三日目、朝の部
皆様今年はありがとうございました。
来年もまた拙い作品ではございますがよろしくお願い致します。
「そろそろ着陸だぞ」
居眠りしていた熊野はハッと目を見開き起きる。
隣では土居が気だるそうに眼下を見ており、文月は蒼白のそれだった。
二人揃ってヘリに酔っており、いつマーライオンになるか分からない。
「あそこの空き地に降りる」
そう言って中野はヘリを降下させていく。
対地警報が鳴り出し人工音声の<プルアップ!プルアップ!>の声が聞こえる。
病院の建て替えで休院中と言うのは本当で、これだけ音を立てても罹患者は来ない。
ホッと一安心すると、ドアを開ける。
「おろろろ」
「おげぇ」
盛大に嘔吐している文月と土居は数分ほどしてこの世のすべてに絶望したような顔で歩く。
「車でもあるかね」
そう言って熊野は正面駐車場へ歩く。
それに対して全員が肩を掴み警戒しろと言う。
「そっそうだな」
土居が正面を警戒しつつ進み、中野と熊野は左右を見張り文月は後ろを警戒する。
円陣と言うにはいささかみばえしないがしないよりマシだ。
電気は点いておらず、朝の光に照らされる院内を進んでいく。
「しーっ、アレ見てみろ」
何かに気づいた土居は前方をゆびさす。
よく目を凝らすと、そこにはボサボサの髪をしている鐵道の書かれた幼児向けの服を着た男児が居た。
目は濁りきり、腹から臓物が垂れておりその小さな手のひらで不規則的にガラスの戸を叩いている。
「どうする、殺るか?」
土居は全員に尋ねる。
熊野と文月は首を横に振り、中野は左の方をじっと見ている。
「わかった迂回し.....シン?」
「えっ、いや、アレってなんだと思うよ」
その視線の先に、赤十字の書かれたテントと救急車が広げられる駐車場があった。
いや中野を注目させたのは、罹患者達の中にこちらを見るや否やニタリと笑う子どもが居たのだ。
「やべぇ、俺逃げるわ」
「ワイも」
「俺も」
「私も」
全員が反対方向へ、後ろ歩きで後退りする。
その黒いジャージを着た子どもは、奇声を上げて走る。
土居の危険本能は即座に発砲させ、7.62mm弾を顔面に喰らってなお、いやいっそう声を大きくする。
「オペェェ!」
「カルテのしゅうしゅうううう」
「廃用せぇえしょぉこぉぉぐうゥん」
医者や患者だったらしい服装の罹患者たちが走りだし、ある罹患者は四つ足で走っていく。
まるで犬のように迫り来る罹患者に中野は手元のP225を構えて撃つ。
前のめりに倒れたその四つ足罹患者は脳髄をぶち撒けて倒れるが銃声につられて罹患者達が続々と現れる。
「わんこそばだなこれじゃあ!」と中野は愚痴を溢しつつ拳銃を装填し、迫ってくる罹患者の頭を撃ち抜く。
今度は仰向けに倒れる罹患者だがネズミ算式としか言えない規模で増えていく罹患者に持ちこたえきれない。
「駐車場まで突っ走って逃げるぞ!」
それを言うと熊野は駐車場へと走る。
捕捉したと言うより音と臭いで探している為、今なら守護天使次第で助かる。
そう思い駐車場まで走る。
「運転するから乗り込んで!」
「ちょっと待て、そぉーらよっと!!」
土居はそう言いながら細い筒の様ななにかを、反対の病棟内に投げ込む。
暫しするとドンッ!と言う炸裂音と椅子や机が飛び散る。
それが何個か連なった物をもう一度、車のある方とは反対に投げていく。
爆発音が連なり、罹患者達はそちらへと導かれていく。
が、駐車場に予想を越えた代物があった!!!
「戦車ァ!?」
全員が度肝を抜かれる。
角の多いこれぞと言う典型的戦車の形状をしており、車体正面に逆さまになった福が張り付けられていた。
一瞬これを使って脱出すると言うのも考えたが操縦出来るか分からないしそもそもとして動くかも分からない。
鍵つきで放置されていたバンに慌てて乗り込み、運転席につく。
院内で炸裂した爆弾を聞き付けて駆けてくる罹患者達を撥ね飛ばして駐車場を抜け、焼け焦げた救急車や自動車の窓からガタガタと音を立てて手を伸ばしている罹患者を横目に国道へ入る。
外は家が3分に畑が七と言った景色で、これを見るとこの国の食料自給率の一割を支えていると言う事を認識させる。
「高速道路を通って目的地に向かおうと思う!いいな?!」
「それより前見ろォ!」
振り返っていたのを中野が注意する。
前を見てみると黒煙を吐く家々や、鳴り響く盗難ブザーやどこからか聞こえる爆発音、救急車やパトカーに消防車のサイレン。
視界の左右に見える家屋や施設は血痕に彩られており、罹患者や状況を知らないらしい者達がいまだに居る。
国道に沿って進んで行くなか、中野が左の方向を凝視していた。
それにたいして尋ねてみる気もなく、速度を上げる。
確かこの町には......。
「くそっ、ここもダメか」
中野の舌打ちが聞こえる。
第三対戦車回転翼機隊の駐屯地で中野の元居た部隊が居る所だ。
だが今では大きな通信塔のある建物は炎上しており、PAN!と乾いた炸裂音がここまで聞こえている。
格納庫らしい施設から爆発が起こり、ヘリコプターの残骸が見えている。
去年調達したオスプレイや輸送ヘリコプターも燃えたり今にも誘爆しそうだ、もったいない。
「あっ、生存者が...」
文月が5~6ほどの罹患者に追われる整備員らしい自衛官を見つける。
駐輪場の自転車に乗って漕いで逃げようとしているが、数秒せずに前のめりに転倒してしまい貪られてしまったが。
駐屯地を通り過ぎ、高速道路のインターまで速度を緩めず車を走らさせていく。
土居は車載のラジオを点けてみるが、18局は聞こえるはずなのに放送しているのは5局でさらに3局は定例文しか流していない。
残りの2局は片方は政府公報、もう片方は地元の放送だ。
『皆様いよいよ我々長崎ラヂヲも危うくなって参りました。
現在長崎市は非常に混乱しております、自衛隊は戦闘を中止しており誰も混乱して手を打てません!
事態は封鎖では収まらず....アッ!』
その声の後、放送は途切れた。
『福岡、長崎、宮崎、佐賀、熊本に緊急避難命令が発令されております。
公共交通機関或いは高速道路に居る方は最寄りの出口から降り速やかに避難してください』
政府公報に切り替え、運転を続ける。
憎いほどに太陽はその明るさで我々を照らしていた........。
逆さ福の90式戦車(角張ってる戦車)はとある漫画のリスペクト。
と言うか今回の舞台は多分皆も分かるんじゃないんだろうか?




