4日目、午後の部2
食欲の失せた顔をしている文月を連れて港の近くに行くとそれなりの人だかりがあった。
「らっしゃいらっしゃーい!」
活気は少しだが存在しており、中規模な倉庫であった施設を食事処に上手く改装した店を見つける。
酒が有れば人が来る、従って情報も来るわけだ。
こう言う情報の雑多な所は熊野の好みではないが四の五の言っていられない、楽しくないヒューミントだ。
「らっしゃい!」
店主はロン毛に焼けた肌、インディアンのようなフェイスペイントを施した20代後半の男でクラブに居そうな印象があった。
頭にスカーフ丸眼鏡で腹は少し出ている。
「酒はビールしか無ェよ!前払いだぜ」
高い声でそう言う店主に、熊野は少し尋ねてみる。
「前払いってことは現金使えるんですか?と言うか配給でなく店まであるとはね」
店主は大いに笑って言う。
「ワハハハ!どんな体制であれ情勢であれ俺のような飯屋は何処にでも存在し活動するのだ!
人間好きに飯食ってねぇとやってらんないんだからな!」
「正論だ」
「それに現金はそんなに価値ないぜ、自販機とか使えるから価値は完全には死んでねえけど」
てっきり「ケツ拭く紙にもなりゃしねぇ」と言われると思った熊野は少し驚いた。
「んじゃ原始的物々交換って言うわけか、そりゃ大変」
「慣れればかわんねえ、税金無くなってある意味ぼろ儲けよ」
店主は箱を取り出す。
箱には靴や、薬等の物が入っていた。
上等な靴はレート高そうだなあと思いつつ熊野は飯について尋ねる。
壁には"けつねうーろん"や"スキヤキ"や"おでん"とあるがでかでかと「店主の懐古的妄言です」と書かれていた。
「今出せんのはラーメンくらいだな、それか焼き飯」
「んじゃ焼き飯、玉子は少しグチョっとしてる感じで」
「おっす、銭は」
熊野はUSBを取り出して店主に耳打ちする。
「ダウンロードした南米人身売買組織の児童ポルノ三本入り」
「んなっ!?」
店主はUSBを受け取って言う。
この先ネットが断線してもおかしくない以上こう言う需要は生まれる。
株式で細々と稼いでいた熊野の悪辣なずる賢い悪巧みである。
「はーおったまげた、こりゃお釣り出ちゃうよ」
「んじゃお釣りついでにちょっとこの町について聞かせてくれて良いかな?私とこの子今日来たばかりだからよく分かんなくてね」
すると店主は応じて話し出す。
「俺が来たのは一昨日の───
ー
話はなかなかに壮絶であった。
この店主は佐世保を辛くも脱出したはいいが乗ってた船がヘリに撃沈させられて死にかけながら流れ着いたらしい。
この町に着いたときには徹底的な罹患者狩りが行われてたらしく、負傷者等は隔離処置ないしは射殺と言う強硬処置がされていたらしい。
熊野は多少功利主義の気があるので強引だが納得したが、肉親から罹患者が出て白眼視された連中が駅などのスラムの住人らしい。
「ふーむ、そう言う経緯があったのか」
焼き飯を食べ終え、麦茶を飲み干して言うと文月は良く食えると言わんばかりに目を細めていた。
「人間食わねば死ぬ、人死になんて小郡や目達原で腐るほど見たろ」
「そうですけど...」
文月はそう言う問題ではないと言いたげだが、言わなかった。
守って利益があるなら道徳は守られる、利益もなく害しかもたらさない倫理や道徳と言う危険は守らない。
世の中そんくらいで良いのに。
熊野はそう思いながら皿を返す。
「あ、そうだ、ねーちゃんここで仕事しないか。まかないあるよ!」
店主はそう言うと、文月は少し考える。
奥から別の店員が顔を出して言った。
小学生くらいの子供で、丸い顔をしてる。
「新人増えんの?」
「わー、児童労働違反だ」
熊野はそうクスッと笑って言う。
もはやそんな法律は死んでることはよく知っているのだが。
「路肩で暇してたから雇ったのよ、なかなか面白い奴だぞ」
「うーん、とりあえず明日決めます!」
「あ、そう。待ってるぞ!」
文月は明日の内容次第として返答を見送った。
店を出ると入る前と違って人が閑散としつつある、そろそろ夕方日が沈む。
夜間外出禁止だからしかたないがこれが日本だと信じれなくなる。
そう思いながら割り当てられた部屋に戻り、布団にくるまる。
ただ寝れるわけではないのでタブレットでインターネットを開いてみる、各地ではやはり混乱が広がっており罹患者は南米のボリビア辺りにまで進出してるらしい。
それと吉林省通化、重慶等の一部の中国領土に大爆発、恐らく核兵器が行使され臨時中国政府が消し飛んだとISSのクルーが発表した。
アメリカはロッキーやアパラチアの山脈、サクラメントやサンディエゴ等で粘っているようだ。
日本ではあちこちで警察や自衛隊の敗残兵が絶望的な戦いをしてたり、アホの自称愛国者が外人を虐殺してまわるとか言う愚行を繰り返している。
まーた流言とデマに流される、コイツら熊本と言い東北と言いバカじゃないのか、救い用のないクズが活動してて何か悪いことをしたわけでもない中村が死んだと思うと不条理を感じる。
熊野はそう思いながら仙台の映像をヘッドホンを着けて見てみる。
『えー、仙台ですが完全に内戦になってます。
自衛隊第六師団が食料品類や燃料を国民生活安定緊急処置として徴発したことにより市民が暴徒化してます』
映像では大通りに炎上した74式戦車が放置され、銃火器を持って市民についた警官隊や自衛隊の地元隊員と師団司令部等の中央の人間の銃撃戦が写っている。
原発やら防災の杜撰さやら、そもそも戊辰等で冷遇された東北市民が激怒が過激になるのも必定であった。
『農作地法だのなんだの言って搾取しやがって!』
『いっつも中央の愚作のツケ押し付けるなァ!』
映像では無反動砲をぶちこまれて派手に吹き飛ぶ東北方面隊司令部が写っていた。
「そらそうだよなあ...」
似たような事が各地で起こってるらしく、イタリアやカナダでも難民の抗争が深刻化してるらしい。
人類本当に懲りないね。
あまりの愚行の繰り返しに少し嫌気の差した熊野は静かに眠りについた。
冷遇されまくる東北はいい加減キレても許されるでしょ、でも反原発連中とかの内憂の極みのごとき無能はキャンセルだ。
仕分け(失笑)で堤防予算削って命を無駄に擦り減らさせたのお前らだろ野党がよ、マスコミも原発は環境に良いと言ってた癖に掌返すのやめろよ。
...あれ、この国右翼左翼が居ない可能性が存在するの?何で滅ばないの(困惑)




