唐突な夏祭り
翌日。起きぬけにスマホを確認すると、朱音先輩からメッセージが届いていた。
『金曜日までの部活は休みとする。ただし、土曜日に大須で開催される夏祭りには絶対に参加すること。来なかったら添付した写真を校内でバラまくからよろしく~。集合時間・場所は追って連絡する。以上!』
添付された写真は二枚あった。一枚目はおなじみのあの写真。サクのお魚さんパンツと間抜け面でそれを見ている俺。
気になる二枚目は、死んだように眠る俺と、その腕にしがついて眠るサクの写真。
先輩いつのまにこんなもの撮ったんだ! さては夜中にぬいぐるみを求めてベッドから落ちたときだな。相変わらず抜け目のない人だ。
写真をまじまじと見る。こう見るとサクもやっぱりきれいな顔してるな。キメの細かい肌に、大きな目を飾る長いまつげ。あどけない寝顔はこんなにもかわいいのに、怒ったときの顔は修羅のようだった。
行きづらい。が、このままというのも後味が悪い。
サクは一年生。俺は同学年に友達を作ることにしか興味がない。オフ会をして、部活に入る前の俺だったら、行かなかったかもしれない。けど、近代機器研究部で短くはない時間を過ごしてきた今の俺にとって、部室は学校の中で唯一肩の力を抜ける貴重な場所だ。そんな場所の空気を悪くしたままなんて、いやだ。
認めるんだ。俺は、サクと仲直りがしたい。そう思ってるって。
だけどこういうとき、どうしたらいいのか全くわからない。中学までは友達なんていなかったから口ゲンカどころか会話すらほとんどしてこなかったし、高校でも友達は百人いても、口論や言い合いなんて一回もしたことがなかった。
仲直りのしるしとしてプレゼントを渡すとか。もらってイヤな気分になる人間はいないはずだ。
前に何かほしいって言ってたような。その何かが思い出せない。記憶のすみに引っかかってるんだけど。
記憶を探りながら習慣でブレイドファンタジアを開いてログインボーナスをもらう。
そこで、フッと思い出した。そうだ、サクはアレがほしいと言っていた。
集合場所はちょうど大須商店街にほど近い大須観音駅。集合時間は十七時だから、お昼ぐらいから行ってアレを探そう。大須にならきっとあるはずだ。
これでとっかかりは十分。あとは、なぜサクがあそこまで怒ったのか考えて、売り言葉に買い言葉で大人げなくケンカになってしまったことを謝ろう。俺の方が一年先輩なんだからしっかりしないと。
部活のない学校生活には、どこか物足りなさを感じた。以前はこの生活に満足できていたのに。
放課後にいくつかの友達のグループとカラオケや買い物に行ってもその物足りなさはぬぐえなかった。心のすみで、部活の方が楽しいな、と思ってしまう。いや、こうやって同じ場を共有することが友達維持にとって重要なことだし、部活のない今の期間にもっと友達と遊んでおかなくちゃ、と自分に言い聞かせる。
そんな友達といて楽しいですか? 幸せですか? というサクの言葉がいやに頭に響いた。
そして、土曜日がやってきた。
浴衣着用必須とのことなので、アレを買うついでに浴衣も買わなくちゃな。
地下鉄で何駅か乗り継いで大須商店街へ。大須周辺には多種多様な店が多くなんでもそろう。特にオタク系に強く、休みの日にはコスプレをして歩いている人も少なくない。
夏祭りは夜が醍醐味だが昼でも人が多く、店にたどりつくだけでも一苦労だ。
俺はまずサク用のアレを探す。たぶんアニメやゲーム系のグッズを多く取りそろえているところにならあると思うんだけど。
それ系統の店を探して三店目。やっと見つけることができた。新品未開封で三千円か。予想より高くなくてよかった。高校生の自分にとってやや痛い出費なのは変わらないんだけど。
贈り物用のラッピングをしてもらい、無事購入。
さて、次は浴衣だ。まったく先輩も無茶なことを言う。浴衣なんて一式揃えようとすると一万円くらいかかるというのに。
ためていたお年玉を引っ張りだしてきたおかげでなんとかはなるけどね。祭りの食べ物代もバカにならないし、使いすぎないように注意しよう。
俺は大須商店街をねり歩き、浴衣を取り扱っている店を見つけてそこに入る。
値段の高そうなコーナーには目もくれず、帯や下駄、巾着などがセットで一万円になっているコーナーへ直行。
意外と種類が多く、目移りしてしまう。うーむ、どうしようか。
どれにしようか悩んでいたら、店内にやかましい声が聞こえはじめた。
 




