ずぶ濡れデート
二人で腕を組みながら竜舎へ向かうと、先に戻ってきていたサクラが竜舎から少しだけ離れた場所にある泉で日課の水浴びをしている筈だと竜舎の管理と竜の生態について研究している学者の男性が教えてくれた。
剥き出しの地面に足をとられてアンジェリカが転ばないようにエスコートしながら森林を進んでいく。
これまでの事を話しながら歩けば、あっという間に目の前が開けた。
大きなサクラが飛び込んでもまだ二頭は同時に入れるほどの大きさがある泉の中央からサクラの背中だけが水上にでている。
「サクラ!」
「ぐぅ?」
岸辺から少しだけ離れた場所まで二人で近づき声を掛けると、ザバっと水しぶきを上げながらサクラが、顔を出した。
水浴びをしたおかげか深紅の鱗が太陽の光をうけてキラキラと輝いている。
サクラが身体を起こしたことで泉の水が波打ち岸を越えて草地に広がるのを見ながら、離れたところに居て良かったと安堵する。
まるで身体にまとわりついた水滴を弾くように身体や翼を震わせると、水滴がこちらまで飛んできたのでとっさにアンジェリカの前に出て濡れないようにその身体を庇った。
「サクラ、濡れるだろ? 水浴びを邪魔してすまない。 どうしても改めてサクラにアンジェリカを会わせたくてついてきてもらったんだ」
「サクラ! アンジェリカだよ覚えてる? うわぁ〜さっき空から下りてきた時も驚いたけど、竜ってほんの数年でこんなに大きくなるんだね」
感嘆の声を上げるアンジェリカにサクラはゆっくりと身体を寄せていく。
「触ってもいいの?」
アンジェリカに問われた言葉を理解しているのだろう、グゥと低く小さく鳴くと、撫でやすいように頭を下げてみせた。
「ありがとう! うわぁ〜スベスベしてるかわいい! ねっ、シオル」
サクラの身体を触りながら嬉しそうにしているアンジェリカが可愛くてドキリと胸が大きく高鳴る。
満面の笑顔で振り返ったアンジェリカへ無意識に伸ばした手は、大人っぽくハーフアップにして巻き上げた柔らかな茶色の髪の毛に触れる。
「うん、すごく……可愛い」
手のひらを擽る髪の毛に触れるか触れないか唇を寄せれば、アンジェリカの顔がかぁぁっと赤く染まっていく。
「そっ……そうだね〜」
ギギギッと音がしそうなほどぎこちない動きでアンジェリカがサクラの身体に抱きついた。
「ぐぬぅ……色気だだ漏れ……」
「ん? なんか言った?」
「なっ、なんでもないわ!」
小さな小さな声は聞こえなかったし、それ以上問い詰めようと距離を詰めると竜のくせにため息をついたサクラに服を咥えられて泉へ放り投げられた。
「うわぁぁ!?」
ボチャンと水しぶきを上げて着水したせいで全身びちゃびちゃだ。
「サクラ!」
避難の声を上げれば、プイッとそっぽをむく愛竜はバサリと羽ばたくと自身も泉に飛び込んだ。
「サクラまて!」
私の静止よりもすばやく飛び込んだサクラが上げた水しぶきで近くにいたアンジェリカが頭から泉の水を被り、せっかくのドレスも髪もグッシャリと濡れてしまった。
「ぷっ……アハハハっ、サクラやったわね!」
気にする素振りを放り出し、ドレスのまま泉に飛び込んだアンジェリカにギョッとして泳ぎよる。
アンジェリカを抱き上げて岸に上がる。
「アンジェリカ、ドレスのまま飛び込んだら溺れるよ!?」
「溺れたら助けてくれる?」
苦言をしようとしたけれど屈託なく笑うアンジェリカの笑顔をみてやめた。
「もちろんだよ……私のお姫様」
どちらともなく合わせられたわずかに触れる程度の口づけに愛しさがこみ上げる。
サクラに頼み、ずぶ濡れで城まで戻った私達は二人揃ってリステリアお母様に怒られ、それぞれ風呂に放り込まれたことは言うまでもない。