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サクの部屋

 俺はまずサクが作ったケーキを口に運ぶ。見た目は抜群にいいけど、味の方はどうだろうか。


「! う、うまい! お店のケーキと遜色ないどころかそれ以上だろこれ! 甘さの絶妙さといいスポンジの感触といいハイレベルすぎる……!」


 その言葉に偽りはなく、俺は次から次へと口へ運んでいき、五分もしないうちに食べ終わってしまった。

 その間中、サクは俺が食べている様子を真剣に見つめていた。食べ終わったとたん、気が抜けたのか表情筋が弛緩して安心したような顔になる。


「スイの口に合ったようでよかったです」

「口に合ったどころじゃないよ。冗談抜きに今まで食べたケーキの中で一番美味しかった」

「えへへ、そんなにほめられると照れちゃいます」


 サクは気恥ずかしそうに頬を赤らめ、そっぽを向く。よっぽど嬉しかったのかキャラがブレブレだ。


「スイ、次はわたしの特製牛丼を食べてくれ!」


 先輩が待ちきれないとばかりにどんぶりをグイグイと押しつけてくる。


「食べますから落ち着いてください。では、いただきますね。……! な、なんだこれは! 牛肉は固すぎず柔らすぎずのちょうどいい噛みごたえで、噛んだ瞬間に肉汁とタレのハーモニーが口内で奏でられる! それに拍車をかけるつやつや白米! うますぎるうううう!」


 俺も人のことは言えないな。キャラ崩壊がひどい。でもそんなことが気にならないくらい牛丼が美味しすぎた。

 朱音先輩もサクも自分の料理に対するこだわりが半端ではない。その道のプロになれるんじゃないかと本気で思う。

 先輩の牛丼も五分でたいらげてしまった。お腹は腹八分をとうに超えているが幸せな気持ちで一杯だ。


「先輩、この牛丼、うますぎました。これからチェーン店の牛丼なんて食べられなくなっちゃいますよ」

「そうかそうか! まあこのわたしが調理行程の細部までこだわり抜いた一品だからな!」


 口でこそそう言っているが、先輩もまたサクと同じように頬を染めながらサクとは反対方向にそっぽを向く。

 好みは正反対だがこういうところはやっぱり姉妹だなぁ。なんだかほっこりしてしまう。

 食後に先輩が淹れてくれためちゃくちゃ美味しいコーヒーを飲んで、おだやかな時間を過ごす。

 食器を片づけてから、三人でサクの部屋へ向かう。

 家に入るときと同じく緊張してきた。サクの部屋、か。イメージとしてはシンプルながらもどこか女の子らしさを感じさせる部屋、かな。あくまで俺の想像だが。


「ど、どうぞ。あ、スイ、勝手にクローゼットや引き出しの中見たらすぐにたたきだしますからね!」

「そんなRPGの主人公みたいなことしないって! お、おじゃましま~す」


 入ってみると、想像以上に女子! って感じの部屋だった。

 全体的に薄いピンク色で、机の上やベッドの上、本棚の上や部屋のすみっこなどにぬいぐるみがある。その中でもダントツで多いのがお魚さんだ。熱帯魚のような鮮やかなカラーのものからマグロやカツオのような地味系のものまで幅広くカバーしている。

 パンツの件もそうだけど、魚が好きなんだな。猫にも好かれるようだし、サクは前世が猫だったりするのだろうか。


「スイ、何か変なこと考えてませんか?」

「考えてません」

「敬語なのが怪しいです」

「怪しくない! にしてもサクの部屋、こう、女子って感じがしてちょっと意外だった」

「それどういう意味ですか! 私だってれっきとした女子ですよ!」

「そういう意味じゃなくて、あー、なんとうか、ギャップがあっていいと思う」

「普段の私ってスイの中でどんなイメージなんですか……」


 すねさせるつもりはなかったんだけどな。言葉の選択を誤ってしまった。

 そんなサクを見てゲラゲラ笑っていた先輩が、笑いを抑えながらニヤついて俺に話しかけてきた。


「スイ、普段のスカしたサクのイメージとはかけ離れているだろう? こう見えて案外少女趣味なんだ」

「とか言って先輩の部屋にもたくさんぬいぐるみあったりするんじゃないですか?」


 色々正反対な姉妹だが、共通点も少なくない。もしかしたらと思ってした質問だが、どうやら図星だったらしく、ギクッ、という擬音がぴったりな仕草と表情をしながら必死に否定してきた。


「いいいいいやいやいや、そんなことはないぞ。こ、このわたしがそんな子どもっぽい趣味をしているわけないじゃないか。スイも変なこと言うなぁ」

「なるほど、おねえちゃんが家族を部屋に入れたがらないのはそういう理由があったからなんだ。あ、もしかして私の八番目くらいにお気に入りだったシャーク君がいつの間にかなくなってたのってまさか!」

「違う! わたしじゃない! だいたいシャークくんがあんなつぶらな瞳をしているのがいけないんだ!」

「やっぱりおねえちゃんが持っていったんだね! 返してよ~!」

「もうこの話はやめよう! わたしたちの目的を忘れたのか? こうして無為な時間を過ごしている間にも他のギルドがダンジョンに潜りまくっているんだぞ?」


 うっ、とサクが言葉に詰まる。その会話の終わらせ方は卑怯な気がするが、確かに今日の目的はランキング入りを狙うことだ。

 イベント終了は明日の早朝五時。高校生活を送っている俺たちにとってここで追い上げをしなければならない。狙うはSR報酬がもらえる百位以内。


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