謎の卵
おかしい……私に迷子の才能は無かった筈だ。 いくら広大な敷地を要する学園だとしても、先程から全くといって良いほど人とすれ違わないのはいかがなものか。
この学園、害獣駆除も授業に取り入れているため、学園の裏手には実習の場として、深い森を有している。
古代遺跡もあるとシリウス伯父様が話してくれた。
古代遺跡は何らかの天災や滅亡などで地下に埋没してしまった遺跡が、ながい年月を経て再び地表に入り口が現れた物だ。
とにかく老朽化が激しくて、壁や天井がパラパラ落ちてくる。魔物なんて生き物が湧いてくると言うこともなく、もちろんドロップ品なんてファンタジー要素は残念ながらない。
それでも古代遺跡には現代では失われた文字で示された書物や、用途不明の道具類や埋蔵金等が得られるから潜る人は後をたたない。
防衛のためなのか、おっかない罠が満載だし、棲みかにしている生き物も多数いて危険を伴う。
古代遺跡の中で亡くなった方の遺体から武器や装備が手に入ることもしばしば。
遺跡を住みかにする毒を持つ生き物もたまに襲ってくる。魔法なんて便利な物が存在しないため、解毒薬の持ち歩きは必須だし、生き物によって毒が違うから何種類もの解毒薬を持ち歩かなければならず大変なんだそうな。
で、なぜそんな説明をしているのかと言いますと、穴に落ちました。
人を探してうろうろしてたら足元が崩れてそのまま落下。
辛うじて落下中に張り出した床の一部に手をかけて落下途中で止まることが出来たけど、それでもだいぶ深いところまで落ちたようだ。
足元に広がる暗闇はまだまだしたまで続いているため、足元……股間が寒くなる。
一先ずいつまでもぶら下がっている訳にもいかないので、身体を揺らして私が掴んでいる床の次の階層に助走をつけて飛び移った。
明かりのない古い通路には光が入らず、かといって明かりを灯す物も持ってはない。
床に散乱する崩れ落ちた壁や天井の破片をよけながら、神経を集中して通路の中央を慎重に歩く。
壁沿いに歩けば迷路は抜けられるらしいが、視界が効かない以上もし毒虫や蛇が壁にいて触ってしまっては危ない。
帯剣していた愛剣を鞘のまま、床や壁に這わせて障害物を確認してゆっくりと着実に進んでいく。
足元を走るネズミや天井に張られた蜘蛛の巣を避けながら暫く進んだ所で大きく開けた場所に出た。
天井から光が漏れて筋となり部屋を明るく照らしているようだった。
そうして部屋の奥に見付けたのは巨大な塊、私の腕と同じほどの長さがある羽根が無数に部屋に散らばっている。
恐る恐る近寄れば、それは既に食い散らかされ干からびた巨大な鳥……だったもの。 鳥の身体の下には小枝が大量に敷き詰められまるでこの鳥の巣だったのではないかと思う。
巨大な身体でまるで何かを守るように抱き抱えたまま亡くなったのだろう。 羽毛の下には割れてしまった卵の殻が見受けられた。
それなりに時間が経過しているようで、無事中身から雛として産まれた落ちたのか、それとも産まれることなく割れてしまったのか……。
白い卵の殻の奥に、色合いの違う卵を見付けたのは偶然だった。
それは薄いピンク色をした物で他の殻とは明らかに色が異なる。
触ってみればほんのりと暖かなひび一つ無い掌を広げた位の大きさのある卵を、これも何かの縁として持って帰ることにした。




