セイン様の目標は
奴隷少年ことエイト君の様子を見に行く前にロブルバーグ様にセイン様の容態を確認するために、私はお二人が滞在している離宮へ足を運んだ。
はじめは王城内の貴賓室に部屋を提供していたのだけれど、周りに人が多い……と言うか血の気が多く賑やか過ぎるうちの騎士や武官並みに喧嘩っ早いヤンキーばりの文官達が闊歩する城内は療養には不向き。
そのため現在では警備に不具合が出ない離宮に居を移している。
面会の申込みはすぐに許可されたため、二人が居るという小さな中庭に案内される。
中庭には小さな池もあり、木々の隙間から柔らかに降り注ぐ木洩れ日がキラキラと反射して美しい。
そんな中庭に直接テーブルと椅子を持ち込んで二人はお茶の時間だったようだ。
「お加減はいかがですか?」
私の為にカークが急遽用意してくれた席に腰を据えるとシルビアが香り高い紅茶を淹れてくれた。
「おかげさまですっかり良くなりました。 もう心配はないと話しているのですが、どうも私の周りは過保護が多くて苦慮しておりますよ」
苦笑いを浮かべるセイン様の顔色は明るい。
この国へ着いたばかりの頃はアルビノである事を考慮しても病的に真っ白だった。
暖かな気候と食事も前より召し上がる量が増えたようでロブルバーグ様や護衛兼側仕えのシルビア達もレイナス王国に来てから張り詰める様な雰囲気が、いくぶんか柔らかくなった気がする。
「過保護のぅ、ならさっさとシオル殿下の半分くらいは丈夫になることじゃ。 セイン様はヒョロヒョロと細すぎて転べばポキっと折れそうじゃからな」
紅茶を啜りながらロブルバーグ様が答える。
「そうそうポキっと折れませんよ、こうなったらレイナス王国の騎士たちに混じって身体を鍛えようかな」
う〜ん、流石にうちの脳筋達の中にセインを入れるのは危険なんじゃないかな……
『お辞めください!』
私がなにか言うよりも先にシルビアとスケイルが声を揃えて止めに入った。
「そうですね、まずは身体を治していただき、王城内の庭園を散歩されてはいかがでしょうか。 なんならキャロラインに案内をさせます。 散歩をして体力をつけ、次に走って庭園の外周を一周出来るようになって、さらに城壁の内周りを休まず走り抜けるようになってから騎士達の修練に参加されてはいかがでしょう?」
城壁内とは言ってもかなりの広さがあるため、さすがにそれをこなせるようになれば修練に必要な最低限の体力はつくだろう。
見習い騎士の採用試験ではじめにさせられるのがこの長距離走だから。
「では当面の目標は騎士の修練に参加することにします」
拳を握りしめなにやらやる気になっているセイン様は生き生きと生気に溢れ輝いている年相応の青少年だった。
「無理はせんようにの」
「では城壁内の長距離走を達成された暁には私も一緒に参ります。 そろそろお暇いたします。 じつはこれから行くところがありまして」
「ん? どこに行くんじゃ?」
実は……と奴隷の子として扱われていたエイト少年を保護した件を説明していくにつれ、次第に険しくなるロブルバーグ様御一行。
「実はこれから様子を見に行こうかと考えております」
「儂も一緒に行こうかの」
「では私も参ります」
なぜかセイン様とロブルバーグ様まで立ち上がってしまった。
「えっ、ですが」
さっさと出掛ける支度を始めだした主従に困惑してしまう。
「ほれ、さっさと案内してくれ」
「行きますよ」
「はっ、はい!」
積極的な二人に急かされるように私達はエイト少年の所に向かうこととなった。