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忘年会の……

 やっと起き出したトーマスさんにアンジェリカが喝を入れ、割り当てられた露店スペースへやって来れば、まだ早朝にも関わらず沢山の同業者が開店の準備を始めているようだ。


「さぁ稼ぐわよ!」


「そうだね。 沢山売れると良いね」


 両手を握りしめて気合十分のアンジェリカに相槌をうちながら、売り物の雑貨や布地を並べていく。


 一通り並べながらもが、トーマスさんの顔色は優れない。


「今年はちと厳しいなぁ」


「どうしましたトーマスさん?」


「周りを見てみろ、似たような商品を売る露店商が見事に固まっちまってる。 こうなるとな、どうしても客は目移りしちまうんだよ」


 頭をガリガリと掻きながらぼやくトーマスさんの言う通り、あたりを見渡せば雑貨や布地を売る露店が多い。


 トーマスさんの心配は店を開けてからさして時間が立たないうちから見事に的中してしまった。


「スープ用の良い皿はあるかい?」


「いらっしゃいませ、こちらの木製の皿はいかがですか」


 トーマスさんの目利きは確かで、取り扱っている物は私の目から見ても品質が良いものだとわかる。


 お客さんがきて対応して見ても、店の品物を眺めるだけで中々購入には至らなかった。


「あー、やっぱりこうなるか」


「売れないね」


 三人でため息を吐きながら手元の木製の皿をひっくり返した。

 

「トーマスさん、この皿って他にもありますか?」


「あぁあるぞ、その皿がどうかしたのか?」


 高台の畳付をなぞり、製法なのか僅かに中心に向かって高台内が傾斜している器、トーマスさんの差し出した器も同じように円錐状に高台内がくぼんでいるようだった。


「トーマスさん、すいません箸……真っ直ぐな木の棒ありませんか?」


「木の棒……これなんかどうだ?」


 渡された棒は太さが親指と人差し指をくつけた位の太さがある材木だった。


「えーと、ちょっと太いですね……これくらいの長さで太さがこれくらい……」


「これなんてどう?」


 身振り手振りで伝えているとアンジェリカが菜箸のような長さと太さの棒を持ってきてくれた。


「これ、加工したらまずいかな」


 アンジェリカから棒を受取りマジマジと確認する。


「何に使うつもりか知らないけど、好きにして良いわよ」


「やった! もう一本あったりしない?」


「あるわよ、ほら」


 二本目の棒を受け取ってお許しが出たので小振りのナイフで手早く棒の先端を円錐状に削り出していく。


「よし、出来た」


 出来上がった棒を不思議そうに見つめるアンジェリカにちょっと見ててねと告げて露天の外通路へトーマスさんから預かった皿と出来上がったばかりの棒を持ち、店の前にでた。


 はっきり言って前世では冬の忘年会で当時の同僚と散々練習したけれど、シオルの身体になってからはやったことがないから上手くできるか分からない。


 店の前を行き過ぎる人々を見ながら、深く大きく深呼吸を繰り返す。


「よってらっしゃいみてらっしゃい!」


 声を張り上げた私に、なんだなんだと視線が集まる。


 女は度胸! ……女じゃないけど、とにかく度胸!


「これより大道芸を始めるよ!」 

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