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8日目、午前の部

今まで出てきた自衛隊の部隊は普通科連隊だったり冬戦教のエリートだったり、陸の部隊でした。

当然事態が意味不明な訳でやる気は薄いが戦闘は訓練済み、税金分の能力がある。

だがこれが専門家たちでなかったら?


結論から言うと、価値があった。

つまり人的資源である、20代の朝に弱い程度の男性。

耕作でもすれば十分な価値を見つけれるだろう、そこを説き伏せれば価値が出てくると思う。


それを考え付いたのは昨晩の深夜だった。



飛んできたMV-22J二機は低空で接近し、目の前に降下した。

嵐達と比べるとあまりに"不慣れ"な様子で辺りに展開した自衛官たちは、酒匂に「居るのはこれで全員か?」と尋ね、確認すると酒匂に言った。


「緊急オペを頼みたい!ヘリに載せているんだ」

「あ、あぁだがサポートは?」

「看護師が一名、連れてきているからそれで何とかしてくれ」


酒匂は「あまり期待すんなよ」と付け加えた。


「お前らは担架を運んでくれ」


熊野と文月は酒匂の指示を受けて動き出す。

すると、警戒していた陸とは違う迷彩の自衛官が叫んだ。


「出たぞ!」


64式小銃を構え、DAM!とセミオートで発砲が始まる。

瞬く間に銃声が連発に変わり、上空待機のオスプレイからもM3グリースガンの援護射撃が始まる。

熊野の首元に空薬莢が飛び込み、慌てて熊野は高熱の空薬莢を取り出した。

すると、上空のオスプレイの様子が何かおかしい。

後部ハッチの自衛官が驚愕した様子で何かを叫び、機内に銃を向けた。

オスプレイはキャノピーを紅く染めて回転し始め、着陸していた一機の近くに墜落した。


「わああああ!!」


墜落に巻き込まれ燃え盛る自衛官がM1A1を暴発させ、.45ACP弾が着陸中のオスプレイを撃ち抜いていく。

副操縦士が死亡し恐慌状態の操縦士は離陸を開始する。


「おい!置いてく気か!」


熊野がまるで素人じゃないか!と怒りながらそう叫んでいると、のしろが熊野と文月の手を引っ張る。


「はやく隠れよ!」

「あ、あぁそうだな」


熊野達は退避を決意し、離陸を開始したオスプレイでは罹患していた一人が発症し操縦士の首元を噛み千切る。

残った者達は各個に逃げるか、熊野のように施設に逃げ込んだ。


「何してるはやく閉めろ!!」


酒匂は事態を察知して言うが、自衛官達は「まだ来てるんだ!」と防火扉を閉めさせない。

「ここで全員死ぬぞ!」と酒匂は説得するが彼らは譲らない。

すると逃げ遅れた自衛官が一人と、罹患者が迫ってくる。


「もう手遅れだ!間に合わん!!」

「やめろ!!」


酒匂が非常スイッチを押そうとするが自衛官の一人がM1A1を撃った。

TATATAと小気味良い発砲音が響き、壁が赤い液体がぶっかけられたように染まっていく。

逃げ遅れた自衛官が追い付かれ、ついに非常スイッチが押された。


「酒匂...さん?」


文月が見たのは草臥れ、疲れきった敗残兵と、倒れて動かない酒匂の姿だった。

熊野は出てこようとしたのしろを慌てて自分の身体で隠し、部屋に居るように言う。

それくらいの事をしてやるくらいの恩義があったからだ。


「ねえおとうさんは?おとうさん?」


のしろはドアの向こうから声をかけ、全員が気まずい沈黙を抱く。

そしてあろうことか、酒匂の身体が動いた。


「だ、大丈夫か」


彼は起き上がったが、目覚めていなかった。

壁にまた鮮血が飛び散り、絶叫が木霊する。

のしろを文月と一緒に蹴飛ばして部屋に押し込め、発症した空自基地警備隊の隊員が入ろうとした熊野を阻んだ。

横に跳ねて避けた熊野は手近な部屋に入り、ドアを閉めて鍵をかけ、ベットと本棚を倒してバリケードを組んだ。

外からは悲鳴が轟いてたり、物が壊れる音が聞こえる。

熊野の居る部屋のドアも、先程から平手で打つように叩かれている。


「けぇぇかぁいよぉぉすぅぅ」


更に小銃か何かで叩いているらしき音も加わり、熊野はいよいよここが死に場所かと一瞬諦めたが、痛いのは嫌だからすぐに逃げ道を探す。

しかし四方八方塞がり、以前と違って下から...。


「今度は上か」


上を見ると確かにそこにあるは何かのダクト!酒匂の話なら人が一人通るくらい出来る筈だ。

タブレット端末を取り出し、ドアの前で大きな音量で音楽を流す。

大音量の"統一戦線の歌(UNITED FLONT)"が流れ、引き寄せられたらしい罹患者により更に激しく叩かれる。

ついに蝶番が震え、崩れそうだ。

倒れたベットから本棚を経由してダクトに入る、狭いだろうと考えリュックサックを放棄したがコラテラルダメージと言う物だ、命あっての物種である。

ダクトに入りきった直後、ドアが破れて罹患者が突入した。

軍靴特有の乾いた足音がバリケードを崩して進む音が聞こえ、熊野は一安心した。


「おーい」


文月達のいる部屋に声をかけていると、文月は大きく身体を震わせた。


「ごめんそっちから開けられない?」


ダクトのカバーを開けられないのでそう尋ねると、文月はようやくダクトに熊野が居ることに気づいた。

本棚をずらして貰って、本棚を経由して部屋に降り立つ。

部屋にはのしろと文月しか居ない、他の連中は別のところか既に死んだか、死に損ねている。


「のしろ、ここ非常出口とか無いよね?」

「ないよ」


やっぱ彼処から出るしか無いかあ。

嫌そうに熊野はそう呟き、文月に向かって言う。


「文月、ちゃんとタブレットあるよな?」

「えぇ、一応」


それを聞いて熊野は文月からタブレットを借りて、全員に靴を脱ぐよう言った。

何故か?足音を立てたくないからである。

チラリと戸を開けて、出口のある方向を確認する。

"成って"しまった酒匂がそこに居るが他は居ない様に思える。

しかし問題は防火扉だ。

アレを開けるにはかなりの手間がかかる筈だ。


「よし、文月、火災報知器を狙撃出来るか?」

「出来ますけど撃ったら奴等が」

「別の部屋から撃って、ダクト経由で撤退」


文月は嫌そうだが、熊野は素人だから当てられないだろう。

やる気のない文月のやる気を灯すため、熊野は言った。


「ここに隠れても死体の硫化水素で俺達全員死ぬぞ」


生命の目的とは生存以外に他ならぬ、この世の真理に近い彼の哲学だった。

そしてそれは文月を本気にさせ、かつ危険回避に成功した。

東京や大阪で地下鉄駅構内等に立て籠ったグループは数多い、だが彼らの殆どは死体から出た硫化水素で死んでいた。

地下で燃やすことは出来ないし、地下に腐葉土はない、その為どうにもならなかった。

そしてそれ以外は腐敗ガスが地上の火災によって引火してミディアムか、ヴェルダンか、踊り食いの三種を選択させられていたからだ。

自己の存亡の危機に際して人は大きな力を発揮する、かつて見た沖縄戦の資料を思い出すことに成功していたのだ。


「やって、みます」

「頑張って」


事態を上手く把握してないのしろは、出会ったときの様に優しく微笑んだ。

熊野は彼女をどうするか、少し思案した。

結論は出なかった、その前に銃声と撒水が降り注いだからだ。


後々出てきますが佐賀空港守備隊の隊員は騒乱を詳しく理解してないです。

何せなんにもないから罹患者が大パニック起こす前に事態を知り、それでも発生した少数の罹患者を始末し、

民間人パパッと避難させてる程度ですんで。(避難先が安全だったとは言ってない)

おまけに現地警備隊は空自担当で装備は古くさいし基礎訓練程度、しかも事態が事態だけに警戒感を抱き続けるとか言う高ストレス。

そんな状況が煮詰まってこの惨状と言う訳です。

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