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迷える闘神

 医師の診察を受けて晴れて健康体だとお墨付きをいただいたので、現在ミリアーナ叔母様の膝の上にいる。


 婚礼の儀式は私が寝ているあいだに終わってしまったらしく参列しそこなった。


 はぁ、見たかった。 こちらの世界の婚礼の儀式……。


 その上、今回の誘拐未遂事件の事情聴取を笑顔が怖い赤鬼と化した父様の威圧に耐えながら行われ、罰として室内軟禁が言い渡された。


 はぁ、もう外に行きたいです。


「ん? どうした?」


 小さなタメ息をつくと、ミリアーナ叔母様は此方を覗きこんで聞いてきた。


「外に行きたいです!」


「行けば良い」


 何でもないことのように返されて目の前のテーブルに撃沈した。


「父様に外室禁止令をもらいました……」


「あぁ、シオルは真面目さんだな? シオルが言い渡されたのは“外室禁止令”だろう? 城内は“室内”だぞ?」


 ガバッ! っと顔をあげるとニヤニヤとした笑顔のミリアーナ叔母様を見上げた。


「なんなら私が城内を案内しても良い」


「叔母様愛してる!」


 首もとに飛び付くとひょいっと身体を持ち上げられてしまった。


「実はな、婚礼のついでに近隣の王族が集まっているから首脳会議中なんだよ。 それで今各国の優秀な騎士や護衛達が武術交流会を行っているんだ。 私は頭より身体を動かす方が得意だからそちらに参加したくて逃げてきたんだ」


 迷うことなく石畳を進むと、何処からか聞こえてきた歓声と熱気にミリアーナ叔母様を急かす。


 日頃教練や鍛練を王宮の騎士たちの訓練場は沢山の人で埋め尽くされていた。 


「うちの国からも参加してますか?」


「参加してるわ。あそこに……、そっかシオルの身長じゃ見えないわね……。」 


 はい目の前にはごつい男性のお尻が壁のように反りたってます。


「これでどう? 見えるかしら?」


 不意に両脇をガシッと掴まれてミリアーナ叔母様の右肩の上へ乗せられると一気に視界が開けた。


 前世では高層ビルやジェットコースターなんかで高い場所には免疫があると思ったけど細身の叔母様の肩の上は歩くたびによく揺れた。


 落ちないよう咄嗟にミリアーナ叔母様の頭にしがみつくと声をあげて笑われた。


「あっ、シオル! もう出てきて大丈夫なのか?」


「おはよう! そっちも元気そうだな!」


 人の間をすり抜けてこちらにやって来たアールベルトに暢気に手を挙げると、ミリアーナ叔母様が地面へ下ろしてくれた。


 アールベルトは私を見るなり腕を絡めるようにして拘束し、ぐいぐいと人込みの中へ連行していく。


「ちょっと、どこにいくのさ!」


「良いからつき合え、武術交流会に俺も出たいんだが、同じくらいの年齢のやつが居ないからって参加させて貰えないんだよ!大人相手に勝てるとは思ってないけど、子供二人ががりなら大人が相手してくれる」


 へー、ほー、ふーん。 でも。 


「そっかがんばれ! 応援するよ。 じゃ!」


 対戦相手らしい巨漢の筋肉達磨にスキンヘッドの小父さんを見付けた時点で逃げ出すべく身体を反転させた。


「逃がすか! 折角マーシャル皇国の『迷える闘神』殿が相手をしてくれるのに、こんな機会を逃してたまるか!」 


 迷える闘神って誰だっけ?


 首を傾げると、うがぁー! と『迷える闘神』殿について熱心に語り始めた。


 『迷える闘神』殿は本名をジェリコ・ザイス殿と言ってマーシャル皇国の黒近衛隊大将殿らしい。


 何処までが真実かわからないが数々の武勇伝と共に、多大な欠点を持つことから二つ名を有しているらしい。


『迷える闘神』


 全ての敵を薙ぎ倒す武勇と彼は残念な事に稀に見る方向音痴であるらしい。


 そんな相手に挑むとか無理でしょう! 絶対にこの人父様やミリアーナ叔母様の同類だもん。


「本当にやる気か? 出来ればやりたくないんだけど。」


 嫌々な私の手に木剣を押し付けると私を道連れにアールベルトがジェリコ殿の前に立った。


「ほう! これはこれは小さき挑戦者だ」


「はい! 胸をおかりしたいです!」


 元気に緊張しているらしく直立したアールベルトの頭を木剣て叩く。


「痛いなぁ! 何すんだよ!」


「緊張し過ぎだよ。 身体が強張れば動けなくなるよ? 怪我する」


「その通り! 私で良ければ相手になりましょう」


 白い歯をキラリと光らせたジェリコに、うきうきと後ろからついてきたらしいミリアーナ叔母様が声をかけた。


「この子達が終わったら私の相手もしてもらえないだろうか?」


 微笑む叔母様の様子に自分がダシに使われた事を知る。


 絶対に自分が『迷える闘神』と戦いたいだけだ。


「これは王太子妃殿下! この度は御結婚おめでとうございます。 私のような者で宜しければお相手させていただきますよ」


「ありがとうございます。 さぁ、子供たち盛大に散ってこい!」


 そう言うと私とアールベルトの背中を人込みの中心になっている舞台の上へ押し出した。


 絶対に自分が早く戦いたいだけだよね。


「シオル! 行くぞ!」


 木剣を身体の正面に構えたアールベルトに急かされて、いつも父様に教えられている通りに剣を構えると、ジェリコ殿の纏う空気が一転した。


「ほう! その小さき身体でその胆力は見事! どこからでも掛かってこい!」


「はい!」


 間合いも何もなく斬りかかって行ったアールベルトに唖然とする。


 いや、駄目でしょう! 斬られるって!


 懸命に振りかざす剣の重みに振り回されているアールベルトをあしらうジェリコ殿はなぜかこちらから警戒を外さない。


 構えを解いて肩や首など身体の強張りをほどくと木剣を構え直した。


「いざ参る!」


 小さく告げて私はジェリコ殿へと突進した。 


  


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