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9日目、午前の部

目指せ佐賀空港編

実在地名が大きく出てきます。


市街を抜けて、内陸部に進む。

無線機を暇なので弄ってみるが助けを求める無線が少しと、幾つかの録音放送が聞こえるだけだ。

音楽でも流してくれないかと弄ってみたが、今度は神の復活を叫ぶ狂った誰かの説教が流れてきて気分が悪くなってきた。

一番まともそうなのはどっかの民間防衛アナウンサーが録音放送で流しているサバイバルガイドである。

浄水の仕方や虫除けスプレーの作り方、野菜の栽培に関連するあれこれ。

それに遺体の処理に関するやり方や疾病に対する身近な防護案等も流している。

プロテクト&サバイブか。


「テントだ...」


熊野は、キャンプを見つけ停車した。

時刻は午前4時、薄暗く探索するかは迷う。

無視して逃げるか意見を聴くために、話し合いをすることにした。



話し合った結果様子見をしに行く事にした。

文月と秋月は「立哨すら立ててないから全滅してる!」と反対したが、水と食料調達等の観点で熊野は探索を主張し霜月は生存者回収を主張した。

結果二人で観に行く事に決まり、午前六時にキャンプ捜索を開始した。


「熊谷さん、あれおかしくないですか」

「熊野です霜月さん、あれ?あっ」


霜月が指差す方に、山でも木でも無いような影があった。

よくよく目を凝らし、ライトを向けて見るとそれは飛行機の主翼である事が判明した。


「ジャンボジェットだ、不時着したんすねぇ」

「不時着?墜落したのでは」


熊野は飛行機が降りてきた方と思われる方向を見て言った。

ゴルフ場だったようで土が一直線に削れている、これは間違いない。


「見てください、元々ゴルフ場だったようで木がないところに降りてます。

それに炎上の痕跡が無いですから燃料が無く、RAMを使ったんでしょうね。

生存者が居るわけだ...」

「アンタオタクなのか」

「いえ、メーデー視聴者です。

それに墜落ならもっと砕けてますよ」


B-767が左翼を破断して右翼に若干傾いているが、機首以外は胴体に問題はなさそうに見える。

機首は完全に壊れており、あの様子ではパイロットは死んだだろう。

ただ乗員乗客の20人程度は生きていて然るべきだ、爆発炎上もしてないしひとつのドアを除いて空気で膨らむ滑り台が出ている。

恐らく乗員が組織的に運用されていたようだ。


「しかし誰も居ない、各自で逃げ出したのかな」

「キャンプに衣類に写真、リュックを残してですか?」


テントの殆どは生活感が若干残っている。

下着や靴下、シャツにタオルとあり携帯ゲーム機もあった。

霜月はタクティカルライトをガムテープで着けた拳銃を構えつつ言った。


「じゃあ奴等が来て泡食って逃げ出した」

「争った痕跡、動かない死体が無いですよ。

憲法9条1項2項を守る義理はないですし、一体か二体は殺れる筈です」


そしてあるテントにあった乗員の日誌が、全てを語った。

この旅客機は秋田空港から北海道に避難民を輸送する任務を受けており6日前に空港を飛び立った。

しかし機内で罹患者が発生、損害無しで警官が射殺したが疑心暗鬼で自衛隊が発砲。

幸い警告射撃で早爆したらしいが、破片が飛び込み燃料漏れ。

結果全電源喪失してRAM(ラムエアタービン)使って高度を犠牲に電源を確保したが不時着したらしい。

そして最後の一文は、熊野をどんよりとした気分にさせた。


"私達は最早死者を食う所にまで来ている、我々と彼等の何が違うと言うのだ?"


「...ダメだな、こりゃ」


そして後ろから霜月の声が上がった。

近づいて見ると、一家族分の自殺者だった。

父親辺りが一家を殺害、最後に自殺した様だ。


「残念ながら生存者も物資もない、行こう」

「畜生、外もこんな状態か」

「何処もこんな状態だ」


死の世界と我々の世界は薄い膜で遮られているに過ぎない、被爆者の言葉をふと思い出した。

・・・私も死の世界を見るまでは何も知らない一人で居られたんだな。

昔の人は良いこと言うよ、本当。



あれから二時間ほどして、空に何かが飛んでいるのが見えた。


「鳥か?飛行機か?」

「さぁ」


誰も分からないが、あれは無人機ではなかろうか?

この前飛んでいった偵察機と言い、線路の上を飛んでいった戦闘機といい、知らない所で知らない事がされているようだ。


「やばい熊野さん前!前!」


文月が叫び、前を見るとそこまで有田町の外苑にバリケードと機関銃を載せた旧ジープが停車している。

しかし文月が叫んで止めようとした理由は道路上の中国の96式戦車の砲身が此方を見ている事だった。


「うそぉっ!!?」


慌てて停車すると、偵察バイクに乗った一人の自衛官らしき男が近づいてきた。


「あんさんらどげん行くと!」

「佐賀空港、避難所って聞いたけん」


訛った九州弁に標準語が通じるか分からないので方言で返す。

チラリと戦車を見ると戦車長らしい中国兵が双眼鏡で此方を見ていた。


「あぁよかよか、通ってええよ」

「すみません医薬品ありますか、銃創患者が一名居るんです」

「ん、連絡する」


標準語喋れんじゃねぇーか、地元民か試すために騙したのかコイツ、軍人連中たち悪い。

連絡が終わり、バリケードが動かされる。

大通りでは死体を積み上げ焼かれており、布もかけられていない死体が乱雑に積まれている。

中国兵と自衛官が混在しており、校庭では学生たちに自衛官が小銃の使い方を教えている。


「クソ、ソイツはもう"成る"ぞ!」


死体の中に罹患者が混じっており、報告した自衛官が特になんの感慨も躊躇いも持たずにスコップで頭を砕く。

組織的に活動して市街を一つ制圧しているようだ。


「まだ敗残兵になってない部隊が居るんだなぁ」

「あれ、熊野か」


熊野は唖然として振り向いた、防護具のヘルメットを脱いだ青葉が居る。


「青葉さんでしたか」

「よー、元気だったか」


青葉は町の事を教えてくれた、曰く前線部隊が核攻撃に驚愕し暫定的停戦を結んだ。

それにより中国軍の殆どが戦意を無くしており人類間の争いは取り敢えず終わった。


「相変わらず終わらせるのが遅い」

「全くだ」


熊野は学生たちのいる校庭を指さして言った。


「役に立つの?」

「罹患者相手なら行けるかもな、ひめゆりや鉄血勤皇隊だがな」

「まあ+-0に出来れば御の字か」


うだうだ言ってられんよなあ、正直。

畑や野菜を見るにかなり全うな陣地だ。


「て言うかあんたら何処にいくんだ、武雄市や伊万里に生きてる部隊は居ないぞ」

「佐賀空港だよ、情報はあるかい」

「あぁ、なら大丈夫だ、今も連絡がついてる」


それを聞いて少し安心した、ともあれ此なら良かろう。

すると、霜月と秋月が泣きながら小さな遺体袋を運び出してきた。

間に合わなかったか・・・。


「J-SEC?PMCもどきが何してるんだ」

「原発関係者家族の保護作戦してたんだと、撤退し損ねたらしい」

「あー、なるほど」


地図のデータを複製して貰い、偵察情報を分けてもらう。

道中は佐世保線の線路上を通って進んで渋滞を回避するか、佐世保行き方面の道路を逆に走る。

肥前山口駅まで言ったら海岸に近寄らず若干内陸寄りに佐賀空港に近づく。

海岸は海に逃げた難民を追って罹患者が大量に寄ってるらしい、入水は自発的にはしないようだ、こんなときでも河川は強い防御陣地らしい。

目指せ直線で43キロ!実質50かそんくらい!

ため息をついて、熊野はトイレと軽食を済ませ出発の用意をする。

どう考えても武雄市や江北町とかホットスポットなんだが大丈夫かなぁ。

空は世界各地で燃えた灰が未だに残ってるらしく薄暗い、まるで自分等の行く末だな。

口には出さず、皮肉を飲み込んで彼は進むことにした。

一週間以上経過して敗残兵も組織的な活動を再開、

異常事態の内容がわかり始め"武器を持った群衆"から"軍隊"に甦りつつあります。

こう言うところは近代国家の軍隊と言うシステムの凄さだと思うよ

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