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知らぬは本人ばかりなり

 再会を果たした私達は本来の予定通り陛下の応接室まで移動することになった。


 今まで色っぽい噂の一つもなかった王太子が上機嫌にご令嬢をエスコートしているものだからあちらこちらから遠目に野次馬が集まっている。


「ねぇ、なんかすっごく見られてない?」


 そわそわと落ち着かないアンジェリカが可愛い。


「アンジェリカが可愛すぎるんだよ」


「お世辞は結構です……でもありがとぅ」


 ぐはぁ、久しぶりにツンデレいただきました。


 そんな私達の様子をミリアーナ叔母様はニコニコしてみてくれています。


 本来ならまっさきにロンダークを死なせてしまった事の謝罪をするべきだったのに、アンジェリカに会えて舞い上がり後手にしてしまうと言う大失態を犯した私の謝罪は見事に断られました。


「これでロンダークの願いを叶えることが出来そうだわ、だから義母としてお願いします。 アンジェリカは私とロンダークの大切な義娘です。 泣かせるようなことがあればわかっていますね?」


 笑顔なのに凄まじい威圧を発したミリアーナ叔母様にコクコクと必死に頭を立てに振る。


「そうね、あとは……あの人のお墓参りに行ってあげて頂戴。 それに謝罪はこの国の王太子である貴方を立派に守りきったあの人に失礼よ? 彼の死に報いるためにも長生きして彼の分まで私達が幸せに暮らせる国を造ってちょうだい」


 そう言われたら猛烈に涙が溢れそうになって慌てて顔をそらす。


 びぃびぃ泣く姿を好きな人に見られるなんて嫌だ。


 アンジェリカに弱った姿を見せたくないなんて私もすっかり男性になったもんだ。


 辿り着いた応接室では既に陛下が香り高い紅茶で一服していた。


「おっ、ちゃんと会えたんだな。 話もろくに聞かずに敵前逃亡するとか、鍛え直さなければならないな」


 ニヤニヤとした笑いを浮かべる陛下の顔は明らかに全て知っていてわざとだまっていたのがありありと伝わってくる。


「アンジェリカがロンダークの養女になっていたなんて知りませんでしたよ、なんで教えていただけなかったのですか?」

  

 皆の反応を見る限り私にのみ秘匿されていたのだろう。


「アンジェリカがレイナス王国の学園に居ると知ったら我慢できたか?」

 

「……それは」  


「それこそなんだかんだ理由をつけて学園に顔を出したり、浮ついて仕事どころじゃなくなるだろうが」 


 陛下の指摘に言葉に詰まる。


「だからドラグーン王国から帰ってきたものの、レイナス王国の学園に入る事なく今日まで?」


「そうだ。 人脈は別に学園でなくても作れる、その代わりに各分野の専門家の個別指導を受けまくっただろ。 アンジェリカ嬢と言う餌に頑張ったからなお前は」


 反論出来ない……凄く良いように利用された気がするけど反論できなさ過ぎる。


 実際私が頑張れたのは隣に座るアンジェリカを妻に、正妃にしたいがため……貴族への根回しやらなにやら

各方面から反対を抑える為に奔走しまくった事実があるのだから。


「ちなみにアンジェリカはいつからレイナス王国へ?」


「四年前かな、俺の勅使として彼女に意志の確認とお前の隣で戦う覚悟を問いにいった」


 四年……そんなに前から同じ国にいたのに気が付かなかったとは……


「平民から王太子妃になるのは伊達じゃねぇ、それは王太子として生きてきたお前が一番のよくわかるはずだ。 ひとり親元を離れて本来なら幼少期から詰め込まれる内容をわずか四年でミリアーナが納得する程に修めたアンジェリカの根性と努力は俺ですら尊敬に値する」


 そうして陛下はアンジェリカに優しげな視線を送った。


「困ったところもある息子には、アンジェリカ嬢の様なしっかりとした嫁のほうが良いだろう。 アンジェリカ嬢こんな息子で良ければこいつがフラフラして歩かないようにしっかりと首根っこ掴んで尻に敷いてやってくれないだろうか?」


 実の息子相手に酷い評価だが、甘んじて受けよう。


 アンジェリカが嫁になってくれる、その事実さえあれば他はとりあえずどうでもいいとさえ思える。


「ふつつか者で至らない点も多々あると思いますが、ご期待に添えますよう努力して参りたいと思います」


 このひと月後、私とアンジェリカは正式に婚約を結ぶ事となり、次の双太陽か登る初夏に国を上げて挙式をする事で話が決まった。


「さてアンジェリカ、屋敷に帰りましょうか?」


「えっ!?」


 話は終わったと言わんばかりのミリアーナ叔母様に、つい不満の声を上げてしまい陛下に笑われた。


「ミリアーナ、せっかく来たのだリステリアがそなたに会いたがっていたし、臨月も近い事だ、そう急がず明日ゆっくりと屋敷に戻りなさい」


 目に見えて狼狽した私を見かねた陛下の言葉に顔を上げる。


「ふぅ、仕方がありませんわね、シオル殿下、結婚前の我が義娘に手を出したら承知いたしませんからね」


「はい! アンジェリカ」


 ミリアーナ叔母様に満面の笑みを向け立ち上がり、アンジェリカをエスコートするべく手を差し出す。


「サクラに会いに行きませんか?」


 あのあと私を放置して飛び立ったサクラに、改めてアンジェリカを紹介したい、そしてもう一人……


「はい、国王陛下、お義母様、御前を失礼致します」


 きちんと貴族の令嬢としてふさわしい礼をしたアンジェリカに続いて私も退室を告げサクラが戻ったであろう竜舎へ向かった。

ブックマーク、評価、ご感想いただきました皆様ありがとうございます。作者の執筆の励みです。これからも宜しくお願いいたします。

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