熊汁
降り止むことがない雪の重さに耐えかねて枝に降り積もった積雪がドサリと小さな音を立てて地面に落ちる。
やはり馬車に人二人乗せたまま運ぶのは危険だと判断したのか、サクラはロブルバーグ様とセイン様をさっさと他の先行組の護衛達と一緒に国境を越えた先にあるソリの製作でお世話になった街に送り届けた。
何往復かしたので次は騎馬で移動するみんなと誰も乗っていない馬車を掴んで国境を越えるのだ。
既に騎乗を終えた騎士達にサクラの上から視線を走らせる。
「出発!」
私の号令とともに大きな朱色の翼を羽ばたかせ、サクラの身体が重力に逆らって浮き上がる。
双太陽神教のシンボルである二羽の白鳥が金糸で刺繍された幌を付けた馬車にの車体を器用に掴み大空へ舞い上がる。
やはり上空は地上のように風を遮るものがないせいか、寒気に急速に体温を奪われているようだ。
眼下に広がる。森を追従するように巧みに馬を操り新雪を蹴散らして雪煙を上げて護衛達がしっかりと付いてきている。
高度を上げず森の木々から。サクラの身体一つ分上空を飛んでいく。
ふと、視界の端に護衛達とは違う一団を見つけ、こちらを指差し何やら騒いでいるようだった。
もしサクラの持つ馬車に気がついたならば大成功だろ。
双太陽神教会の馬車が謎の生き物に襲われたとなれば、きっと追手が来てもそうやすやすとは国境を越えて追っては来られまい。
眼下を確認すれば誰一人遅れることなく付いてきているようだ。
途中遭遇した熊を護衛達がヒャッハーとまたたく間に打ち取るのを見て思った。
この世界の熊は冬眠しないのだろうか……
そして休憩ではまだ誰も踏んでいない新雪を金属の小鍋に入れて携帯燃料と白樺の木の皮で火を起こして煮立たせ、華麗な手際であっという間に捌いた熊肉を煮始めたと思えば携帯していた味噌をポイポイ鍋に放り投げて即席で熊汁野菜なしを作りホクホク顔で食べ始めた。
少々乱暴に馬車を地上へ下ろし、地面に降り立った途端元の肩乗りサイズと化したサクラと向えば、すぐさま私の分を渡される。
野性味あふれる熊汁は冷え切った身体に染み渡る。 欲を言えば野菜も入れて、まだ見つけていないが生姜も入れて食べたい。
肩乗りサクラに熊汁から肉を拾い口元へ運ぶと嬉しそうに小さな口で一口で食べた。
……小さく見えても間口は広かったようです。
しかし熊を仕留めてから料理まで護衛達のあまりの手際の良さには脱帽としか言いようがないのだが……
しっかりと腹を満たした騎士たちはキッチリ火の始末を終えて捌いた残りの熊肉を麻袋に入れてそれぞれの馬具に吊るし騎乗する。
血の匂いに誘われて他の獣が寄ってくるのではと心配したが、袋で匂いが抑えられ、逆に臭気の強い解体場所へ集まるから大丈夫だそうな。
「さぁ行くよ!」
私の声がけに反応するように駆け出し、私達は無事にドラグーン王国へと脱出に成功した。