立候補者が多すぎる……
やって来ました訓練場!
ここ数年何かと物騒だったこともあり訓練場には今日も国と自分の大切な誰かを守るために、我が国の騎士達が身体を鍛えております。
うん、鍛え抜かれた鋼の肉体美からは湯気が立ち上ぼり、何度見てもむさ苦しいばかりですが、それが良いのだと一体何名の女性が気がついているでしょうか?
ガシャガシャと甲冑の音をたてながら訓練場に足を踏み入れたとたん、突如現れた真っ赤っかの不審者に騎士達の視線が突き刺さって痛いです。
「やっぱり目立つね、これ」
最近では戦場での実践を想定してシルバーのプレートアーマーを着用して行う訓練もあるため、防具の着用事態は珍しくない。
深紅で艶々した鎧が目立つだけで。
「えぇ大変目に痛い鎧でございます」
この甲冑を造った職人二人が揃って頷いている。
「まぁ、良いんじゃないですか? 危険人物がいる場所が分かりやすくて」
リヒャエルが上げた両手を頭の後ろで組んで悪びれなく言った。
「危険人物じゃないわい!」
ぎゃいぎゃい騒いでいれば騎士達から離れて、ひとりが近づいてくる。
「その変わった格好の御仁はどなたですかな?」
目の前までやって来たのは我が国の騎士達の総大将で、前ハスティウス公爵家の当主だ。
ミリアーナ叔母様の夫になったゼストの父親で、ミリアーナ叔母様が亡命しレイナス王国へ帰国した時に、きな臭くなってきていた世界情勢に対応するため当主の座を結婚した嫡男に譲り渡してレイナス王国軍の総大将としてこの国を守護している。
我が父の片腕でもある壮年の偉丈夫だ。
「バルドメロ大将、修練お疲れ様です、兵騎士達の練度はいかがでしょうか?」
顔をおおっていた鬼の仮面を外して見せれば、バルドメロは驚いたようすで目を見開いた。
「これはこれは、誰かと思えばシオル殿下ではありませんか。 その奇抜な衣装はどうなされたのですかな?」
「実はキャロラインが考案した新しい鎧なんです」
そう言うとバルドメロはゆっくりと造りを観察するように私の回りを一周した
。
「我が軍の鎧とはずいぶんと作りが違いますな、ずいぶんと身体を守る面積が少ないようですが」
「えぇ、これは東の果ての島国に伝わる伝統的な鎧ですわ。 動きやすさを……」
バルドメロに自慢げに両手を広げて甲冑の素晴らしさを熱弁し始めたキャロラインを放置して、こちらを興味深々で見詰めている騎士たちに視線を向けた。
その目は真新しい甲冑に釘付けで、楽しい玩具を見つけた子供みたいに興奮している。
これぞ戦闘狂レイナス王国軍、彼らの心の声を代弁するならば、きっとこう思っていることでしょう。
前世の金髪に変化する戦闘民族のように、おら、ワクワクするぞっ……と。
「この新型の鎧の性能を試したい。 誰か相手をしてくれないか?」
そう問い掛ければ、何人もの騎士たちか一斉に立候補を示すために挙手をする。
その数さっと数えても五十名以上、はっきり言ってそんなに要りません。
しかもちゃっかりリヒャエルと年甲斐もなくバルドメロまで挙手をしている。
「はぁ……私ばかり武装していても防具の差は確認できないからね、フル装備と刃を潰した剣を着用して私の前に戻ってきた順番が早い者から十名までを対象にする! 解散!」
私の言葉に一斉に騎士たちが訓練所を飛び出していく。
やはり熟練の騎士たちは動きに迷いがなく一目散に駆けていった。
「はぁ……常の訓練でもあれほど熱心に参加して欲しいものだ」
バルドメロのため息混じりの言葉に上にたつものの気苦労が見える。
「全くです」
互いに苦笑しながら、騎士たちが戻って来るのを待つことにした。