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3日目、早朝の部

エンテ翼機のF2戦闘機が複数機空を飛ぶ。

西部航空方面隊築城基地所属のF-2だ。

翼下パイロンには誘導爆弾が吊るされている。


『那覇DC(警戒管制団)、依然春日DCと連絡不能。』

『了解、戦術航空管制を移管し当DCが指揮を引き継ぐ。

FS06、戦闘空域に突入、ACM(空中戦闘機動)』


そう無線機からオペレーターの女性の声が聞こえ、

操縦士の若い男は『リアリー?ACM?』と困惑して聞き返したが、『イエス』と返され覚悟を決める。


『ウィルコピー、ACM』


FS06が沖縄県近海の防空識別圏で眼下に映る船団へ攻撃を始めた頃、

文月と彼は目を合わせず背中あわせに座っていた。

彼は手で顔を覆って、負のオーラを全開にして座る。

姿勢は酷く猫背と言え、上半身は裸で下半身も下着しか履いていない。


「やっちまったよ.....おおぅ.....」


文月はポケットティッシュを要求し、彼はそれを渡す。

何かが擦る音が聞こえ、文月は服に袖を通す。

文月はあまり特に何にも考えていない様な、冷淡な抑揚で言う。


「べつの部屋にしなかった私が悪いんですから」


心に鋭く刃物が突き刺さった様な思いが、彼を襲う。

既にカーテンから陽の光が差し込んで来ており、時刻は午前6時となっていた。

すると中野二尉がドア越しに声をかけてくる。


「おーい、えーと、あー名前聞いてなかったな、アンタら居るか?」

「いるよ」

「話と言うか脱出の案があるんだわ、という訳でちょっと来てくれ」

「ああ、わかった」


返事をし、服を着て呼ばれた部屋に入った。

部屋の中には昨日の夜に見た三脚付きの筒の何かや、それにコードでつながっている何かがあった。

中野二尉は、全員の顔を見て言った。


「じゃあ作戦を説明する。

知っての通り我々は孤立しているのが現状だ、二人には黙っていたがこの前も逃げてきた奴が来たんだ、

その奴曰く、橋はどうも展開してきた戦車が塞いでいるか、爆破されたらしい」


中野の言葉に文月が質問する。


「その逃げてきた人はどうしたんですか?」


それに対して土居陸曹は平然と言う。


「武器食料を盗もうとしてやがった、殺したよ」


さらりと殺人を認めた事に熊野と文月は驚愕したが、情勢下からして不当とは言い辛い。

自分を棚にあげて言うなら簡単だが自分が盗まれても司法的な刑罰が出来る訳ではない。

法治国家は死んだのだ、阿鼻叫喚の地獄絵図の中で。


「まあバカの話は良い」


中野が話を戻す。


「幸いにしてそこの土居陸曹は射撃が上手いし、俺はヘリを操縦出来る、

それでだ、あの小学校には無事なヘリコプターが一機だけグラウンドに放置されてる。

アレで悠々とお空を飛ぼうって寸法だ」

「だが小学校には罹患者がうようよいるじゃないか、どうするんだ?」

「そう!それが問題だが解決策がある」


中野は笑って三脚付きの筒を指差す。


「この重MATを適当にドカンと撃ち込めば大騒ぎ、その間に乗り込もうって話さ」

「なーるほど、動かせれるの?」

「中村は対戦車分隊って言う所でこれを扱っているし、割と単純だぞ、重たいのがダメなんだが」

「撃ったら大きな音がすると思いますが」

「こいつは有線式照準器で遠隔出来るから問題ない、ざっと5mは離れて運用出来る」


中野は一通り説明をすると、何処にMATを撃ち込むか?を議論しだす。

近隣の施設と言っても、駅、学校の二つ程度しかないのがここら辺で、どうするか議論を交わしている。


「橋の近くでも撃ち込めば良いだろ、さらに騒ぎが大きくなって引きつけてくれるぜ」


土居陸曹は言う。

中村はそれに対して言った。


「適当に離れたところに撃ち込もうよ、楽でいいし」

「いやあ、でもなあ」


議論は紛糾と言う様子だった。

彼は言った。


「小学校の近くに確かガソリンスタンドありませんでしたっけ?」

「「あ、それだ」」


土居と中村が振り向いた。



「MAT設置よし」

「照準器よし」

「用意よし」


三人がテキパキと仕事を終え、屋上に発射機を設置した。

目標はガソリンスタンド、全員が何か目をキラキラと輝かせつつ、その時を待つ。


「マルハチマルマル、時間だ、状況開始」


既に屋上を降り、エレベーターの前に照準器を設置してある。

中野の号令と共に対戦車誘導弾は勢いよく噴煙を後方に飛び散らせて青空を駈け出す。


「いよーし」


道路に沿って高速で疾走した誘導弾は、スタンドの真下にある燃料タンクの中へと飛び込んだ。

一瞬の光と静粛と共に、紅蓮の炎が勢いよく飛び出して轟音を立ちあがり、

ズーンと言う地面の揺れが伝わってきて、横幅数mの炎と黒煙が上がっていく。

それを聞き逃さないはずがなく、罹患者達は一斉にガソリンスタンドへ駆け出した。


「すんげえ」

「やり過ぎたかな」

「いや陽動だしこれ位でいいだろ」


そんな会話を交わしつつ、エレベーターで1階へ降りる。

数分ほど息を殺して静かに学校へと近づくと、そこには誰も居らず、体の破片や血痕に残骸の三つしか無かった。

中野は真っ先にヘリに乗り込み、電源を起動する。

ランプが点灯し、機内灯がともり、エンジンは咆哮を発し始め、ローターはゆっくりと回転し始める。

だがそれを聞きつけた出遅れた罹患者が現れ始め、消音器付き64式狙撃銃は発砲を開始する。

完全に無音ではないにしろ、ないよりはマシな消音器を信じて頭を土居陸曹は撃ち抜いていく。


「まだか!?」

「よしよしよしよーし、浮くぞ!落ちるなよ!」


中野はようやくUH60Jを離陸させ、崩れかけた医療テントや紙などが風に飛ばされる。

罹患者達は陸津波の様に押し寄せ始め、罹患者達は飛びかかったり手を伸ばすなどして掴もうとするがそれを高度を上げて回避し、UH60Jは高度600mで一旦ホバリングし、

全員は安堵の息を吐き出し、取り敢えず生きている事に喜んだ。


「どうするよ」

「確か院洲升って言う20数キロ離れた港で救助活動してるって話を聞いたから、そこへ行こう」

「あそこか、その前に航空燃料どうにかしなきゃな」


中野は呟く。

すると、中村が指をさす。


「あれ!」


そこではドーザーをつけた戦車が橋を何度も何度も横隊で隙間なく踏み潰して行っている。

機関銃も唸りを上げて銃撃を始め、もはや無差別に発砲している様に思えた。

そんな橋の左右両岸は数百以上の事故車や路上駐車された車両や、その数倍にしてなお足りない数の罹患者達が居た。

炎に追われてビルから飛び降りる者、屋上からこちらに手を振って助けを求める者など様々な生存者も居た。


「言っとくがこれは輸送ヘリだが定員ギリギリだ、人はもう乗れないぞ」


中野は自身に言い聞かせる様に呟く。

事実操縦席二つと機体両側の搭乗スペースはもう余裕が無い。

中村は胸ポケットから携帯を取り出し機上から様子を録画している。

彼と文月はベルトに安全用の命綱を取り付け、眼下の地獄の釜の底をただ眺めていた。


「ひっでえ時代だ、俺は明日は外出だったのに」


土居はぼぉっと下を見ている。

様々な思いを抱きながらヘリコプターは海岸へと飛んでいった。



橋に停車した96式装輪装甲車から普通科隊員が89式小銃を乱射する。

ファランクスのように前面と上面を大盾で防御する陣形を組んだ機動隊隊員も64式小銃とMP5で群がる罹患者達を向かえ打っている。

だが全く止まらない罹患者の無停止攻撃がそれさえを崩そうとしていた。


「くそっ!際限無しに集まってる、これじゃ市街の封鎖すらおぼつかねぇぞ!!」


74式爆発反応装甲装備型の車内で第四戦車大隊第二中隊の分隊長が擲弾銃を撃ちながら叫ぶ。

汗が迸り、筋肉が硬くなっているのを感じながら最早感覚のない指が引き金を引き続ける。

すると、隣の僚車の車長が発砲していないのに気づいた。


「...?」


確か、あの車長は風邪気味だった。

蒼白した顔で力無く動かない車長に無線を送る。


「ガーネット2、どうした、なぜ撃たない?送レ。」

『ッ...て、敵性勢力ョおく侵攻阻止ししシシぃ』


そう言うと僚車はぐるりと砲塔を向けた。


「バカヤロー気でも狂ったか!!?」


擲弾銃が火を噴き爆発反応装甲が炸裂、付近の兵員に甚大な被害を及ぼし遂に阻止線が決壊した。

最もここを阻止してもすでに白蟻に食い散らかされた家屋の如く様々な地域に罹患者がいるのだが。 

阿鼻叫喚の橋の近くで、若い自衛官は上官へ言った。


「三尉!市内には逃げ遅れた民間人や戦闘中の友軍が取り残されております!

友軍や民間人を見捨てるんですか!」


上官はそれに対して、爆破用のスイッチを手に取りながら言った。

まるで諭すように。


「いいか、陸士長、俺たちは国家のための軍隊なんだ。

一部の国民や地域のための軍隊じゃなくて、国家全体を護る仕事があるんだ、分かるな。

大多数の国民の為に少数を切り捨てなきゃいけない時もあるんだ。

爆破用意、全員退避!」


退避を確認すると、スイッチを捻った。

橋の両岸と中央が発破され、見捨てられた事に気付いた機甲科隊員や普通科隊員が慌てて逃げ惑い、

滑り落ちていく罹患者や戦車と橋だった残骸と共に川に沈んでいった。


「爆破完了」


無感情にその三等陸尉はつぶやいた。

次回までしばしペースが落ちます。

ご了承ください。


なお次回からは第2章へと切り替わるますが、途中から読んでも大丈夫な小説を目指したい所存でございます。

今後もお見苦しい点があると思いますが、ご指導ご鞭撻宜しくお願いします。

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