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カスタムドール  作者: 神崎 凛
始まりの丘と美しき虚の街 -西方地区-
13/18

ファルサの毛皮

 


 あれからしばらくして、健太くんは次の配達があると帰ってしまった。


 置き土産として健太くんが去り際に置いていったメモ帳にペンを走らせつつ、ミゥにボールを投げてやりながら、俺は手に入れた情報を書き出して今後の計画を練る。このゲームにおける大体の流れというものもぼんやりと理解できた。

  

 チュートリアルミッションを全てクリアし、ストーリーミッションを進めつつNPCとの交流を重ねてフリーミッションをこなし、いずれはミッションコンプリート、ゲームクリアを目指すと。健太くんはゲームクリア条件がよくわからないと言ってはいたが、ミッションを全てクリアすれば恐らくはゲームクリアとなるはずだ。その途中でドールとの触れ合いを楽しんだり、家の増築をしたりとやり込み要素が出てくるわけだ。


 まだ序盤もいいとこだが、何となく流れを掴むことが出来たぞ。


 俺がするべきことはまず、チュートリアルミッションを全てクリアすること。

 これが大前提であることは間違いなさそうだ。


 となればまずはミッションを確認せねば……


 軽く指を鳴らしてメニュー画面を開き、並ぶ項目からミッション一覧を開く。


『チュートリアルミッション03:【NPC:ファベル】と会話しよう(達成済み)』

『チュートリアルミッション04:フィールドでアイテムを採取しよう』

『チュートリアルミッション05:ショップを利用してアイテムを購入しよう』


 ふむ。また何やらミッションが追加されているな。

 どうやら同時に表示されるミッションは最大三種類までと決まっているようだ。


『チュートリアルミッション03:街にいる【NPC:ファベル】と会話しよう』

『達成条件:【NPC:ファベル】との接触(達成済み)』

『達成報酬:フィールドマップ ポーション×10 マナの欠片×1』


『達成報酬を受け取りますか?』


 迷うことなく『はい』を選択し、同時にどこからか現れた小箱の蓋を開けると、淡い青の液体が詰まった小瓶と折り畳まれた地図、そしてマナの欠片が入っている。ひとまず地図をテーブルに広げて見ると、ファートゥムの街を中心に広がる芝生の丘や深い森林、大きな湖や大地を流れる河川、連なる山々などの地形が細かく記されていた。この自宅の位置もばっちり記入されている。


 どうやらファートゥムの街にほど近い場所に位置する我が家は芝生の丘のど真ん中にあり、丘を越えれば森林や大きな川が見えてくるようだ。このタイミングでこのアイテムは非常にありがたい。これがあれば大分計画も立てやすくなるぞ。

 

 それにしても、次のミッションはフィールドに出て採取を行えというものか。安全な街の中で何かをしろというものではなく、エネミーが出るというフィールドに出て何かを取って来いというのか。ということはつまり、エネミーと接触する可能性がある。戦闘になる可能性があるというわけだ。


 とはいえ仮にもチュートリアル。

 いきなり殺しにかかってくるわけではないのだろう。


 いうなれば初めての戦闘でスライムを倒すような展開が待ち構えているということか。俺はロクな装備もないどころかエネミーへの対処法すら知らないのだが、このミッションが初めての戦闘となるならば、その際にあれやこれやと説明が出てくるはずだ。恐らくというよりほぼ間違いなく、邂逅する敵エネミーは最弱クラス。その気になれば素手でも倒せるレベルだ。


 恐れることはない。これはチュートリアルなのだから。


 そんなことを考えながら地図を眺めていると、どうやらボール遊びに飽きたらしいミゥがぽてぽてと歩み寄ってきて、背伸びをするようにして地図を覗き込んでくる。さっきから何をしているのかと不思議に思っているのだろうか。見知らぬモノに対して積極的に興味を示す辺りを見ると、好奇心は旺盛なようだ。


「……?」


 テーブルに広げた地図を覗き込んで首を傾げるミゥの頬を指でそっと撫でてやる。


 柔らかな頬の手触りはさらりと滑らかであり、とても心地よい。

 試しに軽くほっぺたをつねってみると大福のようにもちもちとしていてよく伸びる。ちょっぴり嫌そうな顔をしながらも抵抗らしい抵抗をせず目を伏せるミゥの様子もまた愛らしい。ついつい捏ねてしまう。


 初めはどうなることかと思ったが、初対面の時と比べれば順調に仲良くなれているのではないだろうか。軽くスキンシップをする程度なら許してくれる程度には心を開いてくれたようだ。あまりしつこいと怒らせてしまうかもしれないので程々にしておくが。


 猫の顎を撫でてやる感覚でミゥを可愛がっていると、床に置きっぱなしにしていた赤い箱の存在をふと思い出した。そういえば、健太くんが届けてくれたあの箱には何が入っているのだろう。神様とやらが配布しそこねたアイテムだろうと言っていたが、中身が何なのかは結局分からずじまいだったな。


 とりあえず開けて中身をチェックしてみるとしよう。

 床に置いていた赤い箱をテーブルの上に乗せ、ミゥと共に中を覗き込む。


「……」


 目をぱちくりとさせるミゥと顔を合わせ、再び視線を落とす。


『コスチューム:ペッリキウム・ファルサ』

『北方に住まう神々の末裔が身に纏うという衣装のレプリカ。

 着心地はすこぶる良いと評判だが、平地で着るには暑苦しいという声も』


『特殊効果:寒冷地適応』

『寒冷に対する耐性を得る。(寒冷による体力低下および凍結を防ぐ)』


 箱の中に入っていたそれは、折り畳まれたボリューミィなコート。

 北方の民族衣装を思わせるペイントが描かれたそれはもふもふとした毛皮を素材に作られていて柔らかく、着込めば身も心も暖まりそうだ。どうやら着せ替え用のコスチュームのようだが、付与されている効果とやらが何やらチート臭い。レプリカとか言う割に滅茶苦茶便利な代物だぞ。これ。


 よく見れば毛皮もキラキラと光り輝くように美しいものだ。

 ドール用らしくサイズはミゥに合わせて小さめではあるが、立派な服じゃないか。


『チュートリアル:コスチュームについて』

『手に入れたコスチュームは自宅のクローゼットに収納でき、ドールに渡すことで着替えさせることが出来ます。レアなコスチュームの中には特別な付与効果を持つ物も……?』


 俺は表示されたメッセージを読みつつコートを広げ、ふむと頷く。

 この箱は、いわゆるレア以上確定チュートリアルガチャみたいなものなのだろう。


 それはそうと、手渡せばその場で着替えてくれるのだろうか。


 ということは、つまり……


「……」


 ちらりと、ミゥの様子を伺う。

 何かを察したのか、ミゥは少し嫌そうな表情を浮かべたまま一歩、二歩と俺から距離を取る。これはまずい。完全にドン引きされてる。俺の繊細なガラスのハートが今にも砕け散りそうだ。一瞬でも期待した俺が悪かったよ。


 とりあえずこの辺りは今はまだ温暖な気候のようだし、そもそも四季があるのかすら不明だが、寒くなってきたら着せることにしよう。こんなふわふわもこもこの毛皮のコートが防寒具として役に立たないわけがない。寒い季節になれば、ミゥも喜んでこの服を着てくれるだろう。俺の目の前では着替えてくれないかもしれないが、それはそれで悪くない。時が来るまでは大切に仕舞っておこう。


 アイテムボックスの影にそっと身を隠すミゥの様子を尻目に寝室へと向かい、ぽつんと佇むクローゼットの中に毛皮のコートを仕舞い込みつつ軽くため息をつく。


 脱ぎっぱなしにしていたコートを拾い上げると、ポケットの中からハーフドールのリンがころんと転げて毛布に落ちた。今の今まで大人しく眠っていたらしいリンは毛布の上でハッと目を覚ますと慌てて立ち上がり、小さな両手を大きく広げてぴょこぴょこ飛び跳ね、早く抱っこしてくれと言わんばかりだ。


 そういえば、この子の存在をすっかり忘れていた。

 布団の上で抱っこをせがむリンをそっと掬うようにして抱き上げると、そのまま服に飛び移ってポケットの中に潜り込んでゆく。確かこの子はハーフドールというアイテムで、俺の身に危険が及んだ時に身代わりになってくれるらしいが、ミゥのようなドールとは違う存在なのだろうか。この子も中々に謎だらけの存在だが、今はまだ詳しいことは何も分からない。ひとまずはポケットの中で大人しくしててもらおう。


 さて、出かける用意も済んだし、早速フィールドに出てみるとしよう。

 エネミーには若干の不安もあるが、このまま家の中に居てもしょうがない。


 寝室のドア越しに俺の様子を伺っていたミゥをひょいと抱き上げて小脇に抱え、指を鳴らしてメニューを開く。抱き上げる瞬間までは多少身じろぐ程度の仕草を見せるが、抱き上げると途端にくたっと四肢の力を抜いて抵抗を諦めるのは人形(ドール)としてのサガなのだろうか。にしても軽い。羽根のようにという言葉もあるが、文字通り重さを感じないのである。軽く頬を膨らませ、どこへ連れて行くつもりかと訴えかけるような表情もまた愛らしい。


 そんなミゥの様子を眺めながらミッション一覧を開き、詳細を表示する。


『チュートリアルミッション04:フィールドでアイテムを採取しよう』

『達成条件:フィールドにて何らかのアイテムを発見および採取する 0/10個』

『達成報酬:金の鍵×1 解氷材×5 砥石デラックス×1』


 とりあえずアイテムを10個探して取ってこいということか。

 ミッションを確認した俺はメニューを閉じ、机の上に広げていた地図とポーションの小瓶をポケットに押し込んで家を出た。相変わらずの晴天に輝く太陽らしきものが俺を照らし、吹き抜ける風が心地よい。



  さて、どこを探そうか。

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