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坑道の出口に居た者

 光苔(ひかりごけ)の発する明かりで薄暗いが視界は確保されている坑道内を皆で進んでいく。


 はじめこそ自分で歩いていたロブルバーグ様とセイン様は地力の体力が少なく呆気なくギブアップしたため、今はカークとスケイルが二人を背に乗せて悪路を疾走中だ。


 今のところ改新派による襲撃は無い。


「しかしいくら手習いと言ってもよくガラス工芸の技術者を他国に出すことがゆるされましたね」


 カークに背負われているロブルバーグ様に問いかける。


 答えようとしたようだが、舌を噛んだようで悶絶している。


 どうやら揺さぶられながら話をするのは流石に無理があったらしい。


「保守派の総意あっての判断ですから問題ありません。 この度の改新派の愚行は高額な利益を生み出すステンドグラス工芸技術を独占するのも目的の一つですから」


 ニッコリとそう言ったのはカークと交代して前を走っていたシルビアだった。


「嫌がらせとしては十分だよね〜、安心してください。 脱出さえ無事に出来れば懸賞金付きで指名手配を掛けられることは無いですから……むしろ」


 出口らしい場所までたどり着くと殺気を迸らせたフライサルとシルビアが武器を構えて外へ飛び出した。


「暗殺かな?」


 出入り口の外では武具に身を包みニタニタといやらしい笑みを浮かべた人相の悪い浮浪者、傭兵と言った風情の者達が百名あまり待ち伏せていた。


「おやおや死にぞこないの老害がいったいどこへ行くのですかなぁ……敬虔な信者のためにもきちんと殺して棺桶に戻さなければなりませんなぁ」


 屈強な男達の中に、場違いな双太陽神教会の枢機卿を示す二羽の白い鳥が刺繍された分厚く内側に毛皮があしらわれた外套をブヨブヨと肥え太った身体に纏ったゾディアック枢機卿がそこに居た。


「ほふほっふぉ、そんな老害ならわざわざ殺さんでも放置しても良いだろうに」


 カークの背中から地面に降りたロブルバーグ様がよろける。


 戦闘になる可能性が高いからかセイン様もスケイルの背中から降りてオルヴァの側に移動する。


「さっさとその男を捕らえろオルヴァ」


 ニヤニヤしながらゾディアック枢機卿が告げた名前……


「申し訳ございません!」


 後ろを振り返ればオルヴァがセイン様の首筋に短剣を押し当てていた。


「オルヴァ!? なにを……」


「殺れ!」


 オルヴァの裏切りに動揺する護衛一行の様子に好機だと感じたのだろう、ゾディアック枢機卿の号令に、彼の後ろに控えていたゴロツキ立ちが一斉に武器を振り上げ襲いかかる。


「やっぱりこうなりますかぁ」 


「ご命令を殿下」


 スラリと腰に佩いた長剣を引き抜いたクロードとリヒャエルはどこか嬉しそうに見える。


 これだからうちの国民は脳筋やら戦闘狂って言われるんだよね。


「思いっきり暴れてこい!」


『御意!』


 私の横をすり抜けてリヒャエルとクロードが走り抜け、突撃していく二人とは真逆にシルバを引き抜き駆け出した。


「来ないでください!」


 セイン様を拘束したまま私を牽制するオルヴァに姿勢を低くして一気に距離を詰め短剣を持った方の細腕を掴む。


 ぎりぎりと力を込めてセイン様から引き離すように自分の方へ引き寄せれば、オルヴァは痛みに顔を歪めて短剣を離した。


 くるくると銀色の軌道を描きながら落下した短剣が地面に突き刺さる。


「セイン様は無事です! ロブルバーグ様もこちらへ!」


「シオル殿下ありがとうございます、これで人質を気にせずに悪党を懲らしめられます」


 セイン様とロブルバーグ様の安全を確保した途端それまで防戦ばかりだった護衛達が攻勢に転じた。


 と言うよりクロードとリヒャエルが一度に五人ずつ相手にしている。


「ロブルバーグ様の護衛の皆さん強いですね」


 オルヴァを彼女がウエストを調節していた長いリボンで両手首を背中で縛りあげリボンをウエストにも巻き付けて逃げられないように固定する。


「そうじゃろう? みなもともとは孤児や奴隷じゃ、いろいろあって懐かれてからは老いぼれ爺の世話を焼いてくれる優しい子たちじゃ」 


 まるで自分の孫を自慢するように告げるロブルバーグ様の視線を辿れば、それぞれ戦い方に違いがあるが、やはり護衛達は強い。


 カークは剣術の基本的な動きを踏襲しつつも、それに投げ技や相手の軸足を取り姿勢を崩したりといった柔術に近い動きで敵を倒していく。


 スケイルはきっとレイナス王国の剣術バカ達に引けを取らない剣術の使い手であることが、見て取れる。


 どうやら弓兵が居たらしく自分に飛んできた弓矢を剣ではじき返したようだ。


 スケイルとカークはレイナス王国に行ったらきっと嬉々とした騎士達の玩具にされそうだな……合掌。


 そして……


「ロブルバーグ様、フライサルさんに捕まると武器にされるんですね」


 屈強な筋肉を見せつけるように、敵をその剛力で捕まえると、敵の身体を振り回し薙ぎ倒す肉弾戦法はこれまた派手だ。


 ぶん投げた敵がシルビアに斬り掛かろとしていた敵にクリーンヒットして飛んでいく。


 シルビアはその身軽さを活かして敵の背中に回り込み一人ずつ意識を刈り取っているようだ。


 百人居たゴロツキ達はそのほとんどが地面に臥せってしまっている。

 

「くそっ!」

  

 遠目に劣勢に転じたことで逃げ出そうとするゾディアック枢機卿の姿を見つけたため、サクラに二人の護衛を頼み駆け出す。


 足元に転がるゴロツキを避けて、斬り掛かってくる者はシルバでいなす。


「どちらへ? ゾディアック枢機卿」 

  

 進行方向に回り込み剣を構える。


「どけ!」


 震える手に装飾過多な短剣を握りこちらに突進してきたゾディアック枢機卿の腕を手刀で叩けば、短剣はあっけなく地面に落ちた。


 拾われないように手が届かないところまで蹴り飛ばしゾディアック枢機卿を地面に転ばせて拘束する。


 あたりを見ればゴロツキ達もほぼ壊滅できたように思う。 


「離せ! 私を誰だと思っている! ゾディアック枢機卿だぞ!」  


 なおも暴れるゾディアック枢機卿の背中を強めに踏みつければ、うめき声だけで多少静かになった。


「ロブルバーグ様、どうしますかこれ?」


 離れた場所にいるロブルバーグ様に声を掛ければ、戦闘を終えたフライサルを呼び寄せてなにやら指示を出しているようだった。


 私達が聖都プリャを脱出して間もなく、裸に剥かれたゾディアック枢機卿は大聖堂の外壁に逆さ吊りで吊るされ、神子及び教皇暗殺の罪により改新派への見せしめに処刑されたらしい。

 


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