三日目、午後の部3
許しは乞わぬ
トンネルを抜けても特に雪国と言う訳でもなく、手入れのなってない畑と林が続いていく。
風が吹く度に雑草から木々や木葉が揺れ大海原とも錯覚しそうな位しか思えない。
市街地はああも悲惨になり、私の歩く鉄路は二度と列車が走ることなく朽ちていく。
「人間が消え去っても異常無さそうだなあ」
「まあなあ...」
思うことは同じなのか中村と中野がそんなことを話している。
すると、文月がピクッと身体を震わせ振り返った。
「?...」
釣られて私も振り返ると、土居も振り返る。
トンネル、と言うより山の向こうから遠雷のような轟音が聞こえてきた。
ガタガタと音を立てている原因に危機感を感じてしゃがんでいると、正体は山々を縫うように飛んで現れた。
「アントノフ?」
六発エンジンと茶色い胴体の塗装、低空飛行で強調された大きさ。
既存の飛行機とは何処と無く違う雰囲気を漂わせて現れたそれ、ムリーヤ輸送機。
ロシアがスベースシャトル計画の為に作った世界一大きな飛行機だ、確か一昨年位に中国が40機を購入と発表していた。
そして我々の頭上を飛んでいった飛行機に、堂々と星と八一のマークが書かれていた。
だがそのムリーヤ輸送機は左側の一番端のエンジンから出火していた、そしてその原因もすぐに現れた。
濃い青と薄い青色の迷彩を施された空自のF-2が現れ、2秒ほど機関砲を撃ちまくってムリーヤの右翼を切断し、バランスを崩してぐるぐると回ってムリーヤは積載物を撒き散らし墜落した。
「すんげぇ」
2つ3つ向こうの山に墜落し、DOOMと轟音と黒煙を上げるのを眺めて思わずそんな言葉がでた。
撃墜したF-2は一回墜落地点を旋回して、我々が来た方向へ消え去った。
いつの間に戦争をするほどこの国は回復したんだ?えぇ?全く何をどうこうしてんだ。
土居も同じことを考えているらしく、渋い顔をしている。
「...、行こうこか」
「...ですね、そろそろ日が落ちます」
地図を見る限りこの先5キロは人の痕跡を感じない。
だが廃駅になった駅と、廃村がある。
そこで交代して寝ることにしよう、まさか廃村廃駅に逃げる奴も...居るかも。
「本当に救援、あんのかなあ」
「無きゃ釣りでもしながら人生過ごすさ...」
中野の軽口は不安の現れか、そんなに切れがなかった。
案外、皆センチメンタルなんだろうか。
そう思いながら、空を見上げる。
今日も雲量それなり、空は青い。
ー
白昼の青空、黒煙を上げて大阪城が炎上している。
四日前には人が一杯居たが、もう見かけない。
いや、ヒトモドキは一杯居る。
奇病の罹患者らしいが、あれが人とは思えない。
二足歩行する野獣やケダモノ、まあ二足歩行辞めちゃった四足や這いずりとかが多いのだが。
いやあ、大都会って人工密集だから病気の回りが早くてすんごいよ、5日前だったかな?変な外人がゲートボールしてた老人に襲いかかってたけどあれが最初だったな。
そんで次に見たのが地下鉄梅田駅だ、鉄道警察が発砲するのを見た。
六発位撃って最後の一発が頭に直撃してソイツは死んだ、外に出たのはあれが最後だった。
帰りに多めに冷凍食品やインスタント食料品を買いだめして、趣味で買ったドローン飛ばして周辺を観察していた。
正直困惑した、通天閣が燃えてるしかに○楽の蟹が落下して罹患した人が数人巻き込まれていた。
環状線が正面衝突起こして脱線して京橋駅を破壊し、旅客機が堺市に墜落してズタズタに町を壊して燃やしていく。
色々思い出のある町並みが血で紅くなり、燃え上がり、瓦礫となる。
ネットで検索を掛けていくと、海外ではアレをノンデットとか、非死者とか読んでいる。
いまや罹患者はローマとモンゴルとポーランドの最盛期の領土よりずっと広く分布している。
レイキャビクやフォークランド諸島、アゾレス諸島にまで猛威を奮っている。
だが信じられないのは人類の愚かさだ、何せ火種が大爆発しているのだ。
昨日中国の国営放送が公式に日印越台露に宣戦布告し、中東ではイスラエルに一斉にイスラム過激派がテロを仕掛けた。
欧州は魔女裁判やスペイン宗教裁判染みた移民排斥、アメリカじゃ州政府が連邦政府見捨てて戦国時代、カナダじゃケベック州独立やウィニペグ反乱がまた起こっていた。
日本でも東北地方が長年に渡る中央の搾取に耐え兼ね秋田県を中心に独立したし、続いて九州じゃ対馬警備隊が反乱し自衛隊西部方面隊も薩摩を自称して反乱、
北海道ではロシア極東方面軍が稚内や音威子府までを制圧して戦争になっている。
最もロシアも中央アジアはイスラム勢力が出てきてカザフスタン等制圧されたらしい、ろくに国家として動けて居るのはスイス連邦だとかの人が少なくまとまって護りやすい所くらいだろう。
「そろそろお出掛けしようか」
では私はこの過密した都市からおさらばしよう、水道局の保全保安点検トンネルの資料が手に入れたので私はこれでどっかに行く予定だ。
とりあえず和歌山辺りに行こうかなあ、農村とか。
ー
「またトンネルくぐりだ」
私の目の前にはまたそれなりのトンネルがそこに鎮座していた。
まあ山を迂回するよりぶち抜いてしまえが日本の鉄道線だし、山登りしなくて済むから良いが問題は。
「アレ絶対列車だよな、それも客が乗ってそうな」
前方には陰、どう考えても列車だしこんなところで止まっている理由はもうお察しである。
確かにこちらは訓練を受けた戦闘員も武器もある、だが弾薬等の理由から戦闘はマズイ。
だってそうだろう?弾薬が無きゃチャカは無意味さ。
「近づいて見るしかないよなあ」
(漸く最初の対人戦闘が書けそうだ)




