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戦乱の代償と新しき王

 レイス王国とドラグーン王国の衝突は方々の予想を大幅に裏切り短期決戦のうちに決着がついた。


 ドラグーン王国の兵達がレイス王国との国境に進軍した隙を狙い、あらかじめレイス王国の兵達を行商人とその護衛に偽装させ、大量の兵糧とともにドラグーン王国の王都内外に潜伏させていた兵達が手薄になった王宮に攻めいったのだ。


 電光石火のうちに最低限の被害のみで新ドラグーン王家は謀叛から僅か九年で亡ドラグーン王家と化した。


 それはまぁ良い……問題はアールベルトはドラグーン王国を滅ぼしたが、妹捜しで忙しいためドラグーン王国をレイス王国に取り込むつもりが皆無だと言うことだろうか。


「この国は悪き反逆者の悪政により苦しめられてきた、しかし王が倒れたこの国をレイス王国に併合するつもりはない。 なぜなら正統な王位継承者がいるからだ」


 自ら刈り取った王の生首を王都の広場に面した城のテラスから晒して疲弊しきった国民に宣言したらしい。 


「賢王クラインセルト王亡き後、ミリアーナ王妃は反逆者の手を逃れ、母国にてクラインセルト王の第一子であるクライス王子を産みご健勝であられる」


 アールベルトの言葉にクラインセルト王が善政を行っていた時代を思い出したのだろう。


 国民達のクライスとミリアーナ叔母様への期待は前王家への失望感と反比例するように上がっていく。


「私はここに宣言する! クラインセルト王の実子クライス殿下を新たなドラグーン王国の国主に迎え我がレイス王国はクライス陛下の後見となりこの国が本来の豊かさを取り戻せるように支援する」

 

 この宣言のせいでレイナス王国はいま大混乱だ。


 クライスは確かに正統なクラインセルト王の血筋だし、ミリアーナ叔母様やクライスが望むのなら、私も父も全力で後見するだろう。


 しかし年齢以上にしっかりとした子供だとは言え、クライスへの重圧は想像以上だろう。


「クライス、お前はどうしたい?」


 なんにせよドラグーン王国へ戻るにしろ、レイナス王国で過ごすにしろ決めるのはクライスとミリアーナ叔母様だ。


 アールベルトからの書状を受けて国王陛下は自らの執務室で二人を呼び出した。


 ミリアーナ譲りの蜂蜜色の瞳と視線と合わせるようにしゃがみこんだアルトバール陛下がクライスに問いかけた。


「ドラグーン王国は今、前王の悪政の影響で荒れ果てている。 正直にいえば国王の座についても苦労が絶えないだろう」


 ゆっくりとクライスにわかるように丁寧にドラグーン王国が置かれている状況を説明していく。


 一緒に執務室へとやって来たミリアーナ叔母様はクライスに決めさせるつもりのようで、一切口を挟まなかった。


「クライスがレイナス王国で暮らすことを望むなら私たちは全力でお前達を守るし、王座につくと言うならばレイス王国同様後見となり復興支援を惜しむつもりはない」


 優しい声音で語り掛ける陛下の顔をしっかりと見て話を聞いていたクライスは自分の後ろにいるミリアーナ叔母様へ顔を向ける。


 その姿に肯定するように頷くと、クライスは笑顔になり陛下へと向き直った。


「母上と私を護って亡くなった父上の国を見てみたい。 先王に虐げられたてしまった父上の愛した国民を護りたいと思います」


 はっきりと告げられたクライスの決意は、きっと事前にミリアーナ叔母様と話し合っていたのだろう。


「そうか、では寂しくなるな」


 クラインセルト譲りの銀色の滑らかな髪を梳くように撫でながらも陛下は甥の成長を喜んでいるようだった。 


「陛下、実はドラグーン王国に戻る前に認めていただきたい事がございます」


 それまで黙っていたミリアーナ叔母様が口を開く。


「何が望みだ?」


「クライスと同行してドラグーン王国へ行こうと考えていますが、元王妃として戻るつもりはありません。 ロンダークの娘であるシエラと友にビオス伯爵夫人として同行しようと考えております」


 正統な王位継承者はクライスだが、まだ彼は幼い。


 ミリアーナが王太后として戻ってしまっては権力が分散し、また要らぬ争いの火種になりかねなかった。


「しかし赤子を抱えた私一人ではクライスを支えるのは困難です、そこでロンダークの喪が明けましたならビオス家に婿を取り共にドラグーン王国でクライスを支えとうございます」


 そう述べたミリアーナ叔母様の言葉に迷いは感じられない。


「……愚問だが一応相手の名を聞いておこうか」


 まぁ、あの人しかいないだろうなと思いながらもミリアーナ叔母様の返事をまつ。


 他国に嫁いだ叔母様への初恋を嫁いだ後に自覚し、婚約者に土下座してまで婚約を解消して一時期ハスティウス公爵から勘当された。


 後生大事に一途すぎる想いを抱えたまま結婚もせず、帰国したミリアーナ叔母様をロンダークに娶られてもなお叔母様を支え続けた男の姿が目に浮かぶ。


「ハスティウス公爵家の三男ゼスト・ハスティウスをビオス伯爵家の婿に迎えたいと思います」


 この会話から一年後クライスの意志を尊重しできる限りの援助を約束して送り出した。


 クライス国王の誕生である。


 

お読みいただきました読者の皆様、 寒い日が続きますのでどうぞお風邪など召されませんようご自愛をお祈りいたします。


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