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二人の手料理

「うわっ!?」


 入った直後に不意打ちされたため、尻餅をつきそうになってしまった。


「ようこそ春藤家へ! 歓迎するぞ、スイ!」


 こんなことをするのは一人しかいない。そう、朱音先輩だ。

 部室にいるときと同じく学校指定の緑色のジャージに、後ろで無造作にくくった長い髪。シルバーフレームのメガネ。そんな格好でも端正な顔立ちというのが一目でわかるあたりがさすがだ。


「誕生日やクリスマスじゃないんですからクラッカーとかやめてくださいよ。歓迎されるのは、その、嬉しいですけど」

「何を言っている。今日はその誕生日やクリスマスに勝るとも劣らないビッグイベントの日だぞ。盛大にやらないとな!」

「確かに合宿はビッグイベントと言えなくもないですね……。ってか先輩、家でもその格好なんですか?」

「当然だ。きっちり服装をととのえるのは部活以外の学校にいるときと外出したときくらいだな。でも、サクも似たようなものだぞ?」

「え、すごいまともなかっこうしてるじゃないですか。家にいるのに偉いですよね」

「何を言ってるんだスイ。サクはいつも家じゃ薄手のキャミにパンツ一丁だぞ」

「ちょっとおねえちゃん何言っちゃってくれてるの!? スイ、ウソだからね?」

「ウソなものか。スイが来るからとクローゼットから色々引っ張りだして」

「おねえちゃん、それ以上言ったら姉妹の縁切るから」

「わあああごめんごめんもう言わないから!」


 そうか、サクはいつもはもっとラフ(?)な格好をしているのか。今日は男子、つまり俺が来るから一応気を使ってくれたってことかな。


「もう私の話はいいから、早くお昼ご飯にしよう!」


 サクは顔を真っ赤にしながらキッチンの方へ引っ込んでしまう。


「あ、これ手土産です」

「おお、わざわざすまないな。む、コーヒー豆か」

「はい。昔ブレファンで、レッド、じゃなくて朱音先輩とサクがコーヒーは自分で淹れて飲むほど好きだって言っていたので。俺はコーヒーについてはよくわからないので、店員さんのおすすめを買ってきたんです」

「そんな前のことを覚えていたのか。ありがたくちょうだいしよう。どれどれ、お、キリマンジャロか。わたしとサクのお気に入りの豆じゃないか。よし、早速使わせてもらおう。スイはコーヒー飲めるか?」

「はい、飲めます」

「では三人で食後に飲むとしよう。まずは飯だ!」


 先輩と話している間にサクがお昼ご飯を用意してくれていた。


「さあ、お昼ご飯の用意がととのいましたよ。食べましょう」

「スイはわたしのとなりに座れ! 間近でわたしの手料理を食べているところが見たい!」

「スイ、おねえちゃんのとなりは危険ですよ。絶対横取りされちゃいます。私のとなりが無難でしょう」


 ムッとしてバチバチ視線をぶつけさせる姉妹。

 この流れだと、スイはどっちに座りたいんだとか聞かれて面倒なことになるため、俺の方からある提案をした。

 結果。朱音先輩とサクがとなり同士で、俺が対面、二人の中央くらいの位置に座ることになった。

 二人はまだ不満そうにぶーたれていたが、俺はそれどころではなかった。

 目の前に広がる二つの料理。単体それ自体はいいのだ。いいのだが、いかんせん組み合わせがよろしくない。

 どんぶりに盛られた真っ白なご飯と、大量の牛肉。テカテカと光る脂が食欲をそそる。

 そんなどんぶりの横には、これまた真っ白なご飯、ではなく甘いにおいを放つ生クリーム。いちごがふんだんに散りばめられたミニホールケーキだ。


「どうだスイ! やっぱり肉だろ肉! 白米と肉の組み合わせこそ正義!」

「いやいや、甘いものに勝る食べ物なんて存在しないよ。甘いものは全人類の癒し。甘いものを食べればたちまちみんなハッピーだよ! 甘いものの王、いちごのケーキこそ正義!」


 前言ってたけど本当に好みが正反対なんだな。これは個別でお弁当作るわけだ。一緒に作ったら大変なことになってしまう。そう、この食卓みたいに。

 わ~わ~言い合っている二人に向かってそろそろ食べてもいいかな? と聞いたら言い合いをやめて二人が二人とも期待したようなまなざしで見てくる。

 そんなに見られると食べにくいけど、自分が作った料理の反応が気になるのは当たり前か。

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