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すれ違い 2

「スイ、私はムカムカが止まりません。なんでだと思いますか?」

「あぶらものをたくさん食べたから?」

「そういう話じゃないです! その様子だと全く心当たりがないようですね。……スイ、なんであんな人たちと友達つき合いをしているんですか? あの人たち言ってましたよ。これからカラオケだ楽しみーって。スイは、面倒事を押しつけられたんです」


 そうか。そうだったのか……。驚きやショックはさほどない。薄々そうなんじゃないかって思ってたから。だけど。


「それがどうかしたか? 人から頼られることはいいことじゃないか。友達の頼みをむげに断るわけにもいかないし」


 サクは、信じられないという顔で俺を見てくる。何かおかしなこと言ったかな。


「それは頼られているとは言いません。利用されていると言うんです。それにあの人たち、『今日も』掃除代わってくれないか、って言ってましたよね? こんなことが今までに何回もありながら、どうして友達だなんて呼べるんですか!」

「利用されていたとしてもいい。友達に定義なんてない。俺があいつらを友達と認識しているなら、それは友達だということになる。友達は多い方がいいだろ?」


 サクは俺の言葉に絶句し、痛みに耐えているかのような沈痛な表情をしていた。

 やっぱり俺がおかしいことを言っているのだろうか、そんなことないだろうと朱音先輩を見やると、なんと先輩もサクと同じような表情をしていた。

 サクはさきほどまでとは打って変わって弱々しい口調で俺にこう聞いてきた。


「スイは、それでいいんですか。そんな友達といて楽しいですか? 幸せなんですか?」


 もちろん楽しいし、友達が百人もいて幸せだ。

 そう思っているはずなのに、なぜだかどうして、言えなかった。喉まで出かかっているのに、無意識にその言葉を押しとどめてしまっている。それがひどくもどかしかった。

 だいたいなんだ、サクの言い方は。幸せなんですか? なんて質問不躾すぎるだろう。怒ってる理由もイマイチわからないし、だんだんとこっちもムカムカしてきた。

 俺はサクの問いかけには答えず、反撃するかのように問いかける。


「サクこそどうなんだよ。ネットに友達百人いるんだろ? さぞかし楽しくて、毎日幸せいっぱいなんだろうなぁ」

「い、今は私の話じゃなくてスイの話でしょう!」

「おせっかいなんだよ! 俺がいいって言ってるんだからいいじゃないか! ほっといてくれ!」


 俺がそう言うとサクは驚いたような、それでいて少し悲しそうな顔をしたのち、ダン、とテーブルをたたきながら立ち上がった。そして自分の荷物を持つと、足早に部室を去っていった。

 すれ違う際、一瞬だけ涙のようなものが見えたのは、きっと気のせいなんかじゃない。

 正体不明の罪悪感におそわれつつ、口ゲンカになったのにはサクにも原因があると自分に言い聞かせる。


「ふぅ、若いねぇ、スイもサクも。ほーんとおこちゃまなんだから」

「先輩、俺たちと一、二年しか違わないじゃないですか」

「少年よ、一、二年の差はバカにできないぞ。じゃ、今日の部活はここまでってことで。ちゃんとノルマのダンジョン潜りはやっておくんだぞ~」


 先輩も手早く荷物をまとめるとさっさと部室をでていってしまった。俺たちの言い合いのことには触れないまま。

 一人残された俺は部活終了時間までブレイドファンタジアで遊んだ。無論、レッドとサクはログインしていない。習慣でギルドチャットルームをのぞいてしまう自分がうらめしい。そこにメッセージなど書き込まれているはずもないのに。


 静かな部室で淡々とノルマを進めていき、達成したところで、俺も荷物を持って部室をでる。

 なんだっていうんだ。なんでこんな気持ちにならなきゃいけないんだ。

 俺はむしゃくしゃしながら、やたら足に力をこめて通学路を歩いた。

 その日、ギルドバトル戦には誰一人参加しなかった。

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