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 ジリジリと躙り寄りジェリコとの距離を詰めていく。


 どうしても大人と子供では攻撃できる範囲に差が出る、腕の長さはそれだけで強力な強みだ。


 間合いも何も考えずひたすらジェリコに斬りかかっては地面に転がされるアールベルトを見ていたら、間合いをはかることが馬鹿らしくなり、真っ直ぐに巨体に向かい特攻した。


「むっ、来たな!」


 途端にこちらへ体勢を直したジェリコの足元へ滑り込んだ。


 自分よりも身体の大きな者と対峙した場合まともにやり合えば私のような身体の小さい者は力負け必須。


 木剣で巨体を支える脛を狙って斬り付けると、軽すぎる木剣は意思に反して剣筋がブレる。


 巨体に似合わず軽い動作で木剣を飛び越えて躱すと同時に、持っていた木剣で私の背中に向けて振り下ろす。


「ハハハッ! 容赦なく急所を狙うとは、貴殿の師匠はえげつないのぅ。 しかしまだまだ!」


 咄嗟に転がり剣を躱すと、地面が抉れた。


 ちょっと! その威力で一撃貰ったら怪我するわよ!


「やぁ!」


 尚も斬り込むアールベルトの木剣をあしらいながらご機嫌な様子で相手をするジェリコの背後に回り込む。


「アールベルト! 身体を低くして素早く動くぞ! 小回りは俺たちの方が上だ! 狙うなら足だ!」


「おう!」


 助言に反応して身を屈め、それまで狙っていた上半身から攻撃対象を足の甲へと切り換えた。


「ムッ! 下半身ならまだしも足を狙うとは!」


 まるでダンスのステップを踏むように華麗に避けるジェリコの背中に向かって走りよる。


 自分の足元へ視線がいっている今なら視界は効かない。


 足音を殺して走りより背後に飛び蹴りを仕掛けるとこちらを一切向かずに伸びてきたジェリコの左手に蹴り出した右足首を掴まれ、ぶら下がる。


「なんで!?」


 ジェリコの行動に先程まで足元を動き回っていたアールベルトの動きが鈍る。


 それもその筈だ、アールベルトもまさか止められるとは思っていなかったはずだから。


 ジェリコはひょいッと犬猫でも捕まえるようにアールベルトを捕らえると自分の目線に合わせるように私たちの身体を持ち上げて見せた。


「よしっ、捕まえましたぞ。 二人ともそんなに殺気を出していては兎一羽も捕られられませんなぁ。 目を閉じていても丸わかりですぞ」


 ニカッといい笑顔のジェリコは私たちをそれぞれの保護者である自国の騎士に手渡すと、御待たせしましたと言ってミリアーナ叔母様に頭を下げた。


「なんの、では参ります!」


 今から!? ちょっと待って! 叔母様ドレスですけど!?


 いつもの男装ではなく、社交の場に相応しい足元まで隠れる緑色のドレスと十センチはあろうピンヒールのハイヒール姿で優雅にジェリコへ礼をとる。


「ドレスのままで宜しいのですか?」


「えぇ、問題ありませんわ。 これがこれから私の戦闘服となるのですもの。 常に殿方と同じような服を纏う訳にはまいりませんしね」


 レイナスでは基本的に男装だったが、そうかまぁ、仕方がないよね。


 歌劇団の男役みたいで格好良かったんだけど。


「成る程、武器は何に致しますか?」


 ジェリコが木剣に目を走らせると、ミリアーナ叔母様は自身の腰元から得物を引き抜いた。


 一瞬短剣かと思ったがパサリと開かれた華美な装飾の施された扇。


「鉄扇か!」


 重さを感じさせない動きで開いた扇で口許を隠すとにっこりと微笑んだ。


「えぇ、本当は長剣位の尺があればと思うのですけど、実用性に欠けるのですわ。 馴れればこちらの方が扱い易いですしね」


 ニッコリと微笑むとではと言うなり、ジェリコに踏み込んだ。


 ミリアーナ叔母様は格下の相手には自ら踏み込む事をせずに待つ。


 つまりジェリコは格上だと言っているようなものだ。


 鉄扇による連撃を見事な木剣捌きで受け流しながらの攻防は激しく、見物していた人々を熱狂させる接戦を繰り広げ、周囲の熱気が渦巻くなか、ミリアーナ叔母様の鉄扇が木剣で弾かれ地面に落ちる。


「勝負ありですかな?」


「まだまだ!」


「そこまで~! 全くうちの奥さんは、他の男に素足を見せちゃ駄目だっていつも言ってるのに」


 履いていたピンヒールを脱ぎ両手に1つずつ構えたところで掛けられた声にミリアーナ叔母様は飛び跳ねんばかりに驚き、そろそろと背後を振り返った。


「くっ、クライン、会談は終わったのか?」


 視線の先にはいつも以上に眉間に血管が浮かび上がっていそうな恐ろしい形相のアルトバール父様と銀色に輝くストレートの髪をした美青年が微笑んでいた。


「えぇ、終わりましたよ? すぐに待っているはずの妃を迎えにいったのですが、残念なことにだれもいませんでしたけどね? 何故でしょう?」


 紺碧の瞳の青年はジリジリと距離を詰めていく。


「いやぁ、可愛い甥っ子と遊んでいただけだぞ? 接待も立派な仕事だよな? 妃の!」


「そうですね。 剣を振り回して接待するのがレイナス流ですか? 義兄上」

  

 傍らに立つアルトバール父様を見上げた青年に、父様は首を振り否定する。


「我がレイナスは武に通じる者が多いですが、客人相手に大立ち回りはしませんね。 いつどこで誰からそんな教育を受けたのか、一度じっくり話し合いきっちりと確認する必要がありそうですね」


 目の前の青年こそクラインセルト・ドラグーン陛下、十四歳でドラグーン王国の王太子になりこの度の婚姻を期にドラグーン王国の国王に即位された我がミリアーナ叔母様の夫君だったりする。


 現在はすっかり成長されたようで、初めて会った時のボーイソプラノな美声は成長し、声変わりを果たした今は低さの中に甘さを加えた大人の魅力満載だ。


「お願いいたします。 私も今夜じっくりと確認いたしますので」


「ひっ! いや、その、なんだ……」


 クラインセルト陛下はジリジリと後ずさるミリアーナ叔母様を笑顔で追い詰めながらも、ジェリコに視線を向けて礼を述べる。


 なんで私の周りにいる人達は揃いも揃って怒るよりも笑っている顔のほうが怖い人が多いの!?


「マーシャル皇国のジェリコ・ザイス殿ですね。 王妃が迷惑をかけたようです。 改めて感謝申し上げる」


「いえ、こちらも王妃殿下には大変有意義なお時間を戴けました。ありがとうございます。 改めてこの度の御婚礼及び御即位誠におめでとう御座います」


 闘神殿は巨体に似合わず優雅に礼をとると、祝辞を陳べた。

 


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