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誰かの記録

東京のテレビ局、12chで有名なこの局は、放送機能を維持した所だった。

ここに職員は最低限しかいない、電気関連のメカニックとスタッフ数人、それにディレクターと打ち合わせに来ていたアニメ監督。

それと職員ではないが放送局なので展開してきた自衛官と警官の数人。

この局は三日前に、東京で騒ぎが起き出した頃に武装決起した一部自衛隊部隊が制圧していた。

故に封鎖は完璧であり、誰も居なくさせた。


「なにしに来た」


事態が深刻化する頃、アニメ監督が職員を数人連れてきた。

その監督は堂々とした顔で「何処か誰かの笑顔の為に」と言い、守備隊を呆れさせた。


「えーと、事態分かってらっしゃる?」


指揮官は困惑しながら言った。

しかしその監督は、極めて堂々とした様子を崩さず言った。


「むしろ事態が悪化するなら、です。

良いですが、最悪の場合無法の時代が来るかも知れないんです。

そんなときに子供たちは、皆は明日を生きる理由を見失うかも知れないんです!

明日も生きて、続きを見ようと思わせなければならないんです!」


指揮官は少し思案し、彼らの自由行動を認めた。

彼の燃える瞳に、何処か救うべきなにかを見いだしたのかただ単に頭悪いけど有害でないと思ったのかは分からない。

しかしこの男に、尋常ならざる正義感が確かに存在すると言う事は認めた。


かれこれ1週間、彼らは有りとあらゆる娯楽を提供した。

1941年のスーパーマン、鉄腕アトムや、ジャイアントロボ、王立宇宙軍も駆り出して明日は何を流すのかと言う興味を守るため。

人が生きるために生きるのではなく、明日を夢見て生きると言うことを守るために。

彼らは、この事態が終わるまでそれを続けた。



ただ知らなかったのは、ISSのクルーがドイツ軍事衛星のネットワークからNATO司令部を経由して世界に流されてた事だった。


「~♫」


小さな島国から流れる愛・おぼえていますかを口ずさみながら、ステーション保全の為に残ったクルーは今日もアニメを聴きながら作業を続ける。

そしてその小さな島国では、なぜかまだ衛星が機能している事を疑問に感じていた。



暗い熊本の市街を、ゆっくりとホラー映画の殺人鬼の動きのような、個人防護具を着けた機械化歩兵達が進む。

彼らの後ろでは避けることを諦め、死体を踏み潰しながら10式戦車が進んでいた。

西部方面隊は鹿児島まで追い詰められたがゆっくりと周辺に逆襲していた。


「お城、見えねえな」


ぼそりと誰かが言った、当然だ。

パニックが大阪で起こった頃、熊本市街に駐屯部隊が戒厳令を敷いていた。

二日すると博多にもパニックが始まり、ある噂が流れた。

この病気は外国(ロスケ、支那畜、メリケン、チョン、お好きに嵌めろ)が世界を征しようと流したのだ、というもの。

同じ日本人を信用するのはまだ簡単だった、まして血縁や普段の親交も多い九州ならそうだった。

しかし外人を信用できるか?答えはNOだ。

天災多き日本に於いて集団で纏まり、親類縁者で集まり異分子を排斥するのは遺伝子単位で当然と言うのは、実際間違っていない。

だがパニック拡大に連れて異分子を実力を以て排除すると言う決断があちこちで行われた。 

人類同士で潰しあったのだ。

結果治安部隊も収拾がつかず熊本を焼き払うと言う有り様だった。


「ん?」


先頭の一人が心音センサーを確認した、彼は左前方の商店に誰か居ると伝え、ライトを使い窓を照らして合図を送る。

するとカーテンから、子供がこっそりと顔を出した。


「子供だ、要救助対象だ。

救助急げ!」


全員が少し、気を弛めた。

このような末世的地獄を生きている者達が理性を守っていられる理由の一つは子供だからだ。

ちっぽけだが重たい正義感は人の心を建て直させる。


「大丈夫か、坊主!」


突入した救助部隊は、他の人が生きていないか確認をとる。

ただ汚れきった子供が一室だけは入れさせようとしない、罹患者が居ると確信した。

恐らく親の最後の理性か、それとも機転を効かせて封じ込めたか。

そう考え、ツーマンセルで扉を開けて突入する。

彼らが見たのは、刺殺された欧州系の外国人親子だった。


「・・・嘘だろ」


涙混じりの声が、虚しく響いた。



女学院の日誌


5月2日


また風邪で登校する児童がダース単位で減ったり、早退している。

既に一部部活は機能不全を起こしてるし、教員だって二人風邪気味だ。

しかしインフルエンザでも無いから休校にする理由が作れない、仕方ないから保護者に通達を出した。


5月3日


遂に私まで風邪気味だ!全く噂をすれば影か。

しかも通り魔や変質者が増えてるから今日警察官が注意勧告と、保安の要具の確認に来た。

駅前のあちこちに警官を配しているため物々しいが我慢してくれとの事だ、ただそれでも夜道を歩くなと付け加えていた。

...あの人、公安の人だったような。


5月4日


日誌担当の初霜さんが寝込んだので代筆。

ついに一番数が減った初等部五年が臨時休校にした、毒性の低い新型感冒らしいが...。

教員が三人休んでるし、親御さんが寝込んだ児童も多い。


5月5日


弓道部と茶道部が部員全滅と言う状態で無期限休止した。

ひどい話だ、何時から感染列島や復活の日になったのかね。

ただ罹患の数が目減りした、これで後は治るだけだろう。


5月6日


福岡空港で大騒ぎが起きたから朝から話題になった。

警官が異様に殺気だってるのはこれに関する情報を知ってたからか。

事態は大きくなってるらしい、一部児童の家庭と連絡が繋がらないのが実に不安。


5月7日


前任の浜風さんが通り魔による傷害事件の被害に遭われたので私が引き継ぐ。

昨晩女学院近くで発砲事件発生、ヤクザの抗争と警察が言うがこの近くにヤクザが居るわけない。

そもそもこれだけ警官が辺りに居て発砲なんてするのだろうか?事件の死者三人が唯一答えを知ってるだろう。

医薬品の追加購入を申請しておく。


5月8日


空港事件が終結した、警官隊が突入して犯行勢力を射殺して終わった。

だが町では発電所や水道局に機動隊が展開しているし、この女学院に警官が四人常時つくことになった。

警備の人と警官が仲良くしてくれてるし、とまれ安心だろう。

だが以前は良く見かけた自衛隊の車両やヘリコプターの訓練がピタリと止んだ、代わりに車列を見かける。

嫌な時代だ。


5月9日


信じられない、今でも恐い。

阿武隈さんに北上さんが襲い掛かった、警備員と警官三人がかりで取り抑えて手錠をかけたが、教員が一名負傷した。

保健室に倒れた北上さんを運んだ直後だった、なんでこんな事を?。

事態急転により無期限臨時全面休校にする事になった。


5月12日


丁度良いからこれを私の日誌にする。

女学院で再編成を行ったが最悪だ、我々はアッツの如く四方を敵地に囲まれた。

市外から救援は望めないし、どこの部隊も手一杯だ。

士気は苛烈な手段を用いて維持されているに過ぎない。

弾薬、重火器に不足し我々は鉄条網どころか機関銃すら足りていない。

幸い天文台があり、レンジャー隊員と選抜射手を数人、64式狙撃銃と一緒に展開してちょっとは良くしてる。

市街各所が炎上による停電で暗くなった、橋も爆破されたのを確認した。

文月は大丈夫だろうか?


5月13日


市街から逃げ込んできた避難民数人が来た、空に向けて威嚇射撃一発と、足元近くに一発撃って追っ払った。

避難民は幼児と中年で、価値がなかった。

残念ながら塹壕掘りも出来ない、息抜きにもならない無資源的で非生産性の存在を保護して自身はまともと言い張る気力も力もない。

不運だったと諦めてくれ。

我々は最早体裁と世間を気にする事すら出来ない。


5月14日


警官、及び散った連隊隊員と避難民のグループがやって来た。

三人ほど罹患容疑があったので騒乱罪及び破壊活動の容疑で放逐した。 

また避難民たちは別々にして、特に家族間は切り離して管理する、これで反乱を起こす確率が減るし"間引く"のが楽だ。

明日戦力が増えたし、食糧を集めに行くことを提案する。


5月16日


死者四名行方不明一名の損害を出したが三トン半二台分の保存食や乾麺を入手、幸い水道はまだ維持されている。

作戦中避難民が来て、兵卒にも息抜きが出来るくらいの人数になった。

...食い扶持を減らすことを視野にいれるか意見具申する。

それと、逃げる用意も。


5月19日


前任の敷島が脱柵した。

捜索処か逃げたのに気づいたのが最低一日は経過した後だった。

奴さん何処から逃げ出したんだ?唯一残ってたGPSや地図を持ち出した辺り、捜索妨害が手が込んでいる...。

士官が逃げだした為に各所が動揺している、"息抜き"の担当三人が早朝逃げようとして罹患者と勘違いされて二人を射殺してしまった、もったいない。


原子力規制庁のとある次官の日記


5月6日


なんと忌々しい!!私が風邪を引いた長官の代理として北海道の辺境に出張することになった。

出張だなんて全く、こんな事なら仮病にしとくべきだったな。

何で私が北海道の辺境の原発になんか行くことになったんだいこんちくしょう!

庁のあちこちで病欠が出てるし、本当に全く、何で私が行かなきゃならんのだ、国鉄時代すら路線が無かった辺境だぞ。

くそが


5月7日


忌々しい事が連続するらしい、乗る予定だった飛行機に乗れなかった。

空港で事件があったかららしい、酷い話だが事実だ。

仕方ないから新幹線に切り替えたが、こっちは二駅で人身事故で止まりやがった!

在来線を幾つか乗り継いで運休区間を迂回し、諦めて急行を乗り継ぐなどして向かう。

幸い彼方さんは遅れることを理解してくれた、監査に関わらなくてよかった...。

それと幸いと言ってはなんだが、首都圏での揉め事で動けなくならなくて良かった。


5月8日


東北で一泊して漸く北海道についた。

札幌ラーメンは堪能できたので機嫌が治った、最寄り駅に着くまで四時間ある。

背広を着ているのが馬鹿馬鹿しくなってきた、乗り合わせたお婆さんと談笑したが近くにある村に帰るようだ。

その老婆は何かを感じ取った、そんな顔をしていた。

他の老人にも話を聞いたが、同じように答えた。

皆90から85以上で、奇妙な胸騒ぎがする。

彼らは幼少を動乱の時代で過ごした、そしてそのなかで育つなかで危険予知に関して鈍らない直感を有しているのでは無かろうか?

この出張、ただでは終わらない気がする。


5月9日


総理が倒れ、亡くなったと内示された。

内示された理由は長官殿が危篤になられた為で、序列の中で一番健康な私が下手すると臨時長官となる。

出張はあと四日ある、その間に高位の誰かが快復する事を祈ろう...。


5月10日


九州、関西、首都圏で新種の疾病による暴動が起こったらしい。

韓国や台湾、中国でも起こっているし、アメリカも騒乱状態だ。

今日原発に居ると自衛隊の部隊が増援に展開してきた、近隣の老人たちは山に消えていってしまいがらんどうだ。

原発職員達の家族は明日こちらに来るそうだ。


5月11日


嘘だろ...俺が臨時内閣府に参画しろだって?!

他の大臣は皆死んだか行方不明になった、憲法的には後継の内閣府を作れないが臨時らしい。

仕方ないので渋々呑んだ、ともあれ護衛はつく。


5月13日


散々な目に遭った、昨日は書いてる暇もなかった。

他の臨時閣僚は殆ど指揮能力を有していない、私は各地域の原子力設備に指示を出しただけだがそれだけで称賛されている、他が無能過ぎるんだ。

自衛隊も警察も収拾どころではない、東北では民衆が政府施設に襲撃を仕掛けてるし北海道北方は戦時下、

日本海の周囲には溢れ出た大陸各国の難民が流れ込もうとしている。

海保の無警告射撃を撃ち込んでも止まらないのでやむを得ず航空機による航空爆撃を実行したが地対空誘導弾による反撃を受けた。

長崎県等の沿岸部は漂着した難民船や死体で埋まりつつある。


5月14日


米国が公式に在日米軍の撤収を通知してきた、

それは良いんだがついでにお前らの罹患者も連れていけ糞が。

関東一体は我々の統制におえず、橋梁を爆破して川沿いを丸焼きにして封じ込めようともがいている。

九州に至っては下手に動かして動ける戦力は殆どないようだ。

北海道は音威子府、天塩川のラインでロシア軍が動きを止めた、日本海に散った海保の戦力を集めて青函海峡を閉鎖、

北海道に立てこもる事にする。


5月16日


どこかの馬鹿が戦術核兵器を使用、沖縄戦は終結しつつある。

北海道も小樽、札幌、旭川の三都市は爆撃されて炎上している。


ー以降は水に濡れたため読めないー





あと5日、あと5日分書ききれば完結なんや。

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