あ〜、忘れてた……
目立った襲撃もなく無事に国境の街まで来ることが出来たが、スノヒス国とドラグーン王国の間に広がる森を越えられず足止めをくらっていた。
なんでもリヒャエルが聞き出してきた情報では、半月以上前から通行禁止になっているらしい……なんでも空を飛ぶ巨大な赤い謎の未確認生物が森に棲み着いてしまったらしい……
うん、忘れてた……間違いなく私のせいだわそれ。
ダラダラと冷や汗を流しながら視線を彷徨わせる私の反応を不審に思ったのか、今晩借り受けた宿の部屋で真面目なカークが聞いてきた。
「どうなさいましたか?」
「謎の未確認生物……サクラなんです」
「あ〜、なるほど!」
名前を呼べば「呼んだぁ?」とばかりにパタパタと背中の翼を動かして室内を滑空し私の肩に降りるとスリスリと頬を擦り寄せた。
ふむ、可愛いなぁ雄だけど……うちの子一番可愛いなぁ。
「しかし封鎖は困ったの、しかも総太陽神教大司教のペンダントを見せても通れんとは」
「そうですね、街道ではなく山を越えますか?」
渋面のロブルバーグ様にセイン様が、告げた。
「この前の山越えはあくまで街道を使用し、吹雪に見舞われずに済んだから遭難しなかっただけです、しかし街道を封鎖された状態で立木が密集した森を単騎ならともかく馬車でははいれませんよね」
整備されていない獣道は馬車が通れる程の車幅が確保できない。
「逆に考えれば国境さえ越えてしまえば改新派の連中もやすやす追ってはこれまい。 ならやはりサクラ殿に馬車を運んでもらい、馬は単騎で騎士たちで山駆けするかの」
ロブルバーグ様のあっけらかんとした言葉に緊張感が抜けていく。
「聖下……簡単におっしゃりますがそれを実行する身にもなってくださいよ」
単騎駆けメンバー入りしそうなスケイルがボヤく。
「何を言う、何なら儂が単騎駆けしても……」
『辞めてください』
護衛達全員に止められ余計な発言をしたスケイルがカークに首に太い腕を回されギリギリと締め付けられている。
「カーク、落ちる落ちる!」
「意識を落とすなんて鍛え方が足りないですね、不用意な発言をするくらい暇ならレイナス王国の騎士方にでも遊んでもらいますか?」
「すみません……以後気をつけます……」
さすがにうちの脳筋騎士達の玩具になるのは嫌なようだ。
「なんならサクラに運んでもらう馬車に総太陽神教会関係者だとわかるように幌でもかぶせましょうか」
「それもいいな」
シルビアの案にフライサルが短く同意する。
「ではその案で行きましょうか、決行は早朝。 今晩中にシルビアさんとフライサル、うちのリヒャエルはサクラと国境を越えます」
「わかった」
指示と視線を向ければきちんと頷いてくれる。
「馬車にロブルバーグ様とセイン様を乗せてサクラが飛び立ったあと直ぐに他の者が単騎駆けで山を越えます。 あえてゆっくりとサクラに飛んでもらうから見失わないように」
部屋に集まる護衛達ひとりひとりの顔を確認する。
『御意』