1日目、午前の部
救出されるまで徹底的に逃げようとする主人公です。
ヒロインは居るよ!
早朝の日差しが窓から差し込み、目覚ましが鳴り響く。
部屋の主は重たそうに掛け布団を起こし、目覚ましを止めた。
閉められたカーテンから朝の光が差し込み、雀の囀ずる音が聞こえる。
「ふぁ〜...あと1ターンが続いてやり過ぎたな。」
そうパソコンを起動して言い放った男は、顔は堀が多少深くくっきりとしており、
髪は平均的な日本人の多くと同じ黒色で、若さを感じる訳でも無ければ老いも感じさせない男だった。
名を熊野浅間と言う男で、一応これでも株式投資でひっそりとそれなりの稼ぎをこなしている。
両親は学会の人間であったが、ミッドウェイから西に100キロ辺りで水難にあって亡くしている。
祖母とともに山口県で幼少を過ごし、村社会の呆れた自己決定権への介入が社会との接触を避けるようになった。
ただ大学で多少改善されたが、あまり口の立つ男でもないので遺産を元手に株式投資を続けている。
最もなぜか証券取引が中止と言う前代未聞の事態により暇をもて余して昨日はゲームをやり込んでいたのだ。
EIGENとゲームのロゴが浮かび上がり、赤い炎を後ろにソビエトと八一軍旗の戦車が写っている。
春のセールで買ったストラテジーゲームをしていたところ眠気に押し切られて所謂寝落ちしたのである。
ゲームを終了するのにも時間のかかるロクデナシ低スペックノートパソコンを待つ間に冷蔵庫からミルクティーを取り出す。
「あー、眠い・・」
すると遠くからヘリコプターの音が聞こえて来た。
「ん?自衛隊か」
この町は近くに航空基地一つ、10キロほど行った所にヘリコプターの駐屯地一つ、徒歩10分ほどに陸上自衛隊の駐屯地一つと割と軍施設が多い。
理由は帝国時代にまで遡るらしく、それゆえヘリコプターや輸送トラックが良く通るし、駅前で哀れな子羊を求める勧誘の人間も居る。
「然し...多いなあ」
チラリとカーテンを開けて空を見てみると、CH-47の大群がイワシの群れのように空を飛んでいた。
こんな大規模に組んで一体何しに行くんだ、そう思いながら窓から離れて本棚に近づく。
昔好奇心で買ったサバイバルブックや、冬コミの戦利品、時折旅行するときに使う時刻表。
それにそれなりの漫画と小説、節操のないアメーバのように買った多種のカテゴリーがあった。
ようやくパソコンは壁紙を移す、ヤークトパン○ーの姿に気付いてテレビを点け、ツブヤイターと言うSNSを開く。
『税政改革の失敗により生まれた失業者達のデモ隊が警備の機動隊と衝突、各地で暴動に発展しつつあります』
与野党の国政を無視した醜悪極まる下劣な揚げ足合戦が拡がっており一分もたずにツブヤイターを閉じた彼はテレビを見てみる。
『政府はァー、税政改革政策を~撤回せよォ~ッ!』
『撤回せよー!』
反帝斗争や断固爆砕!のゲバ文字が書かれたデモ隊や、横転した警備車が写っている。
遠くから走ってきた貨物列車が走り、だんだんと朝の町が賑やかになっていく。
時刻は午前の7時頃、彼は時計と日付を見て思い出した。
「あ!薬貰わなきゃ」
彼は生まれついての低血圧、朝は貧血夜は眠気が来ないと結構辛い。
それゆえ血圧を上げてみたり、睡眠導入剤を処方して貰うのだ。
ただ町は多少都会ではない、それゆえに駅を二つほどのりつぐのだ。
お気に入りのリュックに本を数冊、タブレット端末を一つ入れて家を出る。
「「こんにちはー」」
「はいこんにちは。」
登校途中の小学生が若さを溢れさせた挨拶をし、眩い純粋な子供に思わず自分が情けなくなる。
そんな小学生の会話が聞こえる。
「そう言えば2組のみーちゃんは?」
「みーちゃん?、あー確かなんか噛まれたとかで病院で入院らしいよ。」
「へー、きょーけんびょーになったら大変だね。」
そんな声を後ろに駅へ歩く、階段を上がると近々選挙の為か、聞きたくもない大言壮語と雑言を喚き散らす左右両翼の汚い演説が聞こえる。
人間のクズめ!
心の中でそう思いながら電子マネーをタッチする、駅員は何か辛そうにしながら立ちすくんでいた。
何時もなら「ありがとうございます」と言っているが、体調が悪いのだろうか?
そう思っていると、電車の音が聞こえて慌てて乗り込んだ。
『発車しまーす、ご注意ください』
「ふぅ。」
早めに出勤する企業の兵隊達に囲まれながら、少し自分の隣にいたサラリーマンの端末が見えた。
チベットの首都ラサと重慶、パリで連続通り魔が現れ3件とも現地の警察か警邏していた軍警察(GIGN)が射殺したと書かれていた。
何かと物騒な世の中だ。
そう思うとともにタブレット端末でツブヤイターを開く、何処からともなく手に入れたような映像が何回も呟かれており、
音を消して再生してみると、何やら奇声でも発している様な口の動きと共に骨や関節部の痛みを無視した動きで、
バイザーの付いたヘルメットを着用したフランス軍警察に襲いかかっていた。
数名の軍警察官が手足に拳銃で発砲し、撃たれた側は勢い良く前のめりに倒れた。
だがそれでもやはり顔面を血まみれにして襲いかかっていく。
「・・・・!!」
アクション映画の内容の様な動きをする通り魔を、噛みつかれた軍警察官が額に拳銃を押し付けて撃ち抜いた。
映像はそこで止まり、たった1分程度でこれだけの動きをすることに驚いた。
「薬物すごいな...手は出さないで置こ...」
通り魔の動きを薬物の所為にする書き込みにそう思っていると、アナウンスは目的の駅への到着を知らせた。
急いで降り、ホームから階段を上がっていく。
赤十字の人間が献血車を駅前で止め、AB型の血液が特に不足していると大声で言っていた。
残念ながら私はO型で、幼少期よりずっと注射と粉薬は嫌いなのだ。
あれだけは嫌だな。
『中国の天安門広場で昨夜発生した暴動に対し、中国北京軍区は公式の治安出動を宣言し』
『えーこれに対してアメリカ等の西側諸国や、国連は非難決議を提出しており』
テレビから声が聞こえる。
電器店の商品のテレビ画面には、民衆に発砲する武装警察の姿や天安門前に戦車が佇む姿を映っていた。
そんな様子を横目で流し、駅前から続く道路を横断しようと信号を待つ。
すると濃い緑色のトラックや、ジープの様な見た目をした車両の列が通っていく。
その列は高速道路へ進んでいった。
「自衛隊の車列?」
なにか演習でもあるのだろうか。
そう思いながら信号を待つ。
救急車とパトカーが駆け抜け、その後すぐに信号が青へと変わった。
「おーい静香、学校いくぞー」
誰かの家の前で女子高校生が言っていた。
おそらく知人を迎えに来ているのだろう。
それから少し歩き、目的地の病院へ到着した。
「お名前言えますかー?病院つきましたよー!」
「21歳男性、歩行中車両との接触事故で頭部に損傷、軽度ですが不随意運動が確認されてますから大脳に損傷があり得ます。
意識レベルは98で.....」
看護婦がなにか言いながら救急隊員達と担架を押して、急患用の入り口へ入れていく。
大変な仕事だと思いながら受付へ入り、整理券を受け取る。
自分の時間になるまでローカル掲示板でも開こうと思い、掲示板のスレの流れが妙に早いと思った。
何やら駅前のファミレス店で乱闘が起こったり、銭湯で女性が暴れて男女問わず襲いかかったそうだ。
:810ローカル名無しさん
うはw、警察署から機動隊出動したゾ!
:811ローカル名無しさん
暴動に発展したんかね?教えてクレメンス
:812ローカル名無しさん
そういややけにヘリコプター多いよね
私と同じく疑問を抱く者達は多いらしく、皆が皆が不安と好奇心を楽しんでいる様だった。
私は整理券番号が近づいた事に気付き、4階に上がって受診を受ける。
医者は絆創膏を頬に貼っており、何やら悪ガキにひっかかれたと言っていた。
運のない人だ、そう思いながらいつも通りに受診が終わる。
受付で会計を終え、エレベーターより健康のために階段を歩く。
すると3階にある入院患者達の喫茶店から悲鳴が聞こえ、慌てた様子で数名ほどの患者と店員が走って出ていく。
付近の病院関係者や私の様なたまたま居合わせた人たちは頭に疑問符を浮かべながら喫茶店の方を見た。
「はい皆さん離れて!離れて!」
「確保急げ!」
まるで化学兵器対策を施した軍人の様な、防護服を着た者達が現れる。
サスペンス映画や医療、特に感染症関連の映画で良く見る様な姿だった。
「確保、確保!」
ぐるぐるに、まるで簀巻きの様になり口をロープで猿轡にされた2名らしき患者が運び出される。
手足は担架にきっちりと
固定されており、くぐもった声が聞こえる。
防護服達は2名を連れて行くと、代わりに警備員が警察のと同じ黄色と黒色のテープで喫茶店を封鎖する。
首を傾げつつも階段を降り、来た時と同じく救急車から患者が運び出される。
だが担架が倒れ、患者が立ち上がる。
救急隊員達が驚きの声を上げ、なぜか後ずさりを始める。
看護師が近づくと、その患者は噛み付いた。
「キャアーッ!!」
悲鳴が響き、本能的直感が脳に逃走を命令する。
走って逃げようとした瞬間、院内のエレベーターから血まみれの医師が支離滅裂な言動と共に襲いかかっていた。
慌てて物陰に隠れ、女子高校生が同級生らしき先程の男子高校生に肩を貸して運んでいるのに気づいた。
すると、高校生が突如顔を上げて女子高校生の顔面に噛み付いた。
「わぁっ!」
「なっなんだァ!!」
真っ赤な鮮血が一階入り口の付近にバッと広がり、院内の群衆が悲鳴とともに逃げ散っていく。
警備員がテーザーガンを向けて警告するも飛びかかってきた高校生に首筋を噛みつかれた。
「ここじゃやばいぞ」
こんな所ではすぐに袋小路だ、敷地外に出て警察官に助けて貰うしかない。
男子高校生が居ない隙をついて一気に走り抜けるが、血溜まりの中で倒れていた女子高生に足が引っ掛かって倒れる。
すぐに立ち上がって後ろを見てみると、女子高生はゆっくりと起き上がろうとしていた。
女子高生は今も出血しているのに起き上がりつつあり、医学に詳しくない彼でもありえない!と断言出来る位深手なのに動いて起き上がった。
そのショックは後ろから近づく救急車の警笛に気づかないほどショックであり、女子高生が勢い良く弾かれて病院の窓ガラスに背中から突っ込んだことでようやく落ち着いた。
「なんだよあれ?!」
付近の住民達が悲鳴を上げ始め、窓を赤く染めたバスが私の真横を走り去る。
バスはフラフラと蛇行して弁当屋に突っ込み、窓ガラスは砕けて空へ飛び散っていく。
家へ帰ろう、そう思いながら信号を無視して道路を走る。
するとガスマスクを装着した完全装備をした機動隊員が現れ、数名の隊員が盾や蹴りで血まみれの人間を乱打する。
「検挙ぉ!!」
刺す又で突きを入れて顔面を安全靴で蹴り飛ばし鈍いゴリッと言う音がしてその人間は動かなくなった。
彼らは私に気づくとM79改造のガス弾グレネードランチャーを向けて言う。
「なんだ!」
「えっ?・・・ちょっと通りますよ」
「あぁ、行け!」
そこは保護とか、何かはしてよ。
そんなことを思いつつ走ろうとすると、路地裏から腕のないホームレスが現れ機動隊員を押し倒す。
刺す又で三人かがりで押さえ込んで大盾で殴りつけてもまだもがくのを横目に走りだす。
何時から無法地帯になった、そう混乱する脳内を落ち着かせれず時間と足だけが進む。
PAHU!と音を立てて催涙ガス弾が大通りを包み、輸送警備車が一両炎上している。
「げほっげほっ!」
大通りを離れ躊躇いはあったが路地裏に入る。
跳ね回るガス弾と広がる催涙ガスを後ろに少し迂回すると、別の通りに出た。
バイザーを上げたままの機動隊員が大盾を暇そうに立てて並んでいる。
「なんだろう」
「暴動らしいよ」
駅前のコーヒーショップ前で会話している野次馬を後ろに改札を抜ける。
ホームへの階段を上がると、先程の通りからドンッ!と爆発が巻き起こり黒煙が立ち上る。
ざわざわと皆が会話をするが、列車の到着がそれを中断させた。
大盾に優しい小説目指します。
一応ヒロインは2名ほどいます。