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1日目、夜の部


学校のグラウンドにはテントや救急車、パトカーが数台程停車しており、

人のざわめきは多く聞こえる。


悲鳴と言うざわめきが。


「ヤツラだ、おい。」


自衛官らしい青年が、無線機を背負った自衛官に言った。

肩を叩かれ無線機を背負った若者も「うん」と頷き、小銃を持って走っていく。


「こら逃げるな!!!止まれ!!止まらんか!!」


少しヒゲの生えた30代ほどの自衛官が拳銃を向けて叫ぶ。

救急車から血まみれの救急隊員が現れ、不安定な動きで救急車後部のドアから出てくる。


「ひぃっ!!」


入院着の様な服を着て、頭から血を垂れ流す男が飛び出してくる。

走って逃げようとする救急隊員の首をつかんで噛み付くそれに機動隊員が三人がかりで引き剝がし、

倒れたそれを三人で蹴飛ばしたり、警棒で乱打していく。

それでも暴れるその男に大楯を縦に突き刺す様に叩きつける異様な光景が見せつけられる。


「と、取り敢えず入ろうか?」

「や、やめた方が」

「...だよなあ」


文月は彼の腕を掴む。

体育館から制服を着た婦警が慌てて飛び出し、そのすぐ後に溢れ出た大量の何者か達が現れる。


「下がるな!下がるんじゃない!」


大きな胸が防刃防弾のチョッキから自己主張する茶髪で髪の長い女性機動隊員が、逃げてきた婦警に言う。


「嫌だ死にたくないよ!」


泣きながらそう言う婦警を後ろに、文月と彼は目を合わせた。


逃げよう。


そう互いに決める。

だが何処に逃げるか、これが問題だ。

何処に逃げるかを考えて居ると、腰砕けになりながら自衛官や警官、医師や看護師達が校舎から飛び出てくる。

73式トラックの荷台や旧ジープに駆け込む様に載って、左右に揺れながら自衛官たちが車を出す。


「やばい、後で考えよう...」


文月は近くにあった旧ジープの運転席に座っていた。


「載って!!!」


車はその咆哮を発し、遅れて校舎から飛び出てきた自衛官や警官達も彼と同じく乗り込む。

文月は急いで車を出すと、同じく逃げ出そうとするトラックが運転をしくじり盛大に学校前の文房具店に突っ込んだ。

校舎から更に民間人だった何かが窓から落ちたり、正門から溢れ出ており鉄砲水の如き勢いであった。

旧ジープは来た道を戻る。

市街にはもはや平穏という文字が消え失せており、至る所にあの通り魔達が現れていた。


「なんだよ...なにが起きてんだ!?」


荷台に飛び乗った自衛官や警官に尋ねる。

皆が皆憔悴した顔をしており、気づくと荷台には体育館から逃げ出した様子の婦警も居た。

数秒ほどの時間と共に、頭に包帯を巻いた自衛官が言った。


「それが分からないんだ、俺もいきなり呼び出されて送り込まれたんだ....会計が本職なのに....」


その言葉に「おいおい」とつぶやくと、彼は後ろに居る自衛官や警官に言った。


「なあ、誰かその無線機を扱える人は居るか?情報があるかもしれない」

「あ、僕扱えます」


笑顔の似合う好青年と言うべきそれなりに見た目の整った自衛官が言った。

文月は彼の胸元を見て言う。


「本管中隊の人ですか...」


旧ジープを一旦見晴らしの良さそうな大きめの駐車場に停める。

昔は遊園地があったが、今では大きめの駐車場しか残っていないのだそうだ。

4人ほどが四隅を見張り、普通の者も異常なあの通り魔も居ないか警戒している。


「えーと、よし、音量を上げますね」


そうすると雑音混じりで無線音声が聞こえる。


『・・は、丘上の女学院を徴用しそこを集結地点とし再編成を・・・

女学院と付近を完全に制圧・・・非協力的な者への無条件発砲・・・』


そこまで聞こえると、大きな、腹に響く重音が響いてくる。


「なっ、なんだァ!?」

「なんの音だ?」


皆が左右を見回すが、彼は咄嗟に気づいた。


「あぁッ!!!旅客機!?」


超低空でギアを展開し、左翼を傾けながらB767が自分たちの上空を通り過ぎていく。

自衛官の1人が言った。


「あ、確かあっちには電波塔が」


咄嗟に呟いたそれは、本当にそうなってしまった。

傾いた左翼が電波塔に直撃し、スコールの如く瓦礫を散乱させながら右へと倒れ周辺の民家やマンションに大打撃を与えていく。

電線が切断されガス管が破損し水道管から水が溢れ出し、割れたガラスの破片は人々を切り裂くのに十分だった。

だがそれだけに止まらず、B767が市街中心部から郊外にかけてに尻から不時着した。

それ故に尾輪と尾翼は飛散し主翼のエンジンやフラップは破損、エンジンは発火を始めて火災をまきおこす。

操縦席のある前面は不時着して2秒と経たないうちにへしゃげた機首のパーツで潰され機体の胴体は前後に分断され前部は棒を横向きにして転がした様に民家を押しつぶしていく。

残された後部は衝撃で1回のバウンドをすると、盛大にビルに突っ込んだ。


「あっ、あっ、あ、あ〜」


間の抜けた声が出てしまい、顔を少し赤らめる。

横幅は12mほどありそうな黒煙がもうもうと立ち上がり、皆がぼおっとした顔で見上げている。


「取り敢えず、女学院まで逃げよう。」

「でも、大丈夫なんでしょうか?」


無線機を扱っていた自衛官が言った。

不安そうな顔をしており、その理由は分かった。


「でも、学校がああなってる以上あそこ位しかなあ」


他に選択肢も思いつかない以上、どうにもならない。

全員同意し、今のところの目標は出来上がった。

ただ、


「夜明けまで、待つしかねーな」


すでに日は暮れ、空は暗くなっていた。

二時間交代の三交代で、寝よう。

すこし、つかれたし、な。



DC-10の予定が芸術点の都合によりB767に変更しました(某航空事故番組視聴者感)

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