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2日目、深夜の部

一応舞台は九州だよ


『谷町線は炎上、御堂筋線は地下水道の流入により水が溢れ出ており』

『橋上府知事は大阪府全域に自衛隊の治安出動の要請、ですが自衛隊も混乱しており関西全域を担当する第三師団内でも混乱が起きており出動の目処は立っておりません』

『熊本市全域は停電しており復旧作業が行われる様子もありません』

『総理府は戒厳令を関東全域に拡大し』


携帯のワンセグを見るとそんな事ばかりが言われている。

NHK(日本放送組合)のチャンネルに切り替えると、スタジオの奥の声が聞こえた。


『皇居に陸自の空挺団が突入したぞ、戦車が発砲してる』

『永田町と櫓町と霞ヶ関、市ヶ谷一帯は戦場だ、千代田はまだ大事じゃないが何時までやら』

『陛下達は洋上に脱出されたそうだ』

『政府はどうすんだ、憲法だと大臣が全員死んだら再建出来ないぞ』

『そんなこと言ってる場合じゃないだろ、戦時下だよ』


どうやら彼らも情報が錯綜している様だ。

ひとまず夜明けを待って行こう、それが全員の結論だった。

三交代二時間で見張りをし、文月は眠っており、彼も少し寝た。


「なんか、有ったか?」


後ろから警官が画面を覗き込む。

首を横に振ると、警官も「でしょうな」と言う。


「警察無線で本署とも連絡が取れないんだ、定型文を垂れ流しているだけだよ」


制帽を深くかぶって足を組んで寝る警官に、指揮官も居なければ組織というのはその体型を維持しえないと言う事を理解させられた。

大きくため息をつき、目を閉ざそうとしたその時。


「来たぞ!!」


立ち番の若い警官が叫んだ。

全員が飛び起きて、旧ジープにライトが灯される。


「夜間移動は危ないって話だろ、やっつけようぜ」

「撃ったら余計引きつけちまうだろ、一気に突っ走ろうや」


後ろで会話が交わされ、立ち番の全員を回収したのを確認し旧ジープを走らせる。

すると駐車されたワゴン車のボンネットから転げ落ちながら子供の影が迫ってくる。


「まン、まぁ〜っ」


抑揚が無茶苦茶な言葉を発して迫ってくるのに気づき、速度を上げる。

一名落ちかけたがそれを荷台の全員で掴んで拾い上げ、駐車場を出て市街を突っ切るのが最短コースだ。

一番遠回りなのが市街ではなく迂回して通りの少ない国道を通る事だが、それは燃料の面から考えてもダメだろう。

だからこその市街打通を決意し、速度を速めた。


『ただいま、小郡、で、暴動、が、発生、して、おります、自宅、待機を、徹底し』


防災無線が機械的音声で放送をする。

だがそれを突如スパークを起こした電線のケーブルが直撃し、耳鳴りのような音を立て立て後聞こえなくなった。

車道の彼方此方に衝突した自動車や、炎を吹き上げる事故車が転がっていた。

道端には黒く焼け焦げた、昔長崎の被爆者資料館で見たグロテスクなロウ人形のより酷い死体も転がっていて今自分が居るのが西暦2017年の日本だとは思えはしなかった。


「なんだよ、どうなってんだ本当に」

「おい右から来るぞ!!」

「うわっ!!」


右に位置する建物のベランダからサラリーマンの様な見た目をした男性が飛び降りてくる。


「りぇぇぇェェんゆゥんかァん」


うわ言を発するそれを回避すべく左にハンドルを切った。


「アンタ地理わかってんのか!?」


後ろの自衛官が言うと、「一応」と言い返すと呆れた顔をする。

狭い道で前後左右挟まれると詰みになってしまう、そう直感が囁き今度は商店街を突っ走る。


「とぉぉぉふぅぅぅ!!」

「ぜぇぇぇるずぅぅ!」


豆腐屋とスーパーの店員だったらしい者達が後ろから追いかける。

さらには今度は左から物が崩れていく音が聞こえ、それは男性向け洋服屋を突き破って現れた。


「戦車!?」


洋服屋のマネキンが飾られた窓ガラスを突き破って砲身が現れ、

旧ジープが洋服屋の前を通過すると同時に74式戦車が商店街に現れた。

商店街の柱などを突き破って現れたために天井の照明やガラスが割れて降り注ぎ、

店員だったらしい者達は運悪く戦車に押しつぶされた。

全員が息を飲んで3秒間の短い時間に起こった一連の事をようやく脳が思考しだした。


「4戦ってあったぞ」

「バカ言え、ココと4大隊の所在地は離れてんだぞ」


会話を聞き流しながら運転に集中し、周囲を見回す。

歩きスマホしながら彷徨いているパーカーの若者が突如襲われたり、

ちらほらと死体の一部が増え、かの謎の暴徒が増えている。

横転したバスから傷だらけで逃げ惑う者や、赤く染まった民家の横を通っていく。


「わあああ!!」


裏路地から警察官が慌てて腰砕けになりながら逃げ出し、その後ろから機動隊員やあの通り魔たちが追っていく。

すると


「銃声?」


乾いたパンパンと言う、花火の様な音が聞こえる。

というより爆竹に近い音と、大きな花火の様な音が聞こえてきた。

一体なんだと疑問に思っていると、原因は分かった。

既に一部の警官達が自衛の為に発砲を始めたのだ。

回転式けん銃を発砲し、迫ってくる通り魔はそれでも止まりはしない。


「心臓撃っても効いてねえぞ!キチガイかよ!!」

「足、足を撃て!」


機動隊員がMP5Kを持ち出して銃撃を始め、通り魔の様な者は膝を撃たれて倒れた。

だがそのまま死に物狂いで這って迫り来る。

さらに銃声の聞きつけた通り魔達が離れるのではなく、むしろ集まっていた。

機動隊員の1人が旧ジープの前に立ち塞がり、言った。


「おい!お前らも手伝え!」


慌ててブレーキをかけた為、若い警官が二名の自衛官を下敷きにしてしまった。

だがそれよりも全員が重要と思ったのは、止めた機動隊員の発言であった。


「自衛隊法第92条の二"防衛出動に於ける緊急通行"!展開予定地域につき押しとおる!!

統帥権干犯だぞ!引っ込め!」


自衛官の1人が言う。

驚いた顔をして、怒った声で機動隊員が言う。


「そんな事言ってる場合か、すぐそこの角まであの通り魔共が溢れてんだぞ!」

「うるせー法務のイヌ、3数えるから退け!」


そう怒号を上げると、その自衛官は小銃を向ける。

その時。

近くのテントから悲鳴が響き、看護師が逃げ出して来た。

全員がそちらを振り向くと、血まみれの機動隊員や防刃チョッキの警察官達が出てくる。


「そんな、動けるはずないのに」

「出せ!!」


自衛官が彼の背中を蹴った。

旧ジープは一気に加速し、その場から離れる。

機動隊員は怒声をあげて制止しようとしたが、真横から歩いてきた警察官に首を噛まれる。


「同じだ、やっぱりアレは」


腕に赤十字の腕章をした自衛官が言う。


「なんだ?なにが同じなんだ?」


全員が気になり、尋ねた。

その自衛官は言った。


「はぁ、負傷者が意識を喪うあるいは昏睡状態になり、医学的に死亡したと言うボーダーラインすれすれで目覚めるんです

そしてその後は他者を襲い始める、昏睡したり意識を喪う者はその大抵が噛まれたり引っ掻かれたりって言う場合が多くて、

今ので、確信がつきました」

「んー、つまりあれか?増え鬼みたいな感じか?」

「そう、そんな感じの様に思えます」


増え鬼と言うのは、鬼ごっこの亜種で鬼が増えると言う特殊ルールがある。

それゆえに時間が経つにつれて鬼が増え、ローラーで押しつぶされるケースも多い。

つまりは、我々は今ローラー作戦で潰される可能性に瀕しているのだ。


「なあ、丘上の学校に再集結してるって事はさ、

負傷者が後送されているかも知れないんだよな?

と言う事は」

「「「あっ」」」


彼のふと思いついた言葉は、全員に冷や汗をかかせるに十分だった。

車はそのまま丘を登っており、全員に緊張感が張り詰め始める。

誰がなにを言うでもなく全員が各自で警戒を厳とし、全周囲を警戒する。

そして、道路を挟む林からライトが照らされ声が響いた。


『動くな!!』

『ライトを消せ!全員降りて両手を上げろ!』


ガスマスクをつけた自衛官達が現れ、言われた通りに降りる。


『こいつら、小銃とか持ってますよ』

『よし、全員連れて行け』


景色は彼らの未来の様に真っ黒だった。

最初の案では大阪府のK市の設定だったよ。

止むを得ずS県M群の設定になりました。

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