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チャーリー。ラン。ラン。

今回のサブタイトルは地獄の黙示録からです。


突如聞こえる無線の音声、熊野のヘルメットは突入作戦等にも使われるので低音量でも良く聞こえるが不知火の無線は民生品と同じ物である。

そして微かな音に気付いたあの老紳士は、ゆっくりと、不知火のロッカーに近づく。


「くそっ!!」


勢いよくロッカーを開けた不知火は小銃でその老紳士を殴りかかる。

しかし死人とは思えぬ動きで、その老紳士はいなした。

小銃は老紳士ではなく金属製のテーブルを直撃し、大きな音を立てる。

こうなっては最早致し方ない、熊野は脱出を決意した。

後ろから老紳士に蹴りかかると予想外だったらしく倒れ、その隙に走り出す。


「こちらスカル1!!マザーグース1聞こえるか?!」

《生きてたか?!屋上まで走れ!来れるな?!》

「了解!」


外からはBAM!と何かが炸裂する音が聞こえる。

殆どの階層の罹患者はそれに引き寄せられ、若干迂回をすれば待ち伏せや立ちはだかると言った動きは出来ない程度には離れている。

しかしなお彼方此方から追いかけて来ている、動きは機敏ではないが確かに一歩一歩着実に迫っている。

非常階段を見つけ、不知火を入れると同時に防火扉を閉める。

容易には崩れない筈だ。

屋上の踊り場には、二人の姿があった。


「ん?!神州か?!」

「お前ら生きてたのか」


買い物籠を持っている神州と秋津を見つけ、彼らの買い物籠にはガスの缶が詰まっていた。

どうやらこれでトラップでも作るつもりらしい。

とりあえずドアを開けると、屋上には幾つかのテントが張られていた。


「粘ってた奴らが居たんだ・・・」


しかし玉砕したようだ、死体が見当たらない辺り脱出か物資捜索で死んだか、見えない所で自決したのだろうか。

そんなことを思っていると、外から炸裂音が聞こえた。

66式てき弾銃を適度に引き離せるよう撃ち込み、寄ってきた罹患者を火炎放射器を使い焼き払う。

コレラ発生地のバナナを焼き払う様子に良く似ている光景だが、すぐに考えるのを止めた。


「ヘリコプターだぁ」


設置を終えた神州が近づいてくる機影を指差す。

ACH-47、バンバンバードだ。


《騎兵隊の登場だ!》


モールの屋上の縁に寄せるように尾部を近付け、後部ハッチを開けようとする。

すると機体から《やばい!》と声が聞こえ、ACH-47は一旦上昇して離脱を図る。

理由はすぐにわかった、屋上のドアを罹患者が叩いている。


「封鎖してる今なら間に合う!ほら来い!!」


秋津が叫び、もう一度ヘリが接近する。

扉を叩く音はヘリの轟音に負けない大きさになりつつあり、蝶番が揺らぎ始めている。

そして一瞬だが、あの老紳士が見えた。


「不知火さんまずい!!アイツが居る!」

「くそっ!!」


不知火は三点射撃にセレクターを動かし、発砲した。

大きな轟音と共に爆発の炎と衝撃が押し寄せ、直線上に炎が巻き上がる。

気流が乱れたことでヘリが体勢を崩してアプローチをやり直し、燃えながら罹患者が迫ってきた。

黒く焦げ臭い燃え盛るヒトガタが何体も何体も歩いてやってくる、黙示録的だ。


「よし!乗れ乗れ!」


再度アプローチを試みたヘリに、一番ヘリに近い神州が援護射撃を開始する。

後部ドアからもガンナーがP225を銃撃し、何体かが倒れていくが際限がない。

最後に熊野が乗り込み、神州が乗ろうとすると罹患者が神州の足を掴んだ。


「やばい!」


咄嗟に神州が熊野の手を掴み、ガンナーが神州の足を噛みついた罹患者を撃ち抜く。

何とか引き揚げ、神州の足を見てみると血がついていたが彼の者ではなかった。

確かに歯形がうっすらついたが、新型乱闘服と足のアーマー部分のお陰で神州は助かった。


「ははは!やった、やった!!」

「スリル満点のおつかいだったな」


神州と不知火がそう後ろで話、熊野は疲れきって座席に横たわる。



三台の偵察バイクに乗った陸上自衛官が、手頃な高所を確保し双眼鏡を構える。

通信機を背負った通信隊員一名、護衛一名、観測手一名だ。

幸いなことに彼らは久留米の第四特科の者で、やり方はよく知っている。


「観測地点確保。目標集団確認」

「なんつう数してやがる」


護衛が思わずそう呟くレベルの、尋常ではない光景。

彼はワーテルローの映画を思い出した、あれには確か数万のソ連兵士が動員されてエキストラをしていたがあれよりすごく見える。

絵本のスイミーを人間にして禍々しさを足したらあぁなるんだろうなあとも思ったが。

すると、試射が飛んできた。

敵の突撃部隊前面およそ200ないし150前方に着弾というところか。


「火線を延伸、効力射撃要請!修正可能。送れ」

《了解!効力射開始!送れ》


そんな光景を見ながら彼は内心で舌打ちして政府と政治家を痛罵した。

くそっ!俺たちがこんなに防御戦闘に苦慮してるのだって、あの人気取りしか考えてない下劣な俗物がクラスターや対人地雷を禁止したからだ!

キチガイ政治家のつまらん理由のために、俺たち国民と軍人を何人殺せば気が済むんだあんな屑どもは。

水害も東北の騒乱も、全部あいつらの無策と無能とバカな思い付きだし、そんなんだから海保の内部告発でビデオが公開され政府の信頼が瓦解したのさ!

畜生、こんなことしかしてないから515や226になるんだよ、畜生。



佐賀空港の避難所は既に民兵を総動員し、編成を進めていた。

女子供すら手製の火器を配給し、自己防衛させる。

いよいよ沖縄の第32軍みたいになってきた、だがあの1945年とは違う、ソ連軍だってちょっとは温情位あったしアメリカ軍だってニミッツ提督やバーグ提督は話が通じる。

だがいまや墓の下から英霊大運動会だ、ふざけた話である。


「自衛隊が本土に艦砲射撃してるぜ」

「だから砲搭員とかが戻っていったのか」


長波親子も銃を取っている。

文月は数少ない女性自衛官だからという理由で女性民兵の教練を命じられ、小銃を教えている。

熊野は一通り見てみると、ふとおかしな点があるのに気づいた。

警察官や民兵は瞳の奥に何処か煌めき、と言うより熱意があり自衛官達、特に陸の隊員はふてぶてしいような面構えをしている。

そして不安げなのが海と空の臨時陸戦隊員であるのだ。


「諸君!武器を取れ!地獄から溢れた死人を送り返そう!」

「彼岸に消費者庁があるかコノヤロー」


アジにヤジが返される、ある意味前進主義的で日本人らしいな。

すると、重たい着弾の音が聞こえた。


「なんの音だ、海さんの音にしては大きい」

「あれ203mmの音だよ、重たいもん」


イラストリアルが驚いた顔で言う。

空自の基地警備隊員が呆れた顔をして言った。


「イラストリアルちゃんミリタリーオタクかい」

「違うよ?陸はそこまでじゃないもん」

「・・・あぁ、そう」


そう言えば去年の装備品展示でF-35に真っ先に並んでたのこの子だったなあ。

基地警備隊員は不安を振り払い、意気込む。

うん、少なくともいま僕が戦う戦争は、一点の曇りない祖国防衛戦争なんだ、前の大戦とは違うんだ、うん。

頑張ろう。

生きてイラストリアルちゃんにカッコいいとこ見せよう。


愛国心とは絶対違う力強い何かを背負って、彼らは旅だった。

次回からいよいよ最終決戦、相手は死人の悌団波状突撃。

勇気のない男は無いものを振り絞って戦うしかありません。


因みにあの老紳士も設定があります。

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