5日目、午前の部
本当に申し訳ない。
熊野は目を覚ますと無言でタブレットを見てみる。
昨日より掲示板の伸びがさらに減っている、昨日は20秒くらいに一つのレスがあったが現在二分三分に一つだ。
これが現在大手掲示板の中で最大人気のスレッドだって言うのにこれである。
どっかのブラウザゲーのスレッドなんて五秒に一つくらいレスがあったのに今じゃDAT落ちしたぞ。
「あーたらしーいー朝がきた、くそったれのあーさーだ...」
悦びなんて知らねえよカス。
内心そう思いながらシャツを着替える、リュックからシャツを取り出して着替える。
汗がグッチョリと染みていてとても気持ち悪かったが、着替える余裕が無かったのだ。
着替えている後ろでは、漸く繋がったテレビの映像がタブレットから流れている。
草臥れきった様子のNHKの女性アナウンサーが、紙を片手に緩めたネクタイを揺らして言った。
『全国を席巻している事件の24時間体制の取材を続けます。
私の言うことを正しく聞いてください、彼らは動く死人です、動いて生きてるものを襲う死人です。
世界各地の目撃者たちの報告は全て確認されました。
この恐ろしい知らせは否定することが出来ません。
これは報道関係者として失格の意見ですが、我々は世界の終わりに直面しているかも知れないと言うことです』
ー
本部の前では黒いベレー帽を被った自衛官が鉄帽や戦闘帽を被った自衛官数人を詰問していた。
「お前ら何処の部隊だ」
「肥前麓の需品です、死にかけながら再編してるって言うんできました」
どうやら九州各地区のが集まりつつあるらしい。
熊野は文月から、黒いベレーを着けている彼らが冬期戦技教導隊と言うエリートである事を教えられた。
ついたあだ名は頭戦狂だとか言われており、九州に居る筈が無いはずだがどうやら秘密演習だかなんだかで来ていたようだ。
船舶による移動だったから罹患者を隔離しやすかったのだろう。
「あぁ、来たか」
以前会った嵐と言う自衛官が、人当たりの良さそうで女性受けしそうな笑顔を浮かべて言う。
男性である熊野からしても顔の良いと言えるくらいである。
以前面接した部屋でなく、奥にある恐らく市長だか町長の部屋に嵐は案内していく。
MP5Kを持った冬戦教の自衛官が三人立っているが、顔色は元気と言うより疲れたと言う感じであった。
室内は整理整頓されている、と言うよりそんなに生活感と言うか使っている雰囲気を感じない。
窓がちょうど嵐からして6時方向にあり、彼の左には前任の持ち物と推測される壺とそれなりに高そうな木製戸棚がある。
右には扉とゴミ箱が置いてあり、ゴミ箱には裁断された書類が幾つか散見される。
扉の先には寝室か何かがあるのだろう。
他に特筆すべき事と言うと、コートを羽織った公安の女性がいた。
「あぁ、君だけなんだ、すまない」
文月をコートを羽織った捜査官らしき女性が連れていく。
態度からして機械的で、熊野は少し恐ろしさを感じた。
ああいう人種は関わる事さえしなきゃ無害だが嫌でも関わりそうになっている、そんな直感があった。
扉が閉められ、嵐は椅子に腰掛けてゆっくりと低い声で言う。
「さて、ある学園の部隊から君の事を知っている、敷島氏との連絡もだ」
うわあ、やっぱり尾を引いたァ!!!。
熊野は半ばもう人生終わりかもと思っている、万が一反撃出来たとして正規兵が市民に負けるとも思えない。
それを考えると、とりあえず話を聞くしかなかった。
「ん?あぁ心配しなくていい、三日だけ私たちに協力してほしいんだ。
四日後ここを出て対馬に輸送される、それだけでいい、免罪になるぞ?」
殴ったくせにそれ慰めて好い人そうに見せるヤクザの手口かよ。
とはいえ選択肢は事実上一つだけ、ここで「死ね日帝」と先手を打っても勝てやしない。
「補給部隊に於ける荷物持ちだ、簡単だろ?」
「...文月も?」
「いや、彼女は体よく言うなら担保になってもらう」
「人質かあ」
「露骨すぎるな、その言い方は」
嵐は続けて言う。
「君は、恐らく逃げないだろう。
逃げるような奴なら君は既に彼女を見捨てれた、学園の時点でね」
「買いかぶりに思えてならんのですが」
嵐は熊野の言葉に微笑して言う。
「君は利益のあるうちは約束を守るタイプの人間だろう?私の見立てではそう思うが」
「...否定はしません」
「相互理解が出来て何より」
上っ面はきれいだが、底はどぶのように真っ黒な笑顔と共に彼は手を出す。
しぶしぶ握手をして、部屋を出ると女性捜査官が待っていた。
首にかけている札には公安調査庁外事課:比叡常盤とある。
「文月さんには既に説明を終えました、では手前でお待ちを、このマイナンバーを忘れずに」
そう言うと、彼女は去っていった。
ー
熊野は隔離壁の外へとつれてこられ、倉庫に入るように言われた。
中では装具を付けた隊員達が小説を読んでいたり、鉄帽の迷彩カバーを取り替えたりしていた。
他には緑色の迷彩から市街地用デジタル迷彩にされたLAVが二台停車しており、一撃必殺と装具にマーキングしてある隊員が「あぁ、君か」と少し意外そうに言った。
「君が荷物持ち兼運転手か」
「そうなり、ますね」
「君も運がないねぇ、まあよろしく」
そう言うと、その指揮官らしき隊員はプレートキャリアと鉄帽を持って言う。
「着るか?」
「...アレとかに耐えれたりするのであれば」
「無理だね!拳銃くらいにしか、まあお守りとして...」
「じゃあ重そうですので止めておきます」
続いて上着を支給される、最もこれは個人携行医薬品を持たせたいが故である。
それを着替え終わるとインカムを装着し、音声をテストする。
『東京ローズでございます』と言うテスト通信が聞こえ、聞こえた事を伝える。
「そこの小銃手四人が朝雲、霧島、畝傍、香椎。
そこで機関銃手の二人が大淀と鈴谷」
言われた隊員達がグッと親指を立てたり、片手を上げる。
「で、そこのボンバーマンが日向だ」
「ひでぇや」
M402のような四連ロケットランチャーを持った隊員が、中指を立てて返事をする。
探索は基本このメンバーでやっているらしい、一日一回使える物をかき集めさっさと撤収するらしい。
「罹患者は大丈夫なんですか?」
「ん?町では殆ど居ないよ、体育館に閉じ込めたもん」
「え?!」
「もっとも居なくなったんじゃないから、警戒はすること」
そう言うと指揮官らしき隊員は、最後に自己紹介した。
「そんで私が青葉榛名!よろしく、呼ぶときはさん付けか陸曹って言えよ」
うわあ。
なんだか偉いことになっちゃったぞ。
熊野はそうおもいながら、「どうも」と返すことにした。
「それでは諸君行くとしよう!第一目標スーパーマーケット!」
LAVのエンジンが唸りを上げて、全員が乗車する。
ターレットに据え付けられたMINIMIの安全装置がはずされ、カーナビに目的地が設定される。
ここから約1.7キロ西南、楽しい武装ハイキングだ!。
泣くほどたのしいね。
探索部隊の隊員は熊野以外全員職業軍人ですんでprofessionalな感じを頑張って書いていきたいと思ふ...。




