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ダブルソレイユファンタジー

 キャロラインが話してくれた『ダブソレファンタジー』とは『ダブルソレイユファンタジー』の略称らしい。


「ダブソレはハードカバーで出版された異世界ファンタジーで、コミカライズとアニメ化もした物なの」


 キャロラインの言葉から飛び出したハードカバーやコミカライズ、アニメ……少なくとも私には理解できる。


 アニメやコミカライズについて説明し始めたキャロラインの言葉を遮り自分は地球の日本で産まれたと話せば、キャロラインは泣きながら私の手をガシッと掴みブンブン振った。


「うれしー! 私も日本人! 同郷だなんて!」


 とりあえずわからない単語が出てきたらその都度確認すると言うことで話を続けてもらった。


 そして一つわかったことがある。


 私が亡くなった時代よりキャロラインは先の時代を生きていたらしい。


 それでも地球の……しかも同じ日本出身者に異世界で出会える確率は一体どれほどだろう。


「私も嬉しい」


 心からの気持ちを乗せてキャロラインに微笑み告げる。


「そっ、それでなっ、なんの話だっけ?」


 明らかに動揺しながらもどうやら話を戻す事にしたらしい。


「ダブソレファンタジーについて教えて?」


「そうそう! ダブソレね」


 元々キャロラインも好きなことについて語る癖があったが、きっとこの癖は前世の性格を引き継いでいたのかもしれない。


 目の前で情熱的にダブソレを語り出したキャロラインの話を垂れ流すと、数時間掛かりそうなので、まだ語り続けるキャロラインの話を聞き流し、必要そうな内容だけを意識の中だけでまとめてみる。


「つまり、『ダブソレファンタジーの主人公はキャロラインで、ドラグーン王国留学中に行方不明になった兄のシオルを探しながら各国の王子や高位貴族の子息と恋愛し、女王となった際の王配を見つける』で合ってる?」


「そう! 王配候補達と協力してドラグーン王国の地下にある古代遺跡で巨大なバジリスクを倒して白骨化した兄上の遺体を見つけ、レイナス王国へ連れ帰り埋葬後世継ぎに指名され女王となるはずなんだけど……」 


「生きてるね私」


 バジリスクとはドラグーン王国でロンダークの手を借りて倒したあの大蛇のことだろう。


 脳裏に蘇る三角と菱形の中間のような顔の深紅の巨大な蛇と身重のミリアーナを守るために命を張ったクラインセルトの姿を思い出した。


 苦い苦い記憶は薄れることなく鮮やかに蘇る。


 嬉しいことや楽しい記憶は薄れるのに、失敗したり後悔した記憶は鮮明に思い出せるのだ。


「本来なら古代遺跡に何らかのアクシデントで転落し、ひとりで地下を彷徨った挙げ句亡くなるはずなんだけど」


「多分サクラのおかげかな、サクラの卵は古代遺跡にあったから」


「キュイ?」


 自分の名前を呼ばれてサクラが私の服の中から顔を出した。


「ダブソレに竜は存在しない筈なんだけどね、お前どこから来たの? お兄様を助けてくれてありがとう」


 キャロラインが白い手をサクラに寄せるとサクラはどういたしましてと言うようにペロリとキャロラインの手をひと舐めしてまた服の中の定位置に入り込んだ。

 

「なんにしてもお兄様が生きて美青年に成長している時点でダブソレのシナリオ破綻してるわ。 レイス王国の慈愛の王子は妹狂いの残虐王なんて言われ始めてるわ、お兄様ひとり生き残っただけでどれだけフラグへし折ったの?」


 そんなことを言われても正直、自覚が無いので曖昧に流しておく。


「そっ、そうだ! キャロ今からサクラと私と空を飛びに行かない?」


「えっ!? 良いの!? ドラゴンに乗れるとか流石異世界クオリティ」


「それには完全に同意するよ」


 二人で前世の事をひとしきり語らい、私達はキャロラインの部屋から出て外に向う。


 庭園のある程度広さがある場所までやってくると本来の成体の姿に戻った。


「記憶が蘇ってからこうやって見ると、サクラは西洋のドラゴンよね、手足があって背中には被膜の翼、中国とかの蛇に翼が生えた龍とは違うわね」


 緑豊かな庭園に佇む深紅の竜はそれだけで一枚の洗練された絵画のように美しい。


 サクラは早く乗れと言わんばかりに地面に身体を伏せた。


「いこうキャロライン!」


「行きましょうお兄様!」


 その後初めてのドラゴンフライトに興奮し騒ぎすぎたキャロラインがサクラによって空中で放り出され、命綱無しでバンジージャンプを経験し、二度と乗らないと明言する事になったのだった。

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