういうことだ。秒速二十メートル以上の風で一気に飛ばしている。それも一ヶ月に一回の頻度でな」
どおりで何も無い荒野が続いているはずだ。
一ヶ月に一回吹く強風により、木々も高く育つことが出来ない。
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