第8話 2月6日 背後の少女
ひどい頭痛がする。
吐き気も止まらない。
頭はガンガン、胃はムカムカする。
「うう……」
うめき声を漏らす。
こたつの布団の中にもぐりこませた身体をくの字に折り曲げながら、おれは二日酔いの苦しみに呻吟していた。
夕べ飲み過ぎたせいだ。
出前で頼んだ寿司を食べながら、飲んだビールのせいだ。
千紗姉ちゃんに無理やり飲ませに飲まされたせいだ。
気持ち悪い。
まじ吐く。
こめかみが激しく痛む。
頭が割れる。
窓から差し込む朝日がまぶしい。
目を細めながら、右手を畳についてゆっくりと上半身を起こす。
瞬間、頭に激痛が走る。ズキズキと、頭蓋全体が痛む。
「はあ……」
おれは力なくこたつにつっぷす。
のどが渇いている。水が欲しい。
こんなにひどい二日酔いになったのは、ほんとにひさしぶりだなと、混濁した意識の片隅で思う。
「あの」
背中から声がかけられた。
「大丈夫ですか」
振り返る元気もない。おれはぼんやりとしたまま、声の相手を無視する。
「お水でも、飲まれますか?」
その言葉に対し、だいぶたってから、こくりと、おれはうなずいた。頭を動かしたのでまた二日酔いの激痛が走り、思わず泣きたくなる。
「はい、どうぞ」
しばらくして、こたつの上に、水が入った一杯のコップが差し出された。おれは緩慢な動作でそのコップを手に取ると、中の水をごくりごくりと飲み干す。
すこし、人心地がついたような。酔いが、わずかだが醒めたような。
「ありがとう……」
ぼそりと、おれはつぶやいた。
「いえ、そんな」
少女の声。
――少女?
おれは、頭痛に細心の注意を払いながらゆっくりと頭を動かし、背後の声の主に目をやった。
そこには、外国人の少女が一人立っていた。
ああ。
彼女か。
――これは夢じゃない。
結局は、こういうことになったのか。
そうかそうか、そういうことか。
「――頭痛い、気持ち悪い」
おれはうつむきながら小声でつぶやいた。