3日目、午後の部2
言い忘れていましたがこの作品はなろうのヤングでナウな流行りオレ主じゃないです。
それだと主人公家から出ないし...
世の中物事と言うものは最初は上手くいかない。
...そして時が進むとさらに上手くいかない。
トンネルの先に見えるのは、土嚢で作られたトーチカだったからだ。
出口に作られたトーチカは機関銃の銃眼もこさえられており、手前には鉄条網と鳴り子らしき空き缶で作られたものも見える。
警戒陣地として中々どうして立派なものだ。
「ライト点滅させて、人間だと伝えましょうよ」
文月の提案を聞き、何度かライトを点滅させてみる。
応答はない。
その理由は我々と腐れ縁の罹患者なのは分かるが、車が問題だ。
どう考えても車は通れない、通路らしきものは人が横に二人並べば塞がるくらいしかない。
これじゃやつらの怒濤を食らえば文字通り丸のみされることだろう。
「神様ってヤローはなんてアバズレな奴なんだ」
やむを得ないと迂回を考え、地図を出そうとする。
だがカーナビは悲しいことに搭載されていない、そもそも我々全員は目的地の位置を大まかにしか知らない。
偶々駅があるからと線路を頼りに進む旧軍の陸軍航空隊みたいな事をしているだけだ。
「行くしかないよなぁ」
それを理解しているから、全員は降車を決断する。
陣形としては二列、壁に沿って縦列を組んで進んでいる。
相互援護しながらゆっくり、ゆっくりと進んでいく。
「...撃ってこないぞ」
土居は文月と反対を進んでいる。
その呟きはあのトーチカから8mのところでもれたが、あっちは動きはない。
「ためしに銃を振ってみるか」
中野は持っている拳銃を振ってみる。
物音は3mまで近づいているのに聞こえない。
ホトケになった可能性もあるが、それならトンネルを反響して聞こえるであろう車のエンジンを聞いて騒ぐだろう。
「中村、ライト」
サスペンダーに仕舞われたライトを点灯し、トーチカを銃剣で反射させて覗いてみる。
そこにはもぞもぞと蠢く遺体袋が2体、壁を暗褐色で染まっており。
頭を撃ち抜いたらしい自衛官が[非常用避難トンネル]と書かれたドアを塞ぐように持たれていた。
その自衛官は左腕の二の腕から先が食われていた。
「スリーカウント。
レディ」
中野がそう言うと、中村と土居は突入に備える。
「GO」と号令と共にライトを点灯させてトーチカに突入し、三人は「クリア」と制圧を報告する。
もう動かない死体と動けない死体しか存在していなかったようだ。
「しっかし、コイツも...」
言葉を途中で切り、中野が自決したらしい自衛官の階級章を見て全員を集める。
「一等陸佐だ!連隊長級だぞ」
線二つに星三つ、確かに一等陸佐だ!。
だがおかしい、ここが駐屯地なら駐屯地司令だろうがここら辺には自衛隊の施設はない。
そもそもやけにこの異常事態に比例して、自衛隊はやけに活動が早い。
普通は治安出動なんてテロ事件レベルでもかかるか怪しい、サリン事件でも自衛隊は全面治安出動をしなかったのだ。
確か総理はそんなに保守とかそう言う人でもない、そもそも総理は本当に命令を出したのだろうか?。
...まあ来月まで日本があるか怪しいこの情勢じゃ政治家なんてどうでもいいが。
「書類とかあれば分かるんでしょうが...」
中村はそう言いつつ弾薬を貰っている。
それにたいし、非常用避難トンネルを指差して言う。
「で、どうしよう?」
「さわらぬ神に祟りはない、ホトケほっとけ」
「...うわっ」
土居の呟きを無視して、文月は「ノックして呼び掛けてみましょうよ」と提案する。
確かにこれで壁ドンではなくドアドンしてきたら頭オカシイか罹患者だ。
構造をみる限りこちらから押さなきゃ開かない設計らしく、これなら破られはしない。
「あんのぉ、入ってます?」
呼び掛けてみる。
後ろから「トイレじゃないんだから」とあきれる声が聞こえたが無視だ。
耳を澄ませても、応答はない。
それじゃと押し込んでドアを開けてみると、熱風と言うべきものが彼方から押し寄せてきた。
そしてトンネルのなかは、察した通りに屍に満ちていた。
それも子供たちの。
「うっ...」
何が起こったか、理由は分かった。
答えとしては人の弱さがそうだ。
恐らくこの一等陸佐は道徳心や宣誓を守り抜き、我が身を犠牲にして子供たちを救ったのだろう。
だが怖じ気づき、導くはずの大人が居ない子供たちは恐怖にかられて火を炊かずにはいらなかった。
密室のトンネルで。
「胸糞悪い話だっ...!!」
涙の流れた跡のある少女や、抱き締められた赤子。
せめて苦しまず死ねたのが救いだろう。
「南無阿弥陀仏」
合掌してその場を立ち去る。
トーチカの向こうは金網が剥がれており、既に動かない死体が幾つもあり戦闘は熾烈だったのが分かった。
遺体袋の二人と合わせて見える限り30は葬ったようで、映画になりそうなくらいだ。
何せ倒れている動かない死体には自衛官も警官もいない、彼らはやれることをしていたようだ。
「目標まで駅で言って3駅、さてはてどうなるやら」
「その前に地図が欲しいな、寝床もいるし」
日はゆっくりと、傾いていた。
一等陸佐はなんでトンネルに居たかと言うと、実はトンネルの先には宿泊ホテルがあったんです。
そこで家族旅行していた一等陸佐は事態を知って、前の話で出た町へと向かいます。
ですがそこには罹患者達が既に溢れており、警官一名と自衛官一名と共に撤退。
ホテルも無茶苦茶になっており、家族は妻を亡くしたが子供は救った。
子供をトンネルに隠していたが金網はすぐに突破されて...
そしてご臨終。
結局全員死んだんですが前の話で罹患者が少ないように思えた理由でもあります。




