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サヨナラはいらない

 ロンダークさんが言っていた通りグラスタは私の荷物を守り切ってくれたようでほぼ無傷で手元に帰ってきた。


 硬貨が詰まった巾着も無事なのでトーマスさんが貸してくれたギルドの登録料も返還することができそうで安堵する。


「そうだシオル様、これもお返しします」


 荷物を物色していた私にロンダークさんが差し出した物に目を見張る。


「シルバ! なんで、てっきり無くしたかと思ってたのに」


 そこには戦闘で手元から、紛失していた愛剣シルバがあった。


「ミリアーナ様と別れてシオル様を捜すため襲撃された周辺を捜索して居るときに見つけました。 血液がこびり付いてましたが、手入れに出したので大丈夫だと思いますよ」


 久しぶりに持ったシルバはズッシリと重く、シルバを持てなかった数日でどれだけ体力が衰えてしまったかがよくわかる。


 傷口を圧迫するのに使った鞘も戦闘中に落としたのか行方がわからなくなっていたが、そちらもシルバと一緒に見つけてくれたらしい。


 シルバを慣れた作業で腰に佩く。


「私はこれから密偵と合流し陛下へシオル様を発見した旨を伝えてまいります」


「わかった、あとで密偵をひとり連れてきてくれないかな、アンジェリカの護衛を頼みたいんだ」


「はぁ、わかりました。 きちんと陛下の事後承諾は取ってくださいね」


「わかってる」


 荷物からレイナス王家の紋章が刻印された手持ちのエンブレムの一つを取り出した。


 金地に彫刻を施したそれは、身の証にもなるだろう。


 アンジェリカに再会した時に返してねと強引におしつけてしまえば、生真面目なアンジェリカは持っていてくれるだろう。   


 仮に何か有事の際には売り払うように言っておけばいくらか足しになるはずだ。 


 衣服のポケットに巾着とエンブレム、それから個人所有の装飾品を何点か見繕い突っ込んだ。


 元々無くしたものだと思えば問題ない。


 ……あとで私が父様に怒られれば済む筈だ。


 むしろ命の恩人に何の謝礼もしなかった日には特大の雷が落ちかねない。


「ロンダークさん、行ってくる」


「はいお気を付けて。先にレイナス王国側の北門でお待ちしております」


 シルバがあれば護衛は居なくても大丈夫だと判断されたのだろう、すんなり送り出してくれたロンダークさんから少しだけ信頼されたような気がして嬉しい。


 宿を出て真っ直ぐにアンジェリカの泊まっている宿を目指す。


 途中で目についた店から小振りの巾着を二つ買い取り、それぞれに借りていた硬貨と同枚数の高額硬貨とエンブレム以外の宝飾品を入れキッチリと封をする。


 宿の入り口には寝間着から青いワンピースに着替え、白いストールを羽織ったアンジェリカがそわそわと待っていた。


「アンジェリカお待たせ」


「別に待ってないわ」


 もじもじとしているアンジェリカにトーマスさんの居場所を聞くとまだ宿の部屋に居ると言われたので、階段を二段飛ばしで駆け上がり借りていた部屋の扉をノックした。


 すぐに開いた扉から顔を出したトーマスさんに助けていただいたお礼を改めて告げ、ギルドでお借りした登録料だといって要らないと断るトーマスさんに硬貨の入った巾着をなんとか押し付けた。


 多分トーマスさんとは会わずに別れることになるだろうから、しっかりと別れを告げレイナス王国に立ち寄ったら連絡をして欲しいとつげる。


 連絡先はアンジェリカに聞いてほしいといったので、あとで聞いたら驚くんだろうな。


「お待たせ、行こう!」


「ワッ! 待って急に引っ張ったら危ないってば」


「ごめん」


 繋いだアンジェリカの手を引けば、焦った声で制止してきた。


 急いで謝りアンジェリカと同じ速度で歩き直す。


「とりあえずギルドで良いかな?」


「うん、ギルドカード取りに行くんでしょ?」


 二人でギルド会館に入り、受付で引き換え券を渡すと出来上がったカードを渡された。


 鉄製のカードには彫り込まれるようにレオルと名前が彫ってある。


 今日はカードを受け取りに来ただけなので直ぐに会館を出た。


 アンジェリカと二人で色々な店を回って、アンジェリカが手に取り見ていた指輪を確認する。


 淡いピンク色の色ガラスがキラキラと光を反射する指輪をしばらく見たあとでそっともとの位置に戻してしまった。


 アンジェリカが他を見に行っている隙に手に取ればサイズは大人向けでまだ十才のアンジェリカの細い指よりも大きそうだ。


 店主さんから指輪を買い取り、怪しまれないようにアンジェリカについていく。


 二人で食事を楽しみ気が付けばタイムリミットの時告げの鐘がなってしまった。


「もう、お別れなんだね……」


 夕日に照らされながら二人で教会へ続く石階段に座り、ポツリとつぶやいたアンジェリカを抱きしめる。


「ねぇ、アンジェリカ左手貸して?」


「どうして?」


「いいから」


 おずおずと差し出された左手の薬指にさっき買ったばかりの指輪を填める。


 うーんやっぱりリングが大きいせいかグラグラしている。 


「これ……」


「うん、アンジェリカに似合いそうだったから買っちゃった」


 自分の指に嵌った指輪を撫でている姿に買ってよかったと思う。


「今はまだ大きな指輪だけど、アンジェリカの指に合う大きさになっても私はアンジェリカを待ってるから、おじいさんになる前にお嫁に来てね?」


「そんなの無理でしょう、シオルはお王子様だよ? 世継ぎを作るためにきっとキレイなご令嬢が詰めかけるもん」


「う~ん、頑張って断らなくちゃなぁもうアンジェリカ以外嫁にするつもり無いんだよね」 


 眉間に皺を寄せて悩めばアンジェリカがクスクスと笑い出した。


「まぁ私じゃないお嫁さんもらうときは早めに手紙で連絡ちょうだいね」


「もう、信じてないな」


「子供の頃の約束を無邪気に信じられるほど幼くは無いわ」


 どこか諦めているようなアンジェリカの顎を右手で持ち上げて素早く唇を奪う。  


 夕日よりも真っ赤な顔をしたアンジェリカにニヤリと笑うと、アンジェリカの髪を結わえていた緑色のリボンを解く。


「えっ!?」


 アンジェリカのふわふわした茶色い髪が広がった。

 

 隠し持っていた巾着とギルドカード、そしてエンブレムを押し付けてアンジェリカから離れる。


 これ以上一緒にいたら絶対にレイナス王国まで無理矢理にでもさらってしまいたくなるから。


「それじゃぁその指輪がちょうどよくなったらギルドカードとエンブレム返しにレイナス王国の王城に来てね!」


「ちょっ、ちょっと!」


「アンジェリカ愛してるよ~!」


 慌てふためくアンジェリカに大声で叫ぶと、バカ! と言われてしまった。 

 

 だって仕方ないじゃないか、アンジェリカの口からサヨナラは聞きたくなかったんだから。


 別れるのが辛くて涙で滲みかけた視界を無理矢理拭う。


 アンジェリカから半ば強引に奪ったリボンを握り締め、ロンダークさんが待っているだろう北門まで振り向くこともせずにひたすら走りぬけた。

活動報告に双太陽神教シリーズのすでに他作品で公開済みの確定時系列をアップさせて頂きました。ネタバレ注意です。そろそろあのイベントに追い付くかな?と見ていただいている方は楽しいかもしれません。

また新作でコメディ短編を一つ投稿しましたので気が向きましたらご覧ください。

題名

『あっち向いてホイ!そのチート回収させていただきます!』


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