2日目、午前の部2
この話でようやく官僚答弁の様に無駄に長い病名が出るが、考えるの辛いです(半ギレ)
丘を駆け下り、街に近づく。
来た時と同じ、林に挟まれた道を旧ジープが進んでいく。
丘から見える市街は未だに黒煙を立ち上げており、微かに鼓膜を揺らすドーン!と言う重たい音が聞こえた。
「なあ、あの人って誰なんだ?」
嫌な、禁忌の質問だと思いながらも尋ねる。
文月はしばし沈黙し、10秒ほどして言う。
「私の、彼氏の兄です」
それを聞き、心に鋭く刃が突き刺されたような痛みを感じる。
彼はただ小さく「すまない」と呟くと、運転に集中する。
ここから海岸まで約40キロ、河を三本越え街と山中をいくつも越えるコースではあるが、
一昨日までの平和な日常の中では途中高速道路を使えば、6時間程度で着くだろうが、
この状況下ではどれだけ時間がかかるか分かりはしない。
「あ」
文月が呟く。
視線の先には昨夜検問を敷いていた警官隊だった者達や残骸があった。
輸送警備車が横転し、手に拳銃を握り締めて自決したらしい警官や、手錠が足にもつけられただ魚市場の魚の様に跳ねる機動隊員や警察官、医師などが医療用のテントに居た。
ただあの通り魔達は居らず、残っていたのは動けない者と動かない者しか居ないのを疑問に思った。
「一体、何処へ消えたんだろ」
「追いかけたんじゃ?」
そう会話をしつつ街へと近づいていく。
二人の中で、もしかしたら、もしかしたら、状況が好転しているのでは?と思いながら。
もっとも、現実と畜生の創造主はヤハウェの様に厳しいのだが。
ー
「あっ、止めて」
文月が彼に止めさせる。
彼は首を傾げて尋ねる。
「どうしたの?」
文月はその眼鏡の淵の様に顔を赤くして言った。
「と、トイレです」
「あぁっ、ごめん」
慌てて旧ジープを止め、文月が降りる。
家の陰に隠れる文月を確認し、タブレット端末を開く。
どうやらここら辺の通り魔達は居ない様で、物音は聞こえない。
音量を絞り、字幕を付けたワンセグテレビをつける。
『で対応を行っております』
菅野官房長官と言う男が記者会見をしている。
その隣では手話で会見を伝える女性が降り、記者達の質問が始まる。
『彼らは生きてるんですか!死んでるんですか!』
『医学的に見れば死亡しておりますが、えー、過去の前例も無い事例でして明言はしかねます』
そりゃそーだ。
そう思いながらテレビを見る。
かすかに耳に水音が聞こえた気がしたが、聞こえなかった事にする。
『自衛隊の治安出動や救助活動に関して不足があるとの指摘や、憲法に違反するとの野党の批判や一部市民団体に関して一言!』
『出来る事を出来うる限りしています、国民あっての国家と法律ですので、超法規的行動もやむを得ず行っております、
この騒動が終わったら解散なり違憲審査なりしてください』
怒りの表情を見せて言い切る。
また別の記者が質問する。
『今回の事態、つまりそれの暴徒や通り魔と俗称されている者達あるいは稼働死体に関して名前は?』
『病名と言う認識でよろしいでしょうか?』
『そうです』
その質問と時を同じくして、背広の若い男がメモ書きを渡す。
そのメモを見ながら官房長官は、棒読みに近い抑揚で言った。
『えー、感染性多臓器不全強度行動障害です』
医学用語が詰まった言葉に首を傾げると、官房長官はそのまま書類を纏めて『質問を終わります』と言い出て言った。
記者達の質問や戸惑いの声と共に中継を終え、スタジオに画面が戻る。
『ドアと窓に鍵をかけて外に出ないでください』と言う字幕が流れ続け、対策委員会設置等の情報が縦で書かれている。
「遅いな、文月」
そう呟くとキーを抜いて旧ジープを降り、歩く。
付近の住宅は全てドアが閉まっており、窓も割れていない。
燃えてもおらず、あの通り魔達、いや感染性多臓器不全強度行動障害者も居ない。
しかし官僚的で実に長い、舌噛んで死にそうだ。
「おーい?」
大声を出すより、小さい声で呼んでみる。
コッチに背中を向け、何かしている文月の後ろ姿があった。
「文月」
「ひゃっ!」
ビクッと背中を震わせて驚きの声を上げる。
指先に何か粘液の様な物が付いており、特に気にせず言った。
「一様確認しに来た、返事くらいしてくれよ」
「へっ!?あっ、えーっ、すいません」
相当慌てているのか震えた声でそう言う文月。
安心したので運転席に戻り、数分ほど待つ。
すると少し顔を赤らめた文月が戻ってきたので、旧ジープを再び出発させる。
ここから数キロほど行った先に一級河川があり、その先からは高速道路を走って行けばどうにかなる。
なるはずなのだが。
ー
彼と文月の居る地点から数キロ、例万原大橋に74式戦車と10式戦車がドーザーを付けて並ぶ。
電光の表示版には[交通規制中-通行禁止-]と書かれており、戦車の前では一般車が大量に渋滞しており、
それの数倍に匹敵する民衆とそして感染性多臓器不全強度行動障害罹患者が居た。
「橋は通れません!直ちに帰宅しなさい!」
拡声器から声が響き、
戦車によるバリケードには小銃を携行した自衛官や警察官が交通規制と封鎖をしている。
そこから数百メートルほど言った橋の近くの河川敷では1トン半トラックの近くで会話が交わされる。
「陸曹!この橋を爆破しては大橋以外ルートが封鎖されますが、よろしいんですね」
「ああ、やれ!彼処が一番目立ってるから誰も居ないしな」
そう会話を二、三交わし、スィッチが捻られる。
連続した爆発音が鳴り響き、橋が轟音を立てて崩壊させていく。
大きな水飛沫を上げて、煙が立ち上がる。
煙が上がり、晴れた時にはすでに橋はなかった。
「路伝府橋爆破完了!」
崩れた橋に、午前の終わりと午後の始まりを告げる様に日は昇っていた。
ーどうでも良いあとがき
何かに使おうと用意してたので出した国産F2の設定を書いておく。
F2閃光改
エンテ翼機で垂直尾翼は二枚、エンジンは2発で空気取り入れ口などはF15をイメージして欲しい。
当初F16ベースとF16J、そして国産案の三つがあった。
現実ではエンジンが作れないので完全に諦めムードで、モックアップすら無く知名度が低い国産案では無く日米共同開発機となった。
故に一部矮小なる民族主義者の言う米帝の横槍は無い。
この世界線ではイスラエルから流れたエンジンを参考にして国産エンジンを搭載。
それを純国産に進化させたF3の試験も兼ねて改装されたのが閃光改である、2010年に改装を開始し物語の始まる2018年の2年前2016年には全機改修された。
ただ防衛省内では「F35いいぞ」と「F3で全部いいぞ」の二分であり、結果として閃光改二計画も立てられている。
この世界線では飛行場や空港で感染者と共に放置される運命にあるが、作者の機嫌次第で日中戦したり日露戦したり日米戦したりする。かも。
なお小松基地所属の306航空隊機が出演しているが物語に関わったりしないのでどうぞお忘れして欲しい。
 




