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友達

 虹が消えてから少しだけ時間が経ったあと。

 俺とサクは、高校に向かうべく通学路を歩いていた。

 さきほどのことがあってお互い顔も合わせられなくなり、終始無言のままひたすら足を動かすのみ。

 ちょうど昼を少し過ぎた時間で、さっきまで雨が降っていたのがウソなんじゃないかと思えるほどにぽかぽかとした気温だ。

 校門をくぐり、青々とした葉をまとっている桜の並木道の途中で、サクが急に方向転換をして木々の中に入っていく。

 俺はすぐ、あの大きな桜の木がある広場に行くのだとわかった。

 広場につくと三毛猫のシャーロックが足下にじゃれついてきた。そこでやっとサクが口を開く。


「私が知らないうちにずいぶん懐いたんですね」

「サクに前教えてもらった、好物の煮干しをあげたから」

「そうですか」


 少しだけシャーロックとたわむれたあと、俺たちは大きな桜の木の下へ。


「スイも一緒に登りましょう。上からの景色は格別ですよ」

「俺も登れるかな」

「足をかけるのにちょうどいい枝がたくさんあるので大丈夫です。私についてきてください」


 そう言ってサクはいとも簡単そうにひょいひょいと登っていく。俺はそれを必死に追った。

 サクの足下を目で追っていると、その、スカートの中も必然的に目に入ってくる。あのときと全く同じお魚さんパンツで思わず吹き出しそうになるがなんとかこらえた。


「あ、そうだ、スイ、私のスカートの中見たら蹴り落としますからね」

「無茶言うな!」


 暗にパンツ見えてますと言っているようなもので、登りおわってから腕をつねられた。


「またそのパンツなんだな」

「……実はこれ、お気に入りなんです」

「うん、そうなんじゃないかって思ってた」


 この返しがマズかったのかまたつねられた。

 桜の木は俺たち二人を乗せてもビクともしなかった。改めてこの木の巨大さ、強靱さを実感する。

 サクが言うとおり、木の上からの眺めは素晴らしかった。この高校は小高い丘にあり、さらに大きな桜の木にいるものだから町の風景を一望できる。屋上から見るより臨場感があった。

 一通り景色を堪能した後、何気なく学校の方を見ると。


「あれは……朱音先輩?」

「……間違いなくおねえちゃんですね」


 学校の屋上からこちらへ向かって朱音先輩が手を振っていた。けっこう離れているのによく気付いたな。視力も規格外な人だ。


「行くか。朱音先輩の元に。学校に」

「……そう、ですね。私は色々とおねえちゃんに謝らないといけないですし」


 サクがこちらに背を向け、降りる体勢を整えていたので、俺もそれにならおうとしたまさにその時。

 チュッと俺の頬に柔らかなものが触れた。


「こ、これはヘンな意味とかじゃなくてですね、ただのお礼ですお礼!」


 顔を赤らめながら目を背け、恥ずかしそうにそう言うサクを見ながら、俺は木の上から派手に落下する。

 動揺して足を滑らせてしまった。くそ、まだ触れられた部分が熱をもってるみたいだ。

 幸いにも桜の木の近くに群生していた植物、茂みに落下したおかげでケガはない。

 スイ~大丈夫ですかぁ~、と木の上からのサクの声が聞こえてくる。

 なんとか大丈夫~と返し、安否を伝えたところで、俺とサクはどちらともなく笑い出した。

 桜の木の上で笑うサクが、なぜだかとても眩しく見えた。


 それから少しだけ時が経った、とある放課後。

 俺は部室の前に立っていた。

 この部屋の中には、気の置けない仲間がいる。それが無性に嬉しい。

 ――いや、仲間という言葉は相応しくないかも。


「……友達、だな」


 小さくそう呟き、俺はドアを開けたのだった。


これにて完結です。ここまで読んでいただきありがとうございました!よければ評価ポイントの方、よろしくお願いいたします!励みになりますので!

それでは。

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