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サクラの悪ふざけ

 幸いにもゾディアック枢機卿の襲撃以降、改新派の追手はなく私達は聖都から地上まで脱出することができた。


 チラチラと雪が振り続けているものの、降雪に視界を遮られる程ではない。


「セイン様、ロブルバーグ様このままレイナス王国の騎士達のいる街まで移動します、大丈夫ですか?」


 大丈夫ですかとは聞いたものの、追手の事を考慮すれば出来るだけ聖都から離れたい。


「儂は問題ない。 セイン様は?」


「問題ありません、移動しましょう」 


 体力的に不安がある二人が大丈夫だと判断したため、一行は事前に保守派の信者が用意してくれていた馬車の保管場所へ移動する。


 降り積もった新雪に足を取られて体力が急速に削り取られて行く。


 やはりご老体とか弱いセイン様には雪の中を進むのは酷だったらしい。


 もしもの時はやはりサクラに頑張ってもらって、せめてソリがある街まで運んでもらった方がいいかな……


「おいあれ!」


 苦労して移動した前方に黒煙を上げて燃える物を見つけて進行を止める。


「あっちゃぁ、やっぱりオルヴァが隠し場所の情報を流してたか」


 ポリポリと寒さに赤ら顔になった頬を掻いてスケイルが嘆息した。


「他の移動手段も改新派の手に掛かっていると考えたほうが良いかもしれないな」


 カークの言葉に他の護衛たちも同意する。


「ちょっと失礼します」


 そう告げてリヒャエルとクロードだけを連れて少しだけ双太陽神教主従から声が聞こえない程度に距離をとった。


「どうする?」


「殿下次第です」


「だよな」


 ふたりから返った答えに苦笑いを浮かべる。


「実際この雪原を馬車無しで移動するのはロブルバーグ様とセイン様のお体を考慮すれば難しいと思われます」


 クロードの真面目な返答に頷く。


「なのでサクラ!」


 なに? と言ったように私の服の中から顔を出したサクラの黒曜石のような黒い瞳を覗き込む。


「お願いがあるんだ、少し大変かもしれないけど皆をレイナス王国の騎士たちが滞在している街まで運んでくれないかな」


「グゥゥ」


 不満げに唸るサクラの喉元をくすぐるように撫でる。


「頼むよサクラ、そうだなぁ……この旅が終わったら一日時間をもぎ取るから二人でサクラが好きなだけ空を飛ぼう?」


 まだ不満げではあるが、納得してくれたのかサクラは私の側から離れてもとのサイズに変化した。


 真っ白な雪原に深紅の竜体が映える。


「なっ!? どこから現れた! 聖下、セイン様お下がりを!」


 突然現れたサクラにシルビアが短剣を構えて臨戦態勢になったので間に割り込む。


「剣を収めてください!」


「殿下危のうございます下がって」


 私はサクラに駆け寄り抱きついた。


「彼は大丈夫だよ」


 サクラを見ながらセイン様がシルビアを宥める。


「彼? セイン様……サクラは雄なんですか?」


 そう問えばセイン様は頷くと、ゆっくりとシルビアの背後から出てきたセイン様がゆっくりとこちらへやってくると、深々と頭を下げた。


「空の覇者であるサクラ殿のお力をお借りしたい、我らを街まで運んではくれないだろうか」


 暫く頭を下げたまま動かないセイン様の様子を見ていたサクラに私も声を掛ける。


「サクラ、お願い」


 そう言って縋り付いた竜体に額を擦り付ければ、仕方がないなぁと言わんばかりにため息を吐いたサクラは私の服を噛むと、首を回して私を自分の背中に乗せた。


「サクラっ、ありがとう!」


 背中にすがりつけば、大きく力強い翼を広げて羽ばたいた。


 どうやらはじめに運ぶ獲物を軟弱そうなセイン様とシルビアに決めたらしい。


 低空飛行で滑空し二人を片足に一人ずつ掴むと空へと飛び立った。


「きゃぁぁあああ!?」


「凄い……すごいすごい! 大地があんなに下に……」


 混乱状態で悲鳴を上げるシルビアとは対照的にセイン様は初めてみる上空からの大地の景色に喜んでいるようだ。

 

 その様子になぜかいきなり降下し始めたサクラにシルビアは悲鳴を上げ、セイン様は大喜びだ。


「サクラ……わざとやってるでしょう」


 どうやらシルビアに短剣を向けられた仕返しをしているらしいサクラはどうやら意識を失ったらしく大人しくなったシルビアとハイテンションのセイン様を連れて街の近くの雪原に降り立った。


 わざと柔らかな雪面にシルビアの顔面を向けるように降ろしたため、息苦しさと冷たさにシルビアの意識が戻ったらしい。

  

「すぐ戻ります!」


 ロブルバーグ様のところまで取って返した私達は何度も往復し全員を運び終わった夜半、揃って目立たないように街へと入った。

 

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