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8日目、午後の部

おまたせ


劇中で罹患者が武器を使うことに「ゾンビが武器を?」と思った貴方、

批判する前にロメロ大先生のバタリアンを思い出してほしい、

それでダメなら...了解、射殺します()



ピチャと言う水の音と共に文月たちはそこから立ち去り、ある意味用事は済んだ。

子供の背負っていたリュックには幾つかの乾麺と飲料があり、それぞれ一つを残して熊野も立ち去った。



仕方なくのしろの替えの下着を探す為、市街の中心に進む。

罹患者はここでも居たようで、遺体袋がいくつも道路に並んでいた。

長崎県警と書かれた輸送警備車が交差点に数両止まっており、射殺された遺体が転がっている。

一週間も立ってるのに蛆もハエも集っていない事に疑問を持っていると、何かが動く音がした。


「居る」

「罹患者ですかね」


周囲を見回しながら、ゆっくりと動く。

すると音が段々とはっきりしてきた、揺れる装具の音にブーツの足音だ。

過去の経験上警察等もあてに出来るか怪しいので様子を伺うべく輸送警備車の下に潜り込み、文月とのしろは隣の建物の路地裏に隠れた。


「え?」


熊野は思わず首を傾げた。

子供、恐らく八歳程だろうか?それくらいのフードを被った少女が一人走っている。

だが驚いたのはそこではない、追っている側だった。

挿絵(By みてみん)

黒いフリッツヘルメットと黒い装具を着け、MP5A4を装備した長崎県警の緊急対応部隊だったからだ。

見たところ罹患者ではない、しかも追っているのは子供だ。

二人の警官は、罹患者特有の狂った抑揚で無線機に話しかけた。


「被疑者確保確保ぉ~」


間違いない、奴等確かに罹患者だ。

熊野はこの時、戦うと言う手段を脳内から放り捨てた。

何故か?ただでさえ身体のリミッターが壊れてる罹患者相手はきついのに、相手は.45ACP弾にある程度耐えれるチョッキを着用している。

それに難燃で火炎も通用しないのも知っていた、長崎県は九州の中でも反政府系の暴動が多かったからだ。

政府の経済政策の失敗は警察の軍隊化を否応なしに選択させたのである、まあ要するに警察が自衛隊に頭を下げたくなかったのだが...。


「いや、いやあ」


少女は腰が抜けたのか、立ち上がれない。

すると熊野に気付いて助けを求めたが、熊野は黙殺した。

何故他人のために死なねばならない?彼の目的は自己の利益の最大化であって、現状に於いてそれは生存である。

命を散らしてやる義理など更々ない。


「助けて!!」


熊野は嫌そうな顔をして、周りを見回す。

すると見える範囲で一番高い建物、恐らくホテルの屋上から何かが光った、ただのガラスの反射と思えない。

熊野でも重武装の長崎県警の緊急対応部隊の狙撃隊は弱装7.62mm弾と改造M14装備している事を知っていた。

恐らく民家の壁程度濡れ紙同然、だが現状の輸送警備車の下なら見えないし、撃っても貫通すると思えない。

40~60度の傾斜した鉄板を撃ち抜くには距離も装薬からみても無理だろうと結論付けていた。


「いやあああ!!」


泣きながら引き摺られる少女を見棄てた熊野の感情に起伏など無かった。

神は自ら助かる努力をする者を助けるのだ、子供といえど庇護下にいることを許されないのである。

その時だった、罹患者の一人が殺気を帯びて短機関銃をゆらりと向け、熊野に向かってきた。

クソッタレ!と心のなかで絶叫しつつ、ゆっくりと下がる。

PANPAN!と軽い炸裂音と共に近づいてきた罹患者が倒れ、少女を引き摺って居た罹患者が腰だめにMP5を構えて近づいてくる敵に乱射する。

連発の音と落ちる薬莢の音が響き、罹患者の右腕に命中し、続いて頭に二発飛び込んだ。


「大丈夫!?」


若い女性の声だった。

車の下から出て見てみると、赤と青色のマークですぐに分かった。

大日本セキュリティ、J-SECだ、事実上の国策企業と言った話でクライアントに防衛省や防衛産業等の国益が絡む処が多かった。

二人のJ-SEC職員は片方が防刀チョッキを着ており、もう片方は極めてラフな格好をしていた。

挿絵(By みてみん)


「文月、どうやら大丈夫そうだ」


ゆっくり両手を上げて言うと、のしろと文月も出てきた。


「私、霜月時雨。

こっちは秋月(かや)


サイドテールが特徴的な、チョッキを着た霜月がそう言った。

秋月の方は落ち着いた雰囲気をしており、辺りを見回して警戒している。

熊野はこのおかしな罹患者について尋ねた。


「こんな罹患者始めて見たぞ、いったい何があったんですか」


すると、それを聞いて二人が首を傾げた。


「貴方町の外から来たの?」


霜月が嬉しげに尋ねてきたので、理由を察した。

恐らく事態がまだ政府による解決が可能な範囲と思っているのだろう、冗談じゃない、北海道の札幌や十勝くらいしか機能してない様子の連中だぞ。


「残念だけど、自衛隊や警察もあてにならない。

それに中国とかから逃げ込んだ連中と潰しあってる」


だが嬉しげな理由はそうではなかった。


「いや違うの、この町から逃げ出すの」

「逃げるって何処に?」

「ここ以外よ、ここは最悪よ」


すると、少女が倒れVASHI!と言う音が響いた。

その直後に残響のような銃声が聞こえ、腹部を撃たれた少女が倒れる。


「近付くなッ!!」


文月が近寄ろうとした秋月を抑える。


「何してるんです助けないと」

「餌だ!わざと殺さないで私たちを友釣りする気なの」

「なんで分かるんです!」


しばし言い澱み、文月は言った。


「自衛官だから、66普連から逃げ出した...」


秋月は渋々同意した、だが霜月はそれでも助けたいらしく、隙をうかがっている。

だがそれは不可能だった、辺りから揃った足音が聞こえてきたからだ。


「やばいぞ逃げよう!」

「でも」


霜月は何か言いたげにしているが、文月が冷めきった視線と共に言う。


「腹部を銃で、それも狙撃銃で用いられる弾丸で撃たれてる。

緊急医療設備と人員が居ないんでしょう?手遅れだ」

「でも、子供なんです」

「子供だろうと関係ない!分からない人から死ぬ」


霜月は渋々受け入れ、その場を離れる。

血を吐き出しながら、少女はその生を打ち切られた。



20分程して、貪られる少女のもとへ一人の婦警が現れた。

肩章は血に汚れ顔にも血がついている、だがそれ以外は他の一般的な"人間"と変わりなかった。

挿絵(By みてみん)


「逃がした?」


眼鏡を吹きながら、その婦警は緊急対応部隊の隊員だった罹患者に鋭い眼で尋ねる。


「雁首揃えてこれですか、これだから順序を守らない人は」


自身のP225拳銃を確認し、その婦警は言う。


「何人か狙撃班を変更させましょう、何処に居るか知らなくちゃ」

「了ォ~がい」


熊野と文月は、未知なる敵に出会った。


新たなる場所と新たなる敵

次回は異常の市街がどうしてこうなったかの話。

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